第13話 雁恍寺 豪舌
炎の天使ウリエルとの戦いは白狐の勝利で一旦は幕を閉じた。
疲労困憊の白狐だったがまだ戦いが終わっていない傑達の元へ駆け寄ろうとする。
しかし、機体を上手く操縦できず、その場で塞ぎ込んでしまい意識が途絶えようとしていた。
「白狐!お前はよくやった!後は俺達に任せておけ!」
天獸との戦闘をしながらも後方にいる白狐への気遣いをする程の余裕を見せる傑に白狐は少し嫉妬をした。
だが、その中でもう一つ、彼ならどうにかしてくれるだろうと今まで沸くことのなかった感情が彼の中で密かに生まれていた。
「
かれこれ数十分と戦闘をしていた傑の身体は徐々に疲れ始めていた。
(相手はどうせ天獸だ・・・。この前やりあった天使と比べたらどうにかなる相手だ!)
臀部に取り付けられている尻尾を抜くと剣へと変貌し天獸へと斬りかかる。
「これで、終いだぁぁ!!」
そこへ斬りつける傑に別の天獸が襲い掛かる。
『グォオオ!!』
「傑!!」
橋姫は傑のカバーに入り蛇の鞭で攻撃をする。
「すまない!橋姫!そいつは任せた!」
傑はすぐさま態勢を整えて再度、怒狼の
———(ここはどこだ…。あぁそうか、俺は天使に導かれて極楽へと誘われたのか・・・。それにしても、ここは真っ白いな。天国と言うのは全てが真っ白い世界なのか。想像していた場所とは違うな)
豪舌は真っ白い空間をさまよい歩く。
ただ真っすぐ、ひたすら真っすぐ。
その先に見えた一つの扉。
白くポツンと配置されているその扉に吸い込まれるように豪舌は歩いていく。
(この感じ・・・、友里子とメグか・・・?)
今は亡き、妻と娘の姿が脳裏の浮かび、涙を流す。
(やっと、やっと俺は二人の元へと行けるんだな・・・メグ!俺だ!パパだよ!友里子、ごめんな・・・2人きりにさせてしまって・・・俺もそっちへ行くから・・・2人の元へ行くからな!また家族3人、一緒になろう・・・)
そして、豪舌はドアのノブを握りしめゆっくりと捻る。
扉はガチャっと音を鳴らしその奥へと進むと、何とも言えない安らぎが待っていた。
(あぁ、ここが楽園か・・・。今まで自分が抱いていた負の感情が洗い流されるようだ・・・。二人ともお待たせ・・・これからはずっと一緒だ。それにしてもここはすごく体が軽い。今まで精進していて本当に良かった。体中に絹のような肌触りの良い糸が絡みつくようで気持ちが・・・)
刹那、豪舌の目ははち切れんばかりに広がり、体中の血管は怒張し始めた。
心臓はドンドンと拍動が加速していき、脳裏に一つの言葉が浮かび上がった。
―全テヲ破壊シロ―
傑が再度、天獸を斬ろうとした瞬間、天獸の様子が激変し周囲から赤黒いオーラが湧きだしてきていた。
天獸は、目にも止まらぬ速さでサタスの斬撃を避けその大きな口で右脇腹辺りに喰らい付く。
「な、なんだ急に!様子が変だぞ!」
あまりの変容ぶりに周り動揺を隠せない。
天獸はその強靭な顎でサタスを嚙み砕こうとする。
その頃天界へと戻ろうとしているウリエルは(ふっ、今頃あの人間は天獸に飲み込まれ進化しているころだろう。天国の気持ちよさを味合わせつつ一気にどん底へと突き落とす。卑しい人類には最高のプレゼントだろう。さぁ、人間どもよ、俺が与えた天獄をとくと味わうがいい・・・)
不敵な笑みを浮かべる
「今までの天獸とは比べ物にならない強さだ!クッソ!こんなところで負けてられるかぁ!」
そこに、橋姫が駆るレヴィーがタックルをするが天獸はビクともせず顎に力を加える。
「っく!あの時と同じ力があれば!」
傑は自身の底にある欲望を湧き起こそうとする。
(俺はアイツ等を許さない!絶対に許さない!人間をこんな化け物にするなんて!絶対!許さない!!!!!)
サタスの身体は赤黒く光だし、稲妻が走り出す。
両手で天獸の顎を力強く押し無理矢理こじ開け何とか脱出する。
「お前を楽にしてやる。お前も本当はそんな姿、望んでなかったんだろ?今流しているその涙が良い証拠だ」
豪舌が変貌したその天獸からは涙が溢れていた。
彼の心はまだ死んでいないと言うことなのだろうか。
周りの天獸達は橋姫と夢魔が殲滅をしており、残すは豪舌が変身した天獸のみとなっていた。
赤黒の獣は雄叫びを上げ、眼前の機械人形に敵意を露わにする。
互いのオーラがバチバチと弾き合い、両者は臨戦態勢に入った。
「ふ~、
空は曇天と変化していき二人の間に一縷の稲妻が落ちる。
それを、開始の合図と言わんばかりに両者は地面を蹴り、互いの懐へと体を入れ込んだ。
天獸は口から大出力のビーム攻撃、対するサタスもアグリールを放つが、両者のビームは威力が衰えず、傑も天獸側も更に威力を上げようと歯を食いしばり、力を込める。
そこで傑はオーガクラブを使用し、天獸の頭を狙おうと一歩、また一歩と歩みを進め、射程距離圏内に近づくことに成功。
大きく振りかぶり、手も足も出ない状況の天獸の頭部に重い一撃をぶつける。
だが、天獸は起き上がり、重い身体をぶつけようと突進しサタスを転倒させるがサタスの尻尾が伸びており、天獸の身体を貫いていた。
天獸の鼓動は段々と弱まっていき、徐々に姿を消していく。
最後に天獸が見た景色は妻と娘と自身の3人が笑顔で立っている姿であった。
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