第12話 予定人間、陽キャグループに潜入する

「ねえ、日野君。ちょっといいかな」


 僕は日野グループに話しかけた。


「ほう?」


 王である日野は、興味深そうに僕を見る。


「これは驚いたな。下田君が俺に話しかけてくれるとは思わなかったよ。何の用かな?」


「つーかさあ、下田君って喋れたんだね。ウケる~」


 今泉の発言に、ドッと笑い起きた。

 ウケが成功した事で、彼女は自慢げな表情となっている。


 おいおい。これはいじめじゃないんすか?

 さっき言ってたのは、なんだったんだ。

 それとも、これは陽キャのいじりってやつなんで、セーフなんすかね?

 都合、いいっすね。


 今泉いまいずみ志穂しほ。やはり恐ろしい女だ。

 このクラスで二番目の権力を持ち、その攻撃的な性格で場の雰囲気に幅を利かせている。


 普段の僕なら、ここで怖気づいてしまうだろう。

 だが、今の僕は予定という最強の武器がある。

 対応プランは無限大。

 というわけだ。

 問題は無い。


「日野君、月山さんに誕生日サプライズをするんだよね? 僕もそれに混ぜてほしいんだ」


「なるほど。ついに下田君もサプライズの良さに目覚めたわけだな!」


「うん、実はそうなんだ!」


 全くビビらない僕を見て、むしろグループの皆が戸惑っていた。


 なんだこの陰キャ?

 俺たちが怖くないのか?


 そう言っているように見える。


「僕、最近は月山さんと仲がいいんだ。だから、彼女を喜ばせてあげたくてね」


「へえ~。そうなんだ。でもさぁ。下田君みたいなおとなしい子がさぁ、私らのグループでやっていけるかな~? うちのグループ、厳しいよ?」


 何が気に入らないのか、今泉が厳しい視線で僕を睨み付けてくる。


 って、面接かよ!


 今泉サマによる圧迫面接が始まってしまったみたいだ。

 これも陽キャのノリなのか、周りはゲラゲラと笑っていた。


「てかさぁ。下田君、もしかして月山さんの事が好きになっちゃったとか? あの子を使って色々とエロい妄想してんでしょ? ほら、正直に言ってみ? 陰キャ君?」


「………………やだな~。そんなことしないよ~」


「お? どしたの? ちょっとノリ悪くない? 大丈夫? このノリについていける?」


 ち、こんな事を言われるのも予定通りなのに、一瞬だけ『不快感』が表に出てしまったか。

 僕もまだまだ未熟だ。

 しかし、正直に言ってしまえば、何が面白いのか全く分からん。

 陽キャ様のノリは永遠に理解できそうにないわ。


 臆することなく下ネタが言える私らって凄くない? みたいなアピールなのだろうか。

 まあいい。予定を遂行するのに余計な雑念は不要。

 心を無にして対応していこう。


「あはは~。ごめん。陰キャの下田君にこのノリは、ちょっときつかったか~」


「大丈夫! 今は慣れてない陰キャだけど、陽キャになれるように頑張るさ!」


 大げさにガッツポーズをとる僕に、さっき以上の大笑いが起きた。

 よし。これも予め決めておいた予定の台詞通りだ。うまくいった。

 ちなみに今泉はそんな周りを見て、忌々しい目で睨み付けてきた。

 なんだよ、盛り上げてやってるんだから、いいだろ。怒るなよ。


「ははは、下田君は面白いな。今泉君もあまり張り切りすぎないように。下田君が困ってしまうぞ?」


「わ、分かってるよぅ。冗談だし~」


 日野の言葉でいきなり態度を変える今泉。

 さすがに『王』には絶対服従らしい。


「ちょっとサバサバしすぎたかな~? 下田君が本気にしちゃったか。陰キャってすぐにマジになっちゃうからな~。空気はしっかり読んでね。みんなが困っちゃうよ?」


「ありがとう。空気を悪くして、ごめんね」


 なぜか僕が悪いという形で決着がついた。

 まあ、こう言われるのも予定の範疇。

 適当に対応していこう。

 その後も予定を駆使して、このノリについていく。

 違和感が出ないように、全ての予定をフル活用だ。


「っ!」


「む? 下田君、鼻血が出てるぞ。大丈夫か?」


 脳が熱暴走を起こして、鼻血が出てしまった。

 ちょっと頑張りすぎたか。

 だが、これも予定していたパターン。

 和ませる方向で動く。


「ごめん、ちょっと張り切りすぎちゃったみたいだ。へへへ」


「なるほど、下田君は頑張り屋なんだな。良い事じゃないか」


 王である日野の発言で、僕を馬鹿にするような雰囲気が薄れていく。

 奴に助けられるとは、中々に複雑な気持ちだ。


「…………」


 そんな時、月山と目が合った。

 不安そうな表情で僕を見ている。

 あの日、サプライズを潰すと宣言した僕を、彼女は必死で止めてきた。


 『自分が我慢すればいいだけ』


 それが彼女の言葉だった。

 確かにそれが最も簡単な解決法だろう。


 でも、僕はそれが納得できなかった。


 どうしても月山を傷つけるサプライズが許せなかった。

 だから、僕なりの方法で必ずサプライズは潰す。

 これはもはや月山の為の戦いじゃない。

 僕の為の戦いだ。


 だからこそ、彼女に責任は一切ない。

 サプライズが正義というこの『世界』へ、予定人間からの反乱なのだ。


「まあ、今日は解散だ。月山君の誕生日サプライズの詳細は、追って説明しよう」


 王の宣言で本日の予定はこれにて終了だ。

 とりあえず、グループに溶け込む事は達成できたと思う。

 ここからが本当の正念場だろう。

 サプライズの弱点を探すのだ。

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