第6話 雷鳴

 数十万にも及ぶ、鋼鉄の悪魔の軍勢を前に。


《ようやく再起動できた直後にこの状況なのだけど……説明を求めている暇はなさそうね》

 灰色の空の下、アケディアは呆れ果て、

「勝率は?」

《ゼロよ。貴女の馬鹿げた行動に点数を付けた場合も、ゼロ》

 荒涼たる大地に立つAIの問いに、心の底からの評価を行い、

《それ以前に……自分でも理解し難い存在が目の前にいるので、言語化させてもらうわ》

 軍団の中央――。

 四足歩行の巨大な機人の上に設けられた玉座に座す少女の姿に。

《あいつ……魔皇より強くね?》


 そして口元に笑みを浮かべたマルコシアスは、


「一応、格好をつけさせてもらうために問おうか。――何をしに来たのかな、ドラゴン?」

「お前を倒しに来た」

「理由は?」

「一身上の都合により」

 AIとの問答に規格外の怪物は大笑し、

「キミ面白いね。でも、それは難しいんじゃないかな。不可能と言ってもいい」

 落雷と共に現れた紅蓮の悪魔の姿に。

「あはっ、服従よりも誇りを選んだか」

「マルコシアスゥゥゥーーーーッ!」

「これはこれはアンドラスちゃん。エウリュアレーとステンノ―まで食べちゃったのかい?」

 腹心である二体の機人四型をも吸収し、さらなる異形と化した死徒アンドラスに苦笑し、

「動機不明の自殺志願者と、玉砕覚悟の反逆者か……。実に面白い組み合わせだね」

 瞳に悦を浮かべたマルコシアスは、不遜なる敵二体に命ずる。

「キミたち、今から殺し合いなよ」

「……」

「貴様……ふざけているのか?」

 AIが黙す中、アンドラスは苛立ちを露わにし、

「竜と死徒。こんな珍しいカード、愉しみたいに決まっているじゃないか。それに合理的なキミなら理解できるはずだよ」


 ――このままボクと戦ったところで、灰塵チリとなるだけだと。


「……ッ!」

「なら、その竜を喰らった後で改めて勝負を挑めばいい。不倶戴天の敵同士、共闘は無理だろうからね」

 死徒すら弄ぶアンドラスは、AIへと視線を転じ、

「そして竜。もしアンドラスちゃんに勝てたら、その時は一対一で戦ってあげるよ」

《AI……。一刻も早く、この場から離脱しなさい》

 アケディアは避けられぬ死に対する警告を告げる。

《目の前の死徒も怪物だけど、あのマルコシアスという女はそれ以上。今度こそ死ぬわよ。……貴女は一体、何の為にこんな無謀な戦いを挑んでいるの?》

「私は……」

「では、キミたちの戦いに彩りを添えよう! ――軍楽隊!」

 機人たちによる演奏が鳴り響く中、AIの脳裏に浮かぶは一人の少女の姿。

「一身上の都合により、ここで奴を止める」

 そして竜と天魔の視線が交差し――

 鳴神と化した両者は、音の壁を破り激突した。

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