第4話 サプライズは地獄

 そう、あの地獄は今から二カ月前の出来事だ。



『サプラァァァァァイズ!』



『ひっ!?』


 突然の日野からのサプライズで、完全に硬直してしまっている月山。


『コンテストの受賞、おめでとうぅ!』


『あ、えっと………………うん』


 そして、ロボットのような無表情と、ぎこちない動きで花束を受け取る。

 いきなりだったので、喜べばいいのか、驚けばいいのか、分からないといった感じだ。


「…………………………」


 そして、しら~っと微妙な空気感となる教室内。

 誰も何も発せない沈黙が長時間続いていた。


 はっきり言おう。地獄だ。この世の地獄である。


 そうした時間が続いた後、気まずそうな表情で日野は教室から出て行った。

 そして、ここからがの始まりだ。

 ご丁寧に日野が去った後に、彼の『親衛隊』の女子たちが月山に詰め寄っていた。


『ねえ、月山さん。どうしたの? せっかく日野君がサプライズをしてくれたのに、なんで無表情なの? 調子、悪かった?』


『もう少し反応してあげた方がいいんじゃないかな。あの日野君がサプライズをしてくれたんだよ? 分かってる?』


 月山を罪人のように取り囲むクラスメイトたち。

 彼女たちに対して、月山はつい『失言』をしてしまう。


『いや、あたし、あんまりこういうの、好きじゃなくて…………あ』


 慌てて口を押える月山。

 今思い出すと、思ったことが口に出てしまう例の彼女の癖なのだろう。

 だが、もう遅い。

 まるで虫が群がってくるが如く、悍ましい説教が月山を襲った。


『は? こんな盛大なサプライズをしてもらって、そういうこと言うの?』

『感謝の気持ちとか無いの?』

『賞を取って、自分が偉いとか思ってるかもしれないけど、感謝ができない子って、どうかと思うな~』

『空気、読もう? そういう努力も、大事だよ』

『全部あなたの為に言ってあげているんだよ。ねえ、聞いてる?』


『…………う』


 月山は完全に俯いてしまっていた。

 その拷問とも言える責め苦は、なおも続く。


『月山さんって、いつもそうだよね』

『クラスが一丸となって頑張っていたんだよ。その気持ちに水を差すの?』

『私たち、月山さんのためにサプライズしたのに……ぐすっ』

『あっ、志穂ちゃん。泣かないで』

『ねえ、月山さん。志穂ちゃん、泣いてるよ。なんとも思わないの?』



 これが二か月前に起きたサプライズという名のだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る