第8話 月山凛はとにかく不器用

 そのまま僕たちはファミレスに入る。

 昼ご飯を食べつつサプライズ対策を練る予定だったが、こちらの方は問題無く進みそうだ。


「へへへ~。サプライズをやっつけるぞ~」


 昼食を終えて、やたらと上機嫌の月山。

 なんだか分からないが、そんな月山を見るとこちらも嬉しくなってしまう。


 サプライズの対策というよく分からない予定なのだが、僕もそういう変な予定を進めるのが好きらしい。

 月山も同じだとすれば、嬉しく思う。


 今回のサプライズ対策。実のところ、やる事は非常にシンプルだ。

 来週の月山の誕生日。

 日野は間違いなく昼休みの5分後にサプライズを仕掛けてくる。


 そして、そのタイミングで用意していた台詞を言うだけ。

 正直、わざわざ一日を使って対策をする必要も無かったかもしれない。


「う~ん。あたしにできるかな?」


「せっかくだし、ちょっと練習してみようか」


「そうだね。やってみよう」


 僕がサプライズをして、月山がそれに対応できれば完了。

 何も問題はあるまい。

 ちょっと寂しいが、これでサプライズ対策は終了となるだろう。


 その後は……ちょっと時間があったら遊びたいな、なんて予定も作っているが、それは彼女の気持ち次第か。


「さて」


 軽く咳払い。

 そして、少しの沈黙の後、僕はちょっとだけ大きな声を出した。


「サプライ~ズ!」


「ひえ!?」


 僕の声を聞いた月山は、硬直してしまった。


「い、いきなり脅かすの、無し!」


 いや、それだと練習にならないのだが。

 しかも、ファミレス内なのでかなり声を絞ったつもりだぞ?


「本番はもっと大きい声なんだけど。しかも、大量のクラッカー音とかある」


「う、そうだった」


 完全に青ざめている月山。

 以前の事がトラウマになってしまっているのか、思ったより対応が難しくなってしまっているみたいだ。

 これは、まさかの難航してしまうパターンだろうか。


「もう一回、やってみるか」


「わ、分かった。大丈夫、今度は頑張る!」


 意気込みだけは立派な月山。

 ちょっと台詞も調整して、更に簡単にしてみた。


「サプラ~イズ!」


「ウ、ウ、ウワー。ア、ア、アリ……アリガト~」


 こ、これは……なんというか、ロボット?

 やばい。思った以上に違和感だらけである。

 気まずい沈黙が流れる。

 口を開いたのは月山だった。


「えっと、下田君。今の、点数をつけるとしたら、何点?」


「……30点」「5点」


 僕と月山が同時に答えた。

 月山さん、セルフアンサーです。

 ちなみに僕が30点、月山が5点だ。

 その後、ちょっとだけジト目となった月山が僕を見る。


「本音は?」


「……………………5点」


 お互いの本音は5点。

 この瞬間、僕と月山の気持ちが通じ合った。

 やったね!

 …………よくねーよ。


「やっぱりこれだと、まずいよね」


「絶対に前みたいに、色々と言われるな」


 まあ、文句を言われる事自体がおかしいのだが、今はそういう賛否を論じている場合ではない。


「どうしよう」


「そうだな。例えば最終手段として、ひたすら笑ってやり過ごすのというのはどうだろう?」


 笑顔は究極の武器である。

 女の子なんだし、ニコニコしていれば、首尾よく終わらせる事ができるんじゃないだろうか。

 そう思って、同じく本番を想定して、笑顔の練習をしてみたのだが……


「…………(ヒクヒク)」


 めちゃくちゃ引きつっている!?

 違和感ある笑顔の世界選手権とかあったら、確実に優勝できるレベルだ。


 どうやら、サプライズをされた時の事を想定して笑顔を作っているようだが、その顔は完全に土砂崩れを起こしていた。


「逆に考えよう。心を無にするんだ。月山は今、サプライズなどされてはいない。自然を想定して、笑ってみるんだ」


「…………ねえ、一つ質問してもいい?」


「なんだ?」


「笑顔って、どうやるんだっけ?」


 駄目だ!

 意識しすぎて笑顔の作り方を忘れてしまっている!!!

 これはもう、完全にアウトのパターンだ。

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