第11話 覚醒した強欲①

「凄い!凄いぞ!!グリモンと我喜屋 白狐のD指数がみるみる上昇していく!これは彼の欲望がグリモンと呼応したということだ!いいぞ!もっと、もっともっとお前の心の中の叫びを聴かせてくれ!!」

 薄暗いモニターの光だけが照らされる研究室で白い悪魔は不敵な笑みで独り高らかに笑う。


「俺はここで死ぬわけにはいかないんだよ。折角生き返ることができるんだ。だったら本当に俺がやりたかったことやってやるよ!親父の力じゃない、俺の本当の力で俺がやりたかったこと、俺が欲しかったものを手にしてやる!」



 10年前―――

 我喜屋 白狐はそこそこ裕福な家庭に生まれた。

 父親は20代で企業をし社長になる程優秀で、息子である白狐に彼が欲しいものは全て買い与え、母親はそんな父親を狂おしいほどに愛していた。

 当然その子供である白狐の事も。

 彼が通う学校では沢山の友人に囲まれ、自身の父親に憧れた少年は父の様になりたいと勉学に励み、順風満帆な生活を送る。

 だが、そんな何不自由無い生活を送っていたある日――


「マジ白狐って良い奴だよな!」

 学校のトイレから友人二人が出てくる姿を目撃した白狐は二人に声をかけようとする。

「アイツと一緒に居たらマジ金払い良すぎて困んねぇわ!」

「確かに!我喜屋と一緒にいる理由なんて金と女ぐらいしかねぇよな!」

 白狐は思わず壁に隠れ二人の会話に聞き耳を立てる。

 その会話には、白狐に対する不満と彼の傍にいることによって起こるメリットなどそれは聞くに堪えない内容だった。

 白狐の心は深く傷ついた。

 今まで信じてきた友人達が実は自分の人柄の部分ではなく親のお金が目当てで一緒にいたということに・・・。


 この日から白髪の青年我喜屋 白狐何不自由ない平穏な生活が崩れ去る。

「なぁ、最近アイツ付き合い悪くない?」

「アイツって?あぁ、白狐か。確かに、白狐アイツずっと俺らの誘いずっと断ってるよな」

「俺らが沢山ある金を一緒に消費してやってんのによ」

「ほんとだよな、感謝してほしいわ」

 自分がいるのを知ってか知らずか、自身に対する陰口を聴くことが増えてきた。

 自身が裏で奴らにどういう風に思われていたのか知ることができた半面自分の存在価値は親が稼いだ多額のお金と言う目に見えて誰もが欲しがるモノと言うのでしか見出せていなかったことにショックを隠し切れなかった。

 白狐は泣いた。


 それから白狐は学校生活を独りで送ることにする。

 様々なクラスメイトが話を掛けてくるが誰を見ても全員金目当てで話しかけてきていると思って心の底からの感情を出せない。

 笑顔で話しかけてくる生徒に対してもその笑顔がとても厭らしく感じ段々と人と絡むのが煩わしくなってくる。

 そんなある日、学校での生活に疲れ我が家に帰宅すると一通の封筒が入っていた。

 宛名には我喜屋 白狐と書かれており差出人は不明だった。

 自室に籠もり封筒の中身を確認するとそこには1枚の写真が入っており、その写真に白狐は衝撃を受ける。

 その写真には自身の母親と知らない男性がホテルと思わしき場所から出てくるところだった。

 写真を見た白狐は思わず腹の底から何かが出てくるのを感じトイレへと駆け込む。

「うぅっ!ウオッェ!オェァッ!」

 キッチンで夕食の準備をしていた母親がトイレへと来る。

「ちょっと白狐ちゃん大丈夫?」

 甘ったるいその作ったような声を聴いた時、他の男にもその甘ったるい作った声で話しかけて他の男のモノを咥えてると思うと更に自身の奥底にあるどす黒い何かが込み上げてきて更に吐き気が襲う。

「だ、大丈夫だから。母さんはご飯作ってて・・・」

「そ、そうなの?分かったわ」


 暫くして自室に戻り、先ほどの封筒を見る。

 すると、もう一枚写真が出てきた。

 その裏向きになった一枚の写真を確認し更にどん底に突き落とされる。

「な、なんでだよ・・・」

 そこには、自身の父親と別の女性が一緒に映っている写真。

 白狐の脳内が凄い勢いで回転するが絡まったコードの様に複雑に混乱していた。

 俺の今まで過ごしてきた生活は何だったんだ、偽りの幸せだったのか。

 父や母はお互いこの事を知っているのか。

 知っていたなら、あんないつも笑顔で会話したりできていないか。

 など、頭を抱え込みその場に塞ぎ込んだ。

「なんなんだよ、誰がこんな写真を・・・何のために・・・」

 切れた糸の様に脱力したその手の中にはクシャクシャになった写真が一枚握られていた。


 それから、白狐は夕食のテーブルについても先ほどの写真のことでいっぱいだった。

 目の前で行なわれる父と母の何気ない会話、何も知らない者から見ればそれはおしどり夫婦と思われそうな雰囲気ではあるがそれは白狐の視線からは作り物で偽りの生活にしか見えなかった。

「ごめん・・・。やっぱ俺ご飯いいや・・・」

 白狐は独り部屋に戻る。

 意味が分からない。

 俺が何をしたって言うんだ。

 父と母の子供として生まれて、二人の言うことを聞いて育ってきた。

 よく漫画やドラマなどの創作物に登場するような御曹司キャラの様なイヤな奴にはなっていなかったはずだ。

 ・・・だが、やはりお金に物を言わせていたところはあるかもしれない。

 しかし、それでもこれは理不尽じゃないのか。

 俺は何の為に今まで生きてきたのか。


 そう悩んでいる時に我喜屋 白狐という青年の人生は終わった。

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