第15話 エースの居ない戦い②

目の前に現れた20体近くの天獸とその上位種と思われる7体の天獸。


「あの3体は見たことはあるが、残りの4体は何だ?」


亜久良が疑問を持つその先には以前、戦闘したことのある炎を操る天獸や水、土を操る天獸もいたが見たことのない天獸が4体いた。

その4体はそれぞれ風や雷、太陽のような輝きや全てを飲み込むかのような漆黒の闇を纏った天獸が暴れており、辺りは混沌としている。


「あの3体だけでも相当きつかったのに、あのレベルの化け物4体なんて私達でどうにかなるの!?」


「めんどくさいな。アレ、僕も倒さなくちゃいけないの?」


橋姫は戦闘経験が少しあるが故の自身の責任感に潰されそうになり、三吉は相変わらずの面倒くさがりが発動し、モニター越しの亜久良と橋姫は冷ややかな視線を向ける。


「取り敢えず、どんな攻撃を仕掛けてくるのかはっきりと見極めないと!」


橋姫はチームの全員にそう伝える。


「そんなことをしていたら被害は拡大する一方だぞ!早急に奴らを倒すべきだ!」と


亜久良が発言したことで意見が対立してしまう。


「それは分かってるけど、相手がどんな攻撃を仕掛けてくるか把握しておかないと倒しようがないでしょ!」


「だからって、向こうがこちら側に攻撃を仕掛けてこなければ意味がないだろ!ただ街を破壊しつくされるだけだぞ!」


二人の議論は収まらず、その間、天獸たちは街の攻撃を続けている。


モニターに映るその光景に痺れを切らした傑が口を開く。


「お前たち!いい加減にしろ!」


「戦場に出撃していない部外者は黙っていろ!」


「!!アンタ、傑になんてこと言うのよ!」


亜久良のした発言で更に橋姫はヒートアップをする。


だが、そんな両者に劣らず傑は続ける。


「お前たち!何のためのチームだ!今までお前たちはそれぞれ自分のsin僟の扱い方を学びながら戦ってきたんじゃないのか!?その能力を生かすことができれば二人の意見は割れずに戦えることができるんじゃないのか!」


その言葉に橋姫、亜久良の二人はハッとした表情になり、一気に頭に上った血が引いていったのがわかった。


「まず、相手の攻撃がどのくらいの威力を持っているかわからないから亜久良のsin僟ルシイドで全員の機体を強化する。そして、童子のsin僟ベルグラ三吉のsin僟アスロトで相手の攻撃を吸収しながら反撃、橋姫のsin僟レヴィーのコピー能力でもコピーして倒すんだ!そして、夢魔!」


唐突の呼びかけに夢魔はビクッとする。


「お前のsin僟、アストで他の天獸に催眠を掛けて同士討ちさせてやれ!」


その言葉に自身の胸が高鳴ったのを夢魔は感じた。


そして、5人は傑の指示通りに作戦を開始した。


夢魔はあらかじめ能力が分かっている炎を操る天獸と水を操る天獸の2体に催眠能力を掛け、20体に及ぶ天獸に攻撃を仕掛けさせた。


三吉と童子は万が一の事を考えどんな攻撃を仕掛けてくるかわからない光輝く天獸と闇を纏う天獸には近づかず、風と雷を纏う2体の天獸に近づき攻撃を吸収した。

そして、レヴィーは蛇の鞭を光輝く天獸の身体に巻き付け能力のコピーを図る。


「できた!」


コピー出来た能力をレヴィーはアスロト、アストと共に光と闇の天獸2体へとぶつける。


傑の的確な指示のおかげでエース級の存在であった傑、それに次ぐ存在となりつつある白狐がいない状態のsin僟隊でも互角かそれ以上の戦闘を行なうことができていた。


だが、上位種の天獸を倒すことはそう簡単なことではなかった。


「っ!」


夢魔が操っていた炎と水の天獸2体の催眠が解かれ、夢魔が乗るアストの方へと襲い掛かる。

幸いにも、通常種の天獸は全滅寸前となっており、2体に集中して戦闘することはできるであろうが、咄嗟の判断が出来ずアストは攻撃を受けてしまう。


「きゃあっ!」


アストは地面に落ち、眼前に燃え盛る炎が向かって迫ってきていた。

もう駄目だ、とそう思い目を閉じる夢魔だったが、童子のsin僟であるベルグラがその炎を飲み込み倍にして跳ね返す。


「大丈夫?夢魔ちん?」


「あ、ありがとう。童子ちゃん……。」


「ここは私に任せて夢魔ちんはあそこの4体をどうにかしてちょ!」


「わ、わかった!」


童子のサポートと的確な指示により夢魔は体勢を立て直した後、橋姫と三吉が相手をしている天獸の元へと向かった。


「大丈夫だった!?夢魔!」


「うん、ありがとう。」


心配する橋姫に対し少し冷めた態度をとった夢魔であったがしっかりと自分がとるべき行動を伝える。


「私があの光っている奴と真っ黒い奴を操るから、二人はサポートをお願い。」



「わかった!」

「はいはい」


二人は返事をすると、夢魔の邪魔にならないように雷と風の天獸たちから放たれる攻撃を吸収・防ぐことに集中した。

だが、上位種の攻撃はかなり強力なものでそう長い間、耐えられるものではなかった。


「クッ!このままじゃ、やられちゃう……。」


「しっかりしろ!」


背後には亜久良の機体であるルシイドが立っており背部の羽から緑の粒子が漂い始める。

その粒子がレヴィー、アスロトに触れると機体の防御機構が一時的にパワーアップをし強力な攻撃から伝わる振動がほんの僅かではあるが和らいだ。


「ありがとう!千方!」


「ふん!名付けて防御機構ヲ与エシ粒子プロテクト・パティクルだ!」


「あ、そう……。」


亜久良の中二的ネーミングセンスに若干引き気味の橋姫だったが、sin僟の防御力アップによって攻撃に耐えることができ、アスロト共に夢魔の催眠攻撃までの時間を稼ぐことに専念する。


「耐えるよ!!めんどくさがり屋!」

「チっ、うるさいなぁ……。」


2人が攻撃を止めている間、夢魔が搭乗しているアストは上空で再度、催眠攻撃するためのエネルギーを充填していた。


「早く早く早く早く早く早く早く早く早く早く……早く!」


充填までの時間に夢魔の気持ちが焦る。


「早くしてよ……!でないと、皆に迷惑かけちゃう……!それに、あの人にも……。」


やがて、エネルギーがMAXに達成すると、即座にアストの悪魔の羽を模した翼から紫色の粒子を流し天獸へと向ける。


「お願い……。当たって!!」









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sin僟・ザイガ 櫟 ヘイト @heito869

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