第9話 人が獣になる瞬間

 謎の天獸の出現に、傑をはじめとするSin僟隊は頭を悩ませていた。

先の戦闘に現れた今までの戦いには現れなかった異なる姿の天獸。

紅く燃え盛るような翼を持つ朱色の天獸に氷のような白く美しい翼の天獸に、地面から現れた岩の様な見た目をした天獸。

明らかに今までの天獸とは違っていた。

奴らは進化し続けているかもしれない。―――彼の頭の中は天使側の進化に恐れるようになった。

今自分たちが乗っているこの悪魔のロボットSin僟……。

自分達は今までこのロボットのおかげで今まで戦ってこられた。

だが、これからはSin僟でも充分に戦っていくことができるのか不安だった。


「君たち、何を不安になっている。私のこの機体が不安なのかね。大丈夫、私が開発したSin僟シリーズを信じてくれ!それに、新種の天獣が出現しても君達はそれを難なく倒したじゃないか!だから大丈夫!君達は天使にだけ注意してもらえればいい!私も


 その言葉に傑達は少し自信を身に着けることができた。


「私達はその君達が今までどんな相手と戦ってきたのかは知らないが、そんな調子じゃ戦えないのではないのか・・・。私達はまだその天使と言うモノと出会っていない。リーダーである君がそんなに怯える相手なら私が倒して私がリーダーになろう。」


自信満々に亜久良は傑を挑発するように言葉を発す。


「めんどくさいから、話すならあっちで話してくれない。」


亜久良の声量に腹が立ったのか三吉は少し不機嫌そうな顔をする。

亜久良と三吉の二人は天使と戦闘した経験が無いため天使の強さを認識しておらずどこか余裕さを見せていた。

だが、彼等は知らなかった。これから彼等は絶望することに・・・。


 ―――半壊した東京のとある街。


「これらは、全部、我々が地獄に堕ちるかどうかの試練だ!皆!必ずやこの試練を乗り越え我らを天国へと導いてもらうぞ!」

 そう言うのは、雁恍寺 豪舌 36歳。宗教団体 蒼天會の教祖だ。

 蒼く煌びやかな装飾を付けた和服身に着け、手には直径5cmはあるであろう珠で作られた数珠を持ち笠を被って、東京の半壊した街を練り歩く。

 その後ろには、彼の信者であろう男女30人がついていく。

「我等は今、神に試されている!我等は天に昇れる者であるかを!さぁ、唱えろ!我の気持ちを天に届けるのだ!」


「神来自行天許獄罰、神来自行天許獄罰、神来自行天許獄罰」

 雁恍寺が唱える言葉を後ろの信者達も同様に唱える。


 周りには被害にあった人々が瓦礫に埋もれ助けを求めているが、そんな姿に見向きもせず集団は淡々とお経の様なものを唱えながら前進していく。

「彼等は天が見放した存在だ。彼等は前世か来世で悪事を働いたのだろう。決して情を持ってはならん!心を強く持て!何時いかなる時も、だ!」


 そして、そこから歩いて数分が経った頃、彼等の前に一筋の光が差した。


 ―――地獄・血の池地獄(温泉)


そう書かれた看板の奥には赤いお湯の様な場所に浸かっている白狐の姿があった。

どこか悲しさと怒りが混ざったような表情をしており、それを晴らすかのように息を止め勢いよく潜る。

2~3分程潜り、勢いよく飛び出すとそこには傑の姿があった。


「よ、大丈夫か?さっき顔優れてなかったけど。」


「別に。」


白狐は傑が温泉に入ると同時に入れ替わるようにその場を後にした。


「なんだあいつ。」


「ちっ、なんなんだよあいつ……。」


白狐は傑にイラついていた。


白狐が戻るとアンフェールが声を掛ける。


「傑はどこだ!」


その言葉にイラつきながらも「温泉にいたよ」といつものテンションで答える。

そして、慌てているアンフェールにどうしたのか問うと、天使が現れた。と返答が返ってきた。

彼は、何かを決めたように拳を握り、自身が乗るSin僟へと向かって行った。


「皆!待たせた!今度こそ天使を倒すぞ!」


 そう言うとアンフェールが開いたゲートに傑達Sin僟隊は足を進める。


「あ、あなた様は、神様ですか!」

 

雁恍寺は突如目の前に現れた存在に問いかける。その姿は白く美しい、背中には羽が生えており、神様と言うよりは天使と言った方がしっくりくるかもしれない。


『いいえ、私は神などではありません。私は天使と言う存在ものです。』


とても心地よく、優しい口調でその天使は答える。


「て、天使様!あ、あの私達を救済たすけに来てくれたのですか!」


その強大で煌々な存在に跪き祈るように質問をする。


その時、地獄からのゲートが開きSin僟隊が現れた。


「! 傑、アレ!」


ゲートが開かれた瞬間、橋姫は目の前に映る光景を傑に伝える。


そこには、天使に膝まづき助けを求める雁恍寺の姿があった。


「あれは人間!?」


傑は急いでそこにいる雁恍寺に問いかける。


「あなた!早くそこから逃げてください!危険です!」


「な、何だあれは!天使様!あの異形な化け物は一体何なのです!」


 傑の呼びかけに全く答えようとはせず、雁恍寺は天使に問う。

 雁恍寺の反応にニヤリとし天使は言った。


『あれは、地獄から来た存在です。貴方達を地獄に誘う為に現れたそうですね。』


その言葉に雁恍寺を含む信者達は慌てふためく。


『大丈夫です。貴方達に力を授けましょう。あの地獄からの使者を倒す力を……。』


「力……。」


『そう、力。まずは貴方の信者さん達を私の前へ。』


そう言われ、雁恍寺は信者達を天使の前に差し出す。

すると、天使は球状の光を生み出し信者へと向ける。すると、信者達の姿がどんどんと変わりやがて、天獸へと変化した。


「なっ!」


Sin僟隊のメンバーは声にならない程に驚愕した。


「嘘だろ……。」


今目の前で起こったことが本当に現実なのか受け止められないまま、天獸となった信者達が雄叫びを上げながら攻めてくる。


「彼等は、あの悪魔を倒しに行ったのですね!」


『えぇ、そうです。無事にあの醜い者達を倒せば彼等も、そして貴方も我らが楽園へと誘われるでしょう。さぁ、貴方も一緒に……。』


天使は先程と同じ球状の光を生み出し、それを雁恍寺へと向ける。


「俺も、俺もあの悪魔を倒し、天界へと誘われるのだぁ!」

 

雁恍寺の姿は段々大きく、そして醜くなっていき異形な形へと変わっていく。

やがて、天獣の姿へと変貌した雁恍寺は自我を失い、傑達へと迫る。

今日、この日、彼等は目撃してしまった。

人が、獣になる瞬間を・・・。

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