第3話 傑の過去

神嶌 傑はごく普通の一般家庭に生まれた。

家族や友達思いの優しい少年だった。

だがその優しい性格はあらぬ方向へと変わってしまう。

高校生のある日、いつも通り友達と学校帰りにゲーセンへ向かっている時だった。

他校の不良集団が傑の親友である輪島 輪に因縁をつけ、商店街を巻き込む大喧嘩へと発展した。

3対10という人数差に対するため必然的に喧嘩慣れしていない傑も加わることになってしまう。

輪島ともう一人の友人 新浜 研吾は喧嘩に慣れている為に次々と相手を倒していくが、次から次へと応援に駆け付ける他校の不良生徒を前に二人は疲弊しきっていた。


傑は辛うじて反撃をするが、それでも容赦なく不良生徒の拳が傑を襲う。

余りの数の多さに3人の心が折れかけていたその時。

不良集団のトップであろう男が現れ、輪島と新浜を連れ去ろうとしていた。

傑は幸いにも特段目立っていたわけでもなかったため連れさりはされず、その場に放置されていた。

傑の心は既に折れ、目の光を失い。連れ去られる二人を見ながら、傑の意識は遠のいていく。

自身の大切な友人を守れなかったことを悔やみながら・・・。


その時だった。

傑の心の奥が沸々と熱くなっていくのを感じそれとは別に何かどす黒い感情が湧き出てくるのを感じ傑は思った。

(俺の友達をどうする気だ。連れていくな。返せ。返せ。返せ)

段々と感情が熱くなっていき、どす黒さが濃く大きくなっていくのを実感する。

傑はふらふらと立ち上がり、視線を去っていこうとする不良集団に視線を向ける。

しかし、その眼に意識は宿ってはいなかった。

勢いつけ真っすぐ走り出すと、後ろから続々と不良集団を薙ぎ倒していく。

呆気にとられる相手を他所に次々と殴り倒す。

だが、相手もすぐに反応し数で潰そうとするが、そんなもの傑には関係なかった。


(返せ。返せ。返せ。返せ。返せ。返せ。)

傑の心情は常に同じことを繰り返していた。

友人を連れ去ろうとするその相手に対する怒りしかそこには無かった。

心の声はやがて、ぶつぶつと「返せ。返せ」と口で繰り返すようになりその姿に気づいた一部の不良は気味悪がるようになった。

そして、とうとう、傑はトップの肩を掴み振り向かせると顔面に重い一撃を打ち込んだ。



―――――目を覚ますとそこには血塗れの集団が蹲り、倒れていた。

四方八方から唸り声が聞こえ驚く傑は自身の両手を見て確信する。

手には激痛が走り赤く腫れ鮮血が両手を染めていた。

遠くからサイレンの音が聞こえ周囲の人々から忌まわしい目で見られていることに気づく。

段々とこの状況を作ったのは自分であることに気づき、心臓の鼓動が段々と早くなっていく。

息ができず肩で呼吸しなければいけない程にパニック状態となり塞ぎ込む。

やがて、警察は通報した人物に話を聴きこの惨状を起こした人物が傑であると分かると二人掛かりで傑を起こしパトカーに連行していった。

「違う!僕じゃない!これは僕じゃないんだ!助けてよ!誰か!僕は悪くないんだ!」

助けを求めるが誰もが自身を侮蔑な目で見てくる。

「輪!助けて!研吾!助けてよ!」

親友二人にも助けを求めるが、二人は傑の異常な強さの前に怯え、感謝どころか傑を化け物だと恐れ切り捨てた。

この事件をきっかけに、傑はすべてを失った。


家庭裁判所では少年院での保護処分を言い渡された。

結局、誰も傑を庇う者はおらず、輪と研吾の二人も一回見捨ててしまった為、後に復讐されることを恐れ、自身達の保身を彼らは選んだ。

少年院での暮らしは最悪なものだった。自分よりも年上の少年から虐めを受けることが日常茶飯事だった。

この隔離された空間に逃げ場所などなかった。

そして月日が経ち、少年院での暮らしが終わる日、とうとう家族は面会にも迎えにも来なかった。

来たのは一通の手紙。

そこには、「もうお前はうちの子ではない。二度と我が家の敷居を跨ぐな。」と書かれていた。



「!!」

傑は目を覚ます。

辺りの景色は荒廃と化していた。

先ほどの白い球体の衝撃を避けられなかった傑は一瞬気を失っていた。

思い出したくもない自身の過去。

傑は吐き気を催していた。

(もう自分はここで終わった方がいいのかもしれない)

自身の存在価値に思わず疑問を抱いてしまう。

自分のやったことは間違っていたのか。

一体何が正しかったのか。

そんな事、今となってはわからない。

だが、傑は決心していた。

新しく生まれ変わり、この東京と言う大都会で今までの自分とは決別すると。

先ほどの後ろ向きな考えを捨て、先のことを考える。

自分は周りの人々の為に。と。


「動けぇぇぇ!俺の身体あぁぁぁぁぁ!」

満身創痍の肉体を奮い立たせ、再度、傑は立ち上がる。

顔から、両手から、両足から、真っ赤な血が滴り落ち、床は赤く染まっていく。

脳からはドーパミンが放出され、全身に走る激痛はやわらぎ、興奮状態となっている。

ゆっくりと一歩、また一歩とSin僟は歩き出し段々と速度を上げていく。

上空に君臨する白き可憐な生物目掛け地面を蹴り上げ拳を一発ぶちかます。

ドゴォォン!と爆発のような音が響き渡るが一切効いた様子はない。

「散れ」

天使は上空に白い剣を次々と出現させるとSin僟に向け一斉掃射をした。

襲い来る無数の剣に傑は防ぎきれず、Sin僟と共に地面へと叩き落された。





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