第2話 僕はクラスのバグ
「いいね~。やっぱり、サプライズって最高だよね!」
「うん。凄く盛り上がった。楽しい! まるで夢のパーティーみたい!」
話を聞く限り、このクラスに生きる人類の大半はサプライズが好きみたいだ。
特に女子という生物がサプライズを喜ぶ傾向にあるらしい。
きっとクラスでただ一人、僕という変人だけが、サプライズを嫌うのだろう。
なぜ僕がサプライズをここまで嫌うのか。理由は簡単だ。
サプライズとは予定を無視した不意打ちとも言える行為。予定を愛する僕にとって、まさしく天敵だ。
どうせ祝うのなら、きちんと予告した方がいい。相手にも予定ってのがある。
サプライズなんて非効率だと思う。普通に祝うだけでよくないか?
むしろサプライズは、相手の迷惑を考えない自己中心的なやり口まである。
無駄に驚かせば良いってものでもないし、楽しいのは仕掛けた本人たちだけだった、みたいな危険性も考えるべきだ。
ただ、この考え方はクラスにとっては異端である。
サプライズが成功し、女子から絶賛の声を受けた事で、気分を良くしたイケメンが髪をかき上げながら語り始めた。
「予定通りに生きる人生なんて、つまらない。予期せぬ出来事が起きるからこそ、人生は面白い。そうは思わないか?」
言ってくれる。まるで僕に対する皮肉のようだ。
恐らく周りのクラスメイトに対して語っているのだろうが、こっちの方をチラリと見て笑った気もする。
ちなみにこのイケメンの名前は
彼という人間を一言で表すなら、日野はこのクラスで『王』と呼べる存在だ。
俗に言うスクールカーストのトップであり、人気者だ。
ほぼ全てのクラスメイトから親しまれている。
親が医者という地位を持ち、成績がクラスでトップなのも要因だろう。
身長は高く、180センチを超えており、いわゆる高身長イケメンというやつである。
その体格もあって、体中から強者のオーラみたいなのが滲み出ていた。
妙に演技っぽい口調や仕草が特徴的で、まるで自分に酔っているような雰囲気があるのだが、それが女子からは好感触で非常にモテるという評価を得られている。
なにかと得をするタイプらしい。
まあ、あれだ。地位があって顔と頭が良い男とは、何をしても女子からは喜ばれるものだ。
これが世の理である。
「最高の男は、最高のサプライズができる。俺はもっともっとサプライズをして、皆を喜ばせて見せよう」
「きゃあ! ステキ!」
そして日野は大のサプライズ好きである。
ことあるごとにサプライズをやりたがる。
そのせいなのか、このクラスではサプライズが大ブームとなっていた。
とにかく、なんでもサプライズをすればいいと思われている。
クラスでは絶対に一人はサプライズをしてあげましょう。
サプライズをされない可哀想な人を作ってはいけません。
そんな風潮が流行っているほどだ。
正直、僕にとっては迷惑この上ない話である。
彼らの自己満足に、他人を巻き込まないでほしい。
「本当に日野君って、面白いよね」
「私も狙っちゃおうかな。競争率高いかもしれないけど、頑張る!」
だが、女子たちの反応を見る限り、やはりサプライズは喜ばれるものであり、サプライズができる男の方がモテるようだ。
まあ、サプライズとは、その瞬間だけは自分にスポットライトが当てられる。主人公になれる。
そう思えば、やはり常人にとっては喜ばしき事なのだろう。
王が好きなものは、自動的に周りの人間も好きになる。
それがこの教室の正しきシステムなのだ。
逆に言えば、それに従わない僕は、いわばこのクラスのバグみたいなものなのだろう。
「日野君はすごくユニークだからね。一緒にいて楽しい。刺激的な気持ちになれるし、顔も頭もいいし、モテて当然だよね」
「あたしの前の彼氏なんかさ、誕生日に何が欲しいか普通に聞いてきやがったんだよ? アホかよ。男なら、日野君みたいにサプライズくらいしてみろって話だよ。もう幻滅だよ。ソッコーで振ってやったわ」
「分かるぅ~。予定通りにしか動けない男って、本当につまんないし、価値が無いゴミ虫だよねぇ~」
これまた、僕に言っているかのように談笑を始める女子たち。
もちろん、僕を攻撃するつもりでは無く、単なる偶然であることは分かっている。
ただ、聞き流せない内容なのも確かだろう。
この
世界にとってはサプライズこそが神。
それを否定する人間は、さしずめゴミ虫と言ったところか。
僕はこのクラスの価値観で言えば、バグどころかゴミ虫なのだ。
それに対する賛否はともかく、この空気に対しては敏感になっておかなければならない。
下手な文句でも言った場合、僕の自由が侵される。現状維持が崩壊してしまう。
自由と現状維持の崩壊は、すなわち『予定』の崩壊。僕の人生の楽しみが奪われる。
なので、わざわざ世界の波に対して逆らう必要もない。
それにサプライズなんてのも、身内でやっているのであれば、好きにすればいい。
ま、身内では終わらない部分が問題点なのだが……
「はあ~」
その時、隣の席の女子が大きなため息をついていた。
彼女は
短く切り揃えられた髪型と、やや細い目つきが特徴的で、第一印象としてはあまり目立たないタイプだ。
男に媚びるような派手さが無い為、もてはやされる子では無いが、逆にその自由とも言えるマイペースなスタイルが僕は嫌いではない。
猫みたいな子、という例えが最も似合うのではないだろうか。
彼女について思い出せる事といえば、いつも教室の端の方で絵を描いている事だ。絵を描くのが好きらしい。
そして月山の描く絵は非常に素晴らしい出来で、確かどこかのコンテストで受賞していた記憶がある。
絵の評価はクラス内では賛否両論だった。
強烈なインパクトがある芸術的な絵というわけではなく、ただの空を描いたその絵は、人によっては平凡だと評価されている。
でも、僕としてはその空から独自のこだわりを感じられていた。
目立たなくてもいい、でも私はこんな空を描くのが好きだ。
そんな『好き』が伝わってくるような『自由』ある絵なのだ。
言ってしまえば、僕は月山の絵が好みなのだろう。
自由に好きな事をのびのびとやりたいという希望をその絵から感じ取れた。そこに共感を得たのだ。
ただ、月山については悪い噂も流れている。
彼女は『人を困らせて喜ぶ腹黒い女』という話をよく聞くのだ。
とはいえ、所詮は『噂』だ。鵜呑みにするのも危険と言えよう。
真実は自分の目で見て判断したいと思っている。
月山の悪い噂は本当なのか?
その部分も含めて、僕は彼女に興味を持っていた。
そんな月山が、うんざりした表情で僕に話しかけてきた。
「あたしさ。サプライズって、嫌いなんだよね~」
………………ほう?
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