2章 自由で強くて我儘な彼女はどうしてもサプライズを喜べない
第7話 予定人間の初デート?
翌日、僕は30分前に待ち合わせ場所に到着していた。
「よし、今日の予定は完璧だな!」
今日は月山とのサプライズ対策の日。
本日の予定は、完全に埋め尽くされている。
いつもだったら、僕一人で予定を実行するだけなのだが、今日は月山と二人で予定を進めていくのだ。
一瞬、デートなんて単語が頭によぎってしまった。
変人の僕にそんな贅沢品など永遠に関わりのない事柄だろうに、ちょっと浮かれてしまっているようだ。
そのせいなのか、柄にもなく徹夜で張り切ってしまった。
いつも以上に予定は『完璧』である。
そろそろ時間だ。残り5分で予定開始時刻となる。
さあ、予定を始めよう!
と、そう思った時、僕の携帯にメッセージが届いた。
『ごめん! ちょっと遅れる!』
なん……だと? 遅刻?
なんだよ、それ。それじゃあ、僕の予定はどうなる?
徹夜で仕上げたんだぞ!?
ふざけるな! 僕の完璧な予定に傷をつけるつもりか!
許さない。絶対に、許さないっっ!
と、このような感じで切れる奴がいるとしたら、そいつは二流の予定人間である。
一流の予定人間は、この程度でうろたえない。
言っただろう。予定は『完璧』だと。
完璧な予定は、崩れないから完璧なのだ。
そもそも、一つの予定だけで現実が回るわけがない。
予定が落ちた時の為に、二重にも三重にも予備の予定表を作っておくのが基本だ。
僕は今日、月山が遅れる予定もきちんと作っていた。
ただそれに切り替えるだけ。僕の予定は何も変わらない。
もちろん、月山が遅れなければ当初の予定プランAで行くつもりだった。
今回は遅れたので予め作っておいた予定プランBに変更する。
最初に予定さえ用意しておけば、僕みたいな底辺人間でも無敵になれるのだ。
これぞ『極めた』予定。
徹夜で仕上げたんだ。むしろこの程度は序の口である。
何度でも言ってやるが、サプライズは嫌いなんだ。
そんなのが直撃したら、気絶してしまう。
だから月山が遅刻する『サプライズ』などさせはしない。
これも『予定通り』として組するだけだ。
こんな事も出来なくてちょっと予定がズレただけで喚き散らす自称予定人間がいたなら、そっちに腹が立つかもしれない。
と、これだけの事を客観的に見れば、その感想はやはり『僕って変人だな』の一言だ。
頭のネジが飛んでいるというか、予定人間の中でも『異常』と呼べるレベルなのだろう。
そうして30分後、慌てた様子の月山が駆けつけてきた。
「ご、ごめんっ!」
うむ。遅れた時間は30分。余裕で予定通りだ。
やはりプランBで行こう。
何も問題は無い。予定通りにこのまま進める。
「お、怒ってるよね? 予定、狂っちゃったもんね?」
月山が泣きそうな上目遣いで僕を見る。
そんな彼女について、感想は一つだ。
「……可愛いな」
「え、ええええええ!?」
これまでにない驚愕の叫び声をあげてしまう月山。
「な、な、な…………い、いきなりそんなこと言うの禁止! サプライズ、ダメ! 絶対、ダメ!」
「む? それもそうか。ごめん」
というか、本当に僕は何を言っているんだ。普通にキモイぞ。
思った事を言う月山の癖が伝染ってしまったか?
「でも、服とか……変だよね」
自信なさげな月山。
実はその通りで、彼女の服にはいくつか土埃が付いていた。
「確かにちょっと汚れているな。どうしたんだ?」
「実は…………転んじゃった」
やはりドジっ子か! ドジっ子なのか!?
ひょっとして、これが遅れた原因だったのだろうか。
しかしなんというか、違和感がある。
ずいぶんと変な転び方をしたものだ。
「でも、本当に怒ってないの? 予定が好きって言ってなかったっけ?」
「問題無い。それも予定の一つだし、想定内だよ」
「想定してたの!?!?」
「プランBだな。様々な状況に合わせて、予定表を作っているのだ」
「はえ~」
またしても調子に乗って色々と余計な事を喋ってしまったが……もういいや。今さらだし。
「これなら、サプライズ対策も完璧だね!」
月山はやはり嬉しそうな表情で僕を見ていた。
こんな変人の話が彼女にとっては面白いらしい。
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