第6話  連携

「あんたっ!」


「タケルさん!無事だったんですね!」


橋姫の言葉を遮り、夢魔が駆け寄ると目には涙を浮かべ、力強く傑の身体を抱きしめ顔をうずくめた。

その一連の動作を見て、橋姫は眉を顰める。


「良かった!ほんと良かった!」


「おいおい、そんなに心配してくれるなんて、ありがとう。ところで君はどっかであったことあるのか?」


尋常じゃない程に心配する夢魔に傑は質問する。


「あ、え、あ、い、いや、そ、そういうわけじゃないんです!ご、ごめんなさい!」


と、唐突に夢魔は傑から離れ涙で濡れた瞳を腕で拭った。



傑は不思議がりながらも、突如、目頭が熱くなり、その場に蹲る。


(なんだよ、これ、なんなんだよこれ!)


「どうした大丈夫か?!やっぱどこか痛むんじゃ!」


「タケルさん!まだどこか傷が癒えてないんですか!?」


 夢魔が再度傑に近づき、座り込む傑の頭を抱き込む。


その温もりに傑はハッとした。

傑にとって久しぶりの人の温かさだった。

このまま一生、誰とも関わることなく過ごすと思っていた傑の人生は、地獄に堕ちたことで、変わった。


(なんで、俺はこんな優しくされるんだ……。一体、何したんだよ。俺は。)


震える声で傑は自身が思っていることを正直に話す。


「お、俺、何もしてないのに、なんで皆、そんなに俺に優しくするんだ。さっきの戦いも結局、街の人々を守れなかった。なのに、なんで……。」


 その言葉に夢魔と橋姫は顔を見合わせて言う。


「そんなの、あなた(あんた)が真っ先に私(うちら)達を守ろうとしてくれたからに決まっているじゃないですか(決まってるでしょ)!!」


その言葉に傑の心にあったつっかえ棒のようなものがとれた感覚を感じた。

「……。二人ともありがとう……。」


二人の言葉は過去の自分の行動を肯定してくれたかのように感じた。


(私は、それだけじゃないですけどね……。)


傑と夢魔の瞳が互いを映し出す。

夢魔にとってその時間は今までのどの時間よりも長く感じた。

夢魔がニコッと微笑むと傑の顔は林檎の様に赤くなり思わず顔を背ける。

しかし、その姿に夢魔の表情はどこか満足気だった。

そして、三人の姿を見て一人拳を力強く握る者がいた。

傑が皆と合流して束の間、突如モニターが真っ赤に染まる。


「なんだ!一体!?」


 鳴り響く警報の音に皆が驚く中、Drアンフェールが皆に伝える。


「天獸が出現した!皆、出撃準備を頼む!」


真っ赤に染まっていたモニターには街中で暴れまわる天獣達の姿が映し出されており、逃げ回る人々の声が聞こえていた。


「絶対に誰も傷つけさせない。」


強い意志を胸に、傑は足を進める。


「ほんとにもう大丈夫ですか?」


「あぁ。」


心配し、声を掛ける夢魔だったが、意思を固くした傑の言葉にそれ以上の言葉は何も言えなかった。


「あぁ、そうだ君たちに渡しておきたいものがある。先の戦いの中で作成していたものがある。天使があれほどの力を持っていなかったと思ってな」

 そう言うと、5人に真っ黒の腕輪のようなものを渡してきた。


「これは?」


「これは、アパルリングと言ってここにあるスイッチを押すと私特性のプロテクトスーツに着替えることができる。ま、詳しいことは後にでも説明しよう。まずは、街で暴れまわっているあの気色の悪い化け物共を殲滅してくれ。」


そう言って、Sin僟に乗り込もうとした5人を見届ける。


「今、確認できる天獸の数は5体。タケル君が最初に戦ったモノと同一ではあるが、まぁ、油断は禁物だ。わかっているとは思うがな……。」


その声に5人は頷く。


「では今から転送を開始する。とりあえず、皆無事に帰ってくることを祈っている」


 5人の機体は赤黒い渦に飲み込まれるように消え、次の瞬間には東京の八王子に転送されていた。


「ここは、八王子か?」


 白狐が言う。


「へぇ、ここが八王子か。初めて見るな」


「え、お前、八王子知らないのか?!」


「何だよ、俺は昨日、東京ここに来たばかりなんだよ」


 傑は馬鹿にしたような発言をする白狐に対し、正直に話す。

 それに対し、白狐を含む3人は上京してきたと同時に天使に襲われ死んだ傑の境遇に同情のような感情を抱いた。


「別に同情なんかしなくていいよ。なんだかんだ、死んでよかったのかもなって思っている俺がいるからな」


そんな3人の気持ちを悟ったのか、また正直に自分の気持ちを伝える。


「よ~し、このぉ、戦いが~終わったら~また、いっぱい、食べるぞぅ~。」


深刻な空気を変えるように童子は能天気な彼女らしい発言をした。


「そうだな!サクッと終わらせるぞ!」


傑の言葉を皮切りに、5機のロボットは全力で前へと進む。


 しばらく移動すると、5体の白い影が現れた。

そこは、先ほどまでいた場所と打って変わって、ビルは崩壊、炎上し綺麗な街並みは悲惨な状態に陥っていた。

交通機関は機能を果たさず、道路も崩壊、車は渋滞し、人々は走って逃げている。


「何だこれは……。」


呆然とする5人に、5体の天獣は見向きもせず街を破壊し続けていた。


「皆!行くぞ!」


 傑の言葉に、呼応し、5機のSin僟は立ち向かう。

鬼狼の鉤爪ウルフクロー!!!」

 

サタスの鋭い爪が一体の天獸を切り裂く。

だが即座に他のSin僟が反応し、取り囲み大きく口を開けると白いビームを吐き出す。


「さぁ、いっぱい食べなぁ~。」


サタスに直撃する瞬間、天獸が吐き出した光線は真上を向き上空にいるベルグラの腹部へと吸い込まれる。


「助かった!童子!」


続いて、夢魔が搭乗るアストが胸部の通気口のような隙間から薄紅色の粒子を排出する。

その粒子は、天獸達を覆うと、4体共の動きが止まる。


「さぁ、ヤリ合いなさい!」


夢魔がそう言うと、再度、活動を開始したかと思えば、天獸同士、互いを襲い始めた。

これが、色欲のSin僟・アストの能力だった。

彼女のSin僟は催眠作用のある粒子を噴霧することで相手を同士討ちさせることができる。


「よし、次は俺たちだ!」


「やるよ!」


強欲のSin僟・グリモンを操る白狐と嫉妬のSin僟・レヴィーを扱う橋姫は、天獸の能力をコピーし各々の手部から白いビームを放つ。

左右から襲い来る攻撃に気づかない天獸達に直撃し、3体が消滅した。


「最後の一体は俺がやる!」


そう言うと傑は両肩部に内蔵されている棍棒を取り出すと、丸みのある面に無数の棘が飛び出してきた。


「これで終わりだ!鬼殴殺オーガ・ビート!!」


こうして、最後の一体は血しぶきを上げ爆散した。


「はぁ、はぁ、終わった……。」


「良かった……。」


「お腹、空いたぁ~。」


「よくやったねあんたたち。」


「いや、アンタもでしょ。」


5人は、安堵の表情をし、開かれたゲートへと向かって行く。

まだ、戦闘経験が浅い5人の連携の高さに、皆の心は昂っていた。

だが、事態は彼らの知らないところで、予想外の道へとゆっくりと進んでいく。





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