第7話 傲慢・怠惰

天獣との戦闘後、傑達は地獄に戻り温泉に入っていた。

「気持ち良いくらいに温かい温度だよな」

「ほんとだよ、ちょっと名前がだったから入るの躊躇ったけどな」

傑と白狐の入っている温泉には血の池地獄と書かれた看板が立っており、その名の通りに真っ赤な液体がグポグポと気泡が生まれては破裂を繰り返している。

その様子はまさに、人間が想像していた血の池地獄と同様であったが、意外と人間による想像が誇張されすぎていたようだ。

最初、この温泉を見た二人も、入るのを躊躇ったが、今では意外と気持ちがいい湯加減にどっぷりとハマっていた。


「それにしても、温泉があるって思わなかったな」

「確かにな。それに、心なしか戦闘の疲れが取れていく気がする」

「そういや、あの博士がなんかそんなことを言ってた気がするな」

白狐は温泉について語るDrアンフェールの言葉を思いだす。


―――「・・・であるからにして―――」

かれこれ数分、Drアンフェールはこの地獄自慢の温泉について熱く語りかけていた。

あまりの話の長さに5人はウトウトとなりかける。

「ま、つまりは私の開発したメディカルカプセルよりは劣るが、疲労回復と少しの傷なら回復する効能が備わっている。ということだ」

やっと、Drアンフェールの説明は終わった。

5人は話が終わるタイミングで首がカクンと落ちそこで目覚める。

「もう終わった?」

傑が聞くと、Drアンフェールは静かに頷き、誰も話を聴いてくれていなかったことに若干心を痛めていた。


そして現在―――。

この温泉は男女に分かれており、作りは日本に存在する温泉と同じ作りになっていた。

「はぁ、いい気持だねぇ~」

「そ、そうですね・・・。えへへ」

温泉の白い煙の中から中性的な声と可愛らしい女声が聞こえる。

この場所とは似つかわしくない二人の可憐な声は会話に花を咲かせ、二人の距離を如実に表していた。

「ところでさぁ?夢魔ちゃん」

中性的な声で橋姫は夢魔の耳元で囁く。

「傑君のこと実際に好きなの?」

その声は女性でも興奮してしまうほど色っぽく大人の風格を感じさせる。

夢魔は顔を真っ赤にさせ、お風呂の中に顔を突っ込む。

顔の色と、温泉の湯の色が混ざり合い、一瞬どこに行ったのか見失う。

だがやがて、夢魔の呼吸がもたなかったのか、「プハッ」と飛び出して来た。

そんな夢魔の姿を見て橋姫は爆笑して「アハハハハハ、面白いね、夢魔は」と笑顔から零れる涙を指で拭う。


一方、暴食のパイロット・安綱 童子はと言うと、次から次へと出される料理を平らげていた。

「ふがふがふが、ごくごくごく」

一体どこにそんな量の食事が小さな体のどこに入っていくのか、アンフェールは不思議思っていた。

そこに、風呂上がりの傑が不思議そうに話しかける。

「そういや、俺達ってすでに死んでるはずなのに、傷の痛みとか眠気とか食欲ってあるんだな。死んだらないものだと思っていたが・・・」

それに対し、アンフェールは答える。

「君達が乗っているSin僟はその搭乗者の欲望が大きければ大きいほど強くなるという話はしたよね」

その問いに傑は頷く。


「つまり、Sin僟に乗る者には欲望が存在しなければならない。その為には、君達

搭乗者に欲望が無くてはならない、欲望は死んだ人間には無い。だから、君達を仮に生かす必要があった。その為の薬を君達が初めてSin僟に乗った時に注入している」

何か言いたげな傑にアンフェールは続けて言った。

「私は悪魔だ。神に逆らう存在。神の手下である天使が人を殺しても、それに逆らい人を生前と似通わせることは悪魔にとってはなんら君達の世界にある倫理と言うものには一切問題ない」

その言葉に目の前にいる男は悪魔であることを再確認する。

自分達と同じ様な見た目をし、言葉も通じる、だが、彼には我々の世界の常識は通用しない。

だがそれは向こう、天使たちも一緒だ。

奴らも我々の、現世の常識は通用しない。

目には目を、非常識には非常識と傑は改めて目の前にいる男の力を借りることを心に決めた。


「あの~、ここって・・・なに?」

奥の方から若い少年のような声が聞こえる。

「何か訳の分からないところに来て、ウロウロしてたらあんたたちがいたからさ、ねぇ、ここってどこ?」

白髪で色白のその青年は傑達に話を掛ける。

目は虚ろとなっており、隈が濃いその少年はどこか生気が感じられなかった。

全員が顔を見合し、説明するのはDrアンフェールに決まった。

これまでの流れを説明している途中、白髪の少年は涎をたらし眠り始める。

しばらく経ち、話し終わると、少年は目を擦り「もう終わった・・・?」と申し訳なさもなく聞いた。

「ほんとにここって地獄なの?ねぇ、僕ゲームがしたいから早くお家に帰りたいんだけど」

本当に話を聴いていなかったのかと、全員唖然とする。

「ふっふっふ、ひとつだけある」

待ってましたと言わんばかりにDrアンフェールは含みのある笑みを溢し謎に溜める。

「それって何?」

「それは」

「それは?」

「私の開発したSin僟に乗って天使と戦ってもらう!」

アンフェールの言葉に、少年は首を傾げた。


「この素晴らしい天才科学者、Drアンフェールが長い年月を掛けて開発した対天使迎撃用兵器:Sin僟に乗って天使を倒してほしい」

「倒したら、どうなるの・・・」

「すべての天使を倒した暁には天使に殺された人類は皆蘇る」

「へぇ、そうなんだ、でもメンドくさそうだなぁ」

「だが、ここにいるよりかは退屈しないかもしれないぞ。君の世界にあるゲームと言うモノよりも刺激的な体験ができる」

白髪おかっぱの少年の求めていることが分かっているのかどこか確信を持った様に彼は言った。

その言葉に先ほどまでに死んでいた少年の目には少し光が宿っていた。


「成程、君達の話を聴いて大体の内容はわかった。それがおそらく事実であることも・・・」

奥の人影から別の男性の声が聞こえる。

「私の名前は千方 亜久良。私もそのSin僟とやらに乗せていただこう」

亜久良と名乗ったその人物は眼鏡を上げた。



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