第9話 怠惰の魔皇

 暗雲垂れ込める空の中――。


「こちらNEI、戦況は?」

『マイアミ上空に出現した魔皇に対し、アメリカ陸・空軍、および第二艦隊から攻撃が続けられているが、依然として効果は認められず』

「……」

『目標は現在、胞衣えなの内部で肉体を形成している模様。完全体となる前にこれを撃破することが今回の作戦となる』

「NEI!」

 軍との通信を終えたNEIの隣に、ELが合流し、

「……AIは?」

「駄々をこねられたが置いてきたよ。……この戦いは、あの子には無理だ」

「そう……」

 眼下に映る地上部隊の車両群から、中距離ミサイルが空を裂き撃ち上がるさなか。

 意を決したNEIは前方を見据え、

「現界して間もない今こそが、魔皇を討伐できる最大のチャンス。……そして私たちが敗れれば、人類に未来はない」

「ああ……分かっているさ」


 やがて視界内に、空に浮かぶ巨大な虚が映り――。


「あれか!」

 枝状の物体が放射状に生えた、全長数百メートルにも及ぶ黒い球体。

 航空部隊からの飽和攻撃が行われる中、胞衣表面に単眼が浮かび上がり、

「オオオオオーーーーッ!」

 音波兵器ともいえる咆哮は、飛来するミサイル群を圧壊させ、

「くそったれ! 産声にしてもデカすぎんだろ!」

 破壊的な余震が、竜の周囲に張り巡らされた障壁シールドを震わすさなか、

「EL、三時方向より多数の敵生体反応を感知!」

「ちぃ……! 奴の援軍か!」

 いなごの群れの如く飛来するは、子爵級に率いられし悪魔の軍勢。


 称えよ、怠惰の魔皇ベルフェゴールの降臨を!

    絶望せよ、ヒトの世の終焉を!


「これより訪れるは、我ら悪魔の――」

 台詞を終えることなく。

 胞衣より放たれし無数の閃光によって、子爵級は群れごと消滅し、

「何だあいつ……敵も味方もあったもんじゃねーぞ!?」

「まさか……暴走している!?」


 そして炎と波動の中――。


「EL、目標に多重障壁が張り巡らされていることを確認した。竜の主砲ドラゴンブレスを含め、光学兵器の類は通じないわ」

「なら、零距離からの肉弾戦しかねぇか。――上等だ!」

 即座に散開ブレイクし、破滅の閃光を回避した双截の竜たちは、

「やるぞ、NEI!」

「ここで奴を倒す!」

 生体スラスターを全開に、悪魔の王に戦いを挑んだ。

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