sin僟・ザイガ

櫟 ヘイト

第1話 終わりの始まり

1999年。ノストラダムスの予言で人類が滅亡すると言われた7月。しかし、実際には人類は滅亡せず、その予言の事も忘れ5ヶ月が過ぎており、1999年 12月31日、世界は新しい時代に大いなる希望を抱いていた。

  東京・渋谷。世界有数の交差点、スクランブル交差点の人ごみにもまれながら一人の青年が大量の荷物を背負い歩く。

 青年の名は神嶌 傑。年明けから東京で働くために地方から上京して自身のアパートへと向かう途中だった。


 「はぁ~、さみぃ・・・なんだよこの人だかり、全然前が見えねぇ、こっちで合ってるよな・・・」

 大量の人ごみをかき分け、前へ進んでいく。

すると突然、周囲の人々は歓声を上げ傑も思わず街頭モニターを見る。

 画面にはカウントダウンの数字が映り、それに合わせ人々もカウントダウンを始める。

「3!2!1!」

0となった瞬間、傑たちは白い光に包まれ、目の前が真っ暗になった。


 それから、しばらく経ち傑はゆっくりと目を開ける。

 するとそこは先ほどいた渋谷とはまったっく景色が違っていた。

 暗く、赤黒い肉片の様なものが辺り一面を覆っている。その景色はまさに地獄そのものだった。

「何だここは、俺はさっきまで渋谷にいたんだぞ、それなのにここはどこだ?夢なのか?」

 自分の頬をつねるが痛覚はまともに反応する。しかし、それでもこの現状は信じたがった。

「フッフッフ、ようこそ人類の諸君」

突如として謎の声がどこからともなく聞こえてくる。

「君たちが今いるのはいわゆる地獄と呼ばれる場所だ」

 その言葉に皆が反応する。

「地獄?」


 傑も思わず反応し、辺りを見回す。

「君たち人類はついさっき、死んだ」

 突然の予想外の言葉に全員が絶句する。

 現実なのか現実ではないのか交互に頭の中を現在の状況を理解しようと駆け巡り、傑はついに口を開く。

「死んだってどういうことだ、これは夢じゃないのか」

「夢ではない、これは現実、お前たちは殺されたのだ。あの白き巨悪。天使に・・・」

「天使?」

 必死に理解を深めようとはするが更に幻想の存在の名前が現れたことにより、さらに頭の中は混乱する。しかし、謎の声はそんな人々を無視し更に話を続ける。

「我々は君たちが言う悪魔と言う存在だ。この地球に生物が存在し始めた時代から我々も存在する。我々悪魔は生物の欲望、本能を司り、生物が生物として生きられるために存在している。そして、それとは逆に生物をこの世界から抹消する存在もいるそれが天使だ。」


 傑は、頭の中で必死に考えながらも謎の声の話を唾を飲み込みながら聞く。

「天使は神の命令で地球上の生態系を壊すであろう存在を抹消すると言う命を授かっている。その為、過去には恐竜を絶滅している。

そして今度は人類だ。自然を壊し、己らが住む場所を拡大し、意味もなく生物を殺す。その行為に呆れた神が天使に人類抹消の命を下したのだ」

 一通り話すと謎の声はついに姿を現した。

「そして今、君たちはその天使に殺され地獄に堕ちた」

 謎の声の正体は、まさに悪魔と言われるような姿をしていた。身長は150前後、白髪の長髪で青白い肌色をしている。

「な、なんなんだお前は・・・」

 傑は思わず絶句した。

 今まで見て人とは明らかに異なる姿をした人型の何か、その姿を見たことで現実を現実と受け入れられずにいた。

「私の名はDr.アンフェール。ここ、地獄の住人で研究者だ。とりあえずこれを見てほしい」


 そういうと、Dr.アンフェールと名乗る存在が指を鳴らすと背後に巨大なモニターが現れ

映像が流れ始めた。

 その映像には白い化け物から逃げている人々が映っていた。

「天使(かれ)等はあの白い化け物・天獣を使って人々を襲わせている。正にここより地上の方が地獄と言うわけだな」

 この異様な光景を見て傑の足が震えだす。

続けざまに非現実的な出来事が起こり、夢なのか夢ならば早く覚めてくれと思いながらどこか現実なのではないかと思ってしまう自分との葛藤に悩んでいた。

「おい証拠を見せろ!お前たちが本当は人間を襲っているんじゃないのか!お前たち悪魔なんだろ!」


 一人の男性が声を発したことにより、それに同調したかのように周りの人々もそれぞれに訴える。

「ならば、信じてもらうには一つだけ方法がある」

 そういうと、一斉に驚きと単に静かになる。

「今この奥に地上へと出られる機械があるそれに乗れば地上へと出られるが一人しか乗れない。さぁどうする」

 Dr.アンフェールのその提案にさっきまで口々に言っていた人々はざわめきだす。

 更にDr.アンフェールは続ける。

「ただし!地上に出られたからと言ってそれは生き返ったことにはならない。君たちは一回死んだ身だ。もし、もう一回天使に殺されたら君たちはこの地獄でも存在できなくなり文字通りこの地球上、この世界上から君たちの存在は抹消される」

 人類を試すかのようにDr.アンフェールはそういうとニヤリと不気味な笑みを浮かべた。

(地上に出ればこの化け物が言ってることが本当なのかどうかわかるのか?とりあえず、痛みがあるってことは現実だろうから、もし、嘘だったらその時は逃げ出せばいい・・・)

 決心をした傑はゆっくりと手を上げる。


「そこの青年、君が外に出るのかな?」

「あぁ、俺が出る!」

 

 肉片のような蠢く地面と壁が続いており、何十分も歩き続ける。

「この気持ち悪い光景、どれだけ続くんだ」

 当然の疑問を傑はぶつける。

「もうそろそろだ」

 Drはそう答えるが、それ何回目だよと傑は心の中で突っ込んだ。

「そういや、君の名前を聞いてなかったな」

唐突に思い出したようにDrが質問する。

「神嶌傑・・・」

「カミシマ、タケル・・・」


 Drは名前を繰り返すと突然笑い出した。

「フハハハハ、カミと名前に入っているのに殺されるとは、正に傑作だな!」

「何だとお前馬鹿にしているのか!」

「いいや?ならこれは君にぴったりだな、ほら着いたぞ」

 Drの発言に苛立ちながらも着いた先で見た光景に傑は絶句する。

 そこには約10mはあるであろう巨大な人型のロボットが立っていた。

「何だこれは」

 傑がDrに聞くとこう言った。

「これは、神を殺す悪魔の兵器さ」

「悪魔の兵器・・・」

「さ、君にはこれからこのロボット、Sin僟に乗ってもらう」

「これに乗ってアイツ等と戦えと?」

「そうだ、奴らに対抗するにはこのSin僟シリーズしかない、その中でもこいつは攻撃タイプの憤怒のSin僟・サタスだ」

「憤怒のSin僟・・・サタス・・・」


 闇のような漆黒と血の様に赤黒いカラーリングに思わず目を奪われる。

 怒り溢れるようなその見た目の機体に乗り込みDrから操縦方法を教えられる。地獄で造られたロボットにしてはどこか人間向けに造られていた。

「1つ疑問なんだが、ここが地獄にしてはアンタ以外悪魔の見た目したような奴がいないが」

「それは・・・」

 しばらく黙り込んだがやがて口を開き「皆、天使にやられた。だから、君に我ら同胞の仇をとってほしい」と言った。

「Sin僟に乗ってくれる君に良いことを教えてあげよう」

「良いこと?」

「あぁ、君たちは一回天使に殺された。そして、今から地上に出る君はもう一度天使に殺されたらもうどこにも居場所はない。ここまではいいかな?」

「あぁ、大丈夫だ・・・!?まさか!」


 何かを察した傑にDrはその内容が分かっているかのように「その通りだ!」と言い話を続ける。

「君が地上にちゃんと生き返る方法だ」

「そんなことができるのか」

「あぁ、できる、ただそれは生半可なことじゃない。とても険しく、そして死と隣り合わせ、いつこの世から存在が消えるかもしれない方法だ」

 唾をのみ額から汗が流れだす。

「なんだよ、その方法は」

「天使を全滅させること・・・」

「!? そんなことできるのか!」

 突然の方法に傑は思わず驚きの声を上げる。

「あぁ、普通の生の人間じゃ無理だが、私の造ったそのSin僟なら天使を倒すことはできる」

 傑は自身の胸が高鳴っているのを感じた。

 自分たち人類を理不尽に地獄に堕とし、平然と殺戮行為を繰り返している天使を殺すことができる、そんな強大な力を手に入れたことに。

「これで、天使を・・・」

 傑は覚悟を決め、Drに伝える。

「分かった。俺があの天使どもを今から倒してやる」

 その言葉を聞き、Drアンフェールは巨大な機械に設置している赤いボタンを押した。すると傑の乗るSin僟の前に同程度の異空間のようなものが現れた。


「これは?」

傑が問うとDrは「これは地上に出るための転送装置だ。そのままこの空間に入ると地上へ出られるようになっている」と答えた。

傑はDrアンフェールが言うままにその転送用の空間に入ると、視界が歪み目を開けると荒廃した地上に場所が変わっていた。

「ここは・・・」

 驚く傑にDrアンフェールから通信が入る。

「無事に地上に出られたみたいだな。今君がいるのは東京の渋谷だ。天使によって君が死んだ場所だな」

 傑に渋谷での出来事がフラッシュバックする。

「そこから北東1Km先に天使の反応がある。確かめてくれないか」

そう言われ「了解」と答え初めて搭乗した巨大ロボットを操縦する。

 「振動がすごいな、これが巨大ロボット。アニメだけの世界だと思っていた」

 黒鋼(くろがね)の機体はゆっくりと天使の方に近づいていく。

 距離が近づくにつれ爆音が大きくなっていき人々の悲鳴も紛れて聞こえてくる。


「助けてくれー!」

「化け物だー!」

 傑が見るモニターには天使がいるであろう方向からたくさんの人々が逃げ惑う姿が映っていた。その中には幼稚園程の少女が立ちつくし泣いている姿もあった。

「ママー!!どこ行ったの!一人にしないでよ!」

 少女の声に周りの大人たちは反応せずただ逃げ惑うばかりだった。

 その光景を目の当たりにした傑はレバーを握っている手に力を籠め歯を食いしばった。

(何が天使だ・・・!あんな少女も不幸にし、何が天使なんだよ!悪魔じゃないのか!許さない、絶対に許さないぞ・・・!)

「天使―――――!!!」

傑は人々を踏まないように天使がいると思われる方向へ機体を走らせる。

 徐々に爆発音も大きくなり心臓の鼓動も早くなっていく。

「もうそろそろだ、気をつけろよ、タケル」


 その時だった―――。

 目の前に白く4足歩行の目がない獣のようなものが現れた。その姿に驚きながらも何か気配を感じ上に視線を向けるとそこには白く美しい姿をし羽を生やした人型の物が浮いていた。

 その姿を見て傑は一瞬で理解した。

「あれが・・・天使・・・」

 その美しい姿をした天使は黒鋼のロボットを見て口を開いた。

『何だあれは。地球にあんなものが存在したのか?』

 その天使の脳裏に一瞬、謎の映像がフラッシュバックする。

『いや、まさかな』

「何を一人でごちゃごちゃ喋っている!お前が天使か!」

『人間の声?ハッ、そうか、悪魔が人間に力を与えたか・・・まぁいい、どうせ貴様たち人間は一匹残らずこの地球から居なくなるのだ。冥途の土産に教えてやってもいい』


 そう言うと天使は両手を広げ高らかに言った。

『我らは神・ゼウスの申し子、神界軍の天使である。我らが神、ゼウスの命により貴様ら人類をこの星から抹消する。』

 その言葉を聞き、人々は固まった。

「神、ゼウスだと・・・!」

 神話上の神の名前が出てきたことに傑は動揺を隠せない。

(いや、悪魔や天使がいるんだ。神だっていてもおかしくない。だが、本当に神なんて存在が・・・)

 天使は続ける。

『我は神界軍、大天使の一人、ミカエル。お前たち哀れな人類を我が光で殺戮(すく)ってあげよう』

 ミカエルは街を破壊している白き獣に指示を出し、逃げ出す人々を襲わせようとした。


「させるか!」

傑はSin僟を操縦し人々を襲う天獣の顔面に1発膝蹴りを入れ天獣は10m程飛ばされる。

『ふっ・・・』

しかし、ものともせずにその天獣は起き上がり傑の乗るSin僟へと突進していく。

初めて操縦する傑だったが瞬時の判断で天獣の攻撃を避ける。

「なんだ、体が勝手に」

驚く傑にDrアンフェールは「君の頭の中にそのSin僟の操縦方法と武装のデータを送ってある。これが悪魔の科学力よ!」とサングラスを輝かせて言った。

「俺の頭の中に直接データを?気持ち悪い・・・がこうも言ってられないアイツを倒す為だ!」

 傑は右レバーのボタンを押すと、「ウルフクロー!!」と言いSin僟の両手の甲から三本の鋭い爪上の鉤爪が現れた。

「これでお前を八つ裂きにしてやる!」

 金色の鉤爪が天獣の身体を切り裂く。その姿はまるで獲物を仕留める狼の様であった。


倒された天獣はドロドロと溶け出しやがて跡形も残らず蒸発した。

「はぁ、はぁ、はぁ、何とか勝てた。あとはあの天使だけだな」

「よくやった!タケル!しかし、まだ天使が残っている」

「分かっている」

『我と戦うか。人間—――』

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