第6話 アンチ・サプライズ

 予定人間の僕が編み出したサプライズ対策。

 それは……


「サプライズを、サプライズじゃないようにしてやればいい」


「へ? どういうこと?」


「つまり、サプライズをされる『予定』を立てればいいんだ」


「サ、サプライズされる……予定??」


 これぞ予定人間である僕専用の、究極のサプライズ攻略法である。

 サプライズが恐ろしいのは、主にである部分だ。

 ならば、この不意打ちを先読みして『予定』の一部にしてやれば、容易に対処できる。


 日野のサプライズには傾向があって、それがとても読みやすい。

 全て『逆算』することが可能である。

 何月の何日、どのタイミングでサプライズをされるのか。

 全て先読みして、『予定表』として記する事でサプライズの不意打ちを無力化できるのだ。


 日時は当然ながら僕の誕生日。

 タイミングは昼休みが始まってから5分後くらい。

 後はそれを予定表として自分の中で作り、あらかじめ決めておいた台詞を淡々と笑顔で言うだけ。


 なにも難しくない簡単な作業だ。

 これができれば、サプライズなど全く怖くない。もはやただの祝い事だ。

 あの時、僕の誕生日サプライズも、それで乗り切った。


『サプラァァァァイズ! お誕生日、おめでとうぅぅぅ!』


『うわあ、ビックリした~。僕なんかにサプライズしてくれるなんて思わなかったよ~。ありがと~。嬉しいよ~』


 始めから決めていた台詞を笑顔で言った。『予定通り』だ。

 多少は棒読みだったが、バレてないだろう。

 月山が気付いていないのなら、他のクラスメイトも同じのはずだ。

 まあ、日野だけはヒクっと、眉を揺らしていたが……気にしない。


 予定通りの時間に予定通りのサプライズ。

 そして、予定通りに用意していた台詞を言う。

 全てが僕のに沿った出来事だ。


 確かにサプライズの『直撃』を受けたら、僕は本当に気絶してしまう。これに嘘は無い。

 しかしながら、僕がそうはさせない。

 予定を極めた僕にとって、サプライズすら予定の一部として対応する事が可能なのだ。


 予定通りは気持ちが良い。

 僕が喜んでいたように見えたのも、あながち演技だけではない。

 あの時は、本当に予定表の通りに事が進んだ嬉しさに満たされていた。


 奇しくもそれが周りの人間に良い勘違いをされたらしく、最初は皆も『なんでこんな陰キャにサプライズしなきゃいけないんだよ』みたいな顔をしていたが『喜んでいるならいいか』と満足された。


 ちょっと歪な形かも知れないが、互いに納得のいく結果となってなによりだ。

 やはり予定は素晴らしい。

 サプライズなどではない。予定こそが神!!

 と、これらの内容を全て月山に話した結果、彼女の反応は……


「……………………」


 完全に絶句していた。

 あ、しまった。

 こんな話を聞いたら、ドン引きされるのは当たり前だ。

 一瞬、予定人間としての自分が変人として見られる事を忘れてしまっていたようだ。


 ここまで自分をさらけ出したのはまずかった。

 どうにも月山と話していると調子が狂ってしまう。

 せっかく仲良くなれそうだったのに、残念だ。


「凄いっっ!」


「…………へ?」


 そう思ったのだが、月山からは意外な反応が返ってきた。


「そんなやり方があったんだね! 感動した!」


 それどころか、感動している!?

 そんなに僕の話が面白かったのか??


「どうしたの? またあたし、失言しちゃった?」


「いや、僕の事、頭おかしいとか、思わんの?」


「なにそれ。少なくとも、あたしは嫌いじゃない」


 そうか。いや、僕も同じか。

 月山のそんな部分を無意識に感じ取っていたから、つい彼女には本音を出てしまうのだろう。


「サプライズ対策か。ねえ、あたしにもできるかな?」


「え? どうだろ。練習すれば、できる……かも?」


 サプライズのタイミングに関しては、僕が逆算して予定表を作ってやればいいし、後は『どう反応するか』だけを予め決めておけばいい……か?


「じゃあ、教えてよ」


「へ?」


「あたしもサプライズ対策ってのを習得したい。頑張る!」


 急に目を輝かせて両手で握りこぶしを作る月山。

 なんか、凄くやる気になってる!?


「いや、そんなすぐには……人目もあるし」


 一瞬、忘れかけていたが、近くではまだ日野グループの談笑が続いている。

 あまりサプライズ対策の話を延々と続けていたら、流石に怪しまれるだろう。


「そっか。そうだよね。それじゃ、明日の休みの予定、もう決めてる?」


「え? まだ決めてないけど……」


「よし。じゃあ明日、教えて。1日かけてやれば、大丈夫でしょ」


「ええ!?」


「ダメ……なの?」


「…………いや、いいけど」


 そんな泣きそうな顔で見るなよ!

 この子、本当に僕にだけはよく感情を見せてくるよな。


「決まりだ。ちょっと楽しみかも。へへへ~」


 今度は嬉しそうな顔。

 見ていて飽きない子である。


「これ、あたしの連絡先ね。下田君のも教えてよ」


「あ、ああ」


 しかし、妙な事になってしまった。

 まさか僕のサプライズ対策を他人に伝授する日がやってこようとは……

 僕専用のサプライズ攻略法なので『他人がやっても上手くできるか』までを考える必要が出てきてしまった。


 思ったより大変かもしれない。

 でも、同時にちょっと面白そうでもある。


 誰とも関わらないはずの僕が、他人と関わりを持ってしまった。


 しかもそれがサプライズ対策とか、こんなのやっているのは世界でも僕たちだけだろう。

 だが、それでもやりきって見せよう。

 今日ここに、アンチサプライズ同盟が結成したのだ。

 僕たちはサプライズに立ち向かい、乗り切る。

 サプライズなんかに、負けるな!

 と、なんか変にノリノリになってしまったのだが、果たして大丈夫なのだろうか?

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