Scene 3

 灰色の空の下……。


「ふたりの魔法少女♪ 行き止まりの世界を変えるよ♪」

 魔法少女姉妹が活躍する、女児向けアニメの主題歌。

「姉妹の願いはひとつ♪ 君の笑顔を取り戻すこと♪」

 翼で風を切り飛行するAIは、不安と罪悪感を押し隠すかのように歌う。

「シミュレーションでは満点を取れた……わたしは大丈夫」

 眼下に広がるは、惨憺たる光景。

 かつてヒトの生活圏と呼ばれたものは、悉く破壊し尽くされ……時折見かける少数の人間たちも、空から手を振るAIを見るや否や、すぐさま瓦礫の陰へと隠れてゆく。


 そして曇り顔となった幼き竜は……

    廃墟となりしニューヨークへと辿り着き――。


「……」

 首の無い、自由の女神像。

 まるで巨大なドリルに抉られたかのような、地平線の彼方へと続く破壊痕。

 それらの光景に絶句するAIは、やがて人型の物体を瞳に映し出し、

「そんな……まさか!」

 広大な爆心地跡の中央。

 地上へと降り立った少女は、信じがたい事実に声を震わせる。

「嘘だ、こんなの嘘だ……」

 それは、惨たらしく破壊された成竜の亡骸。

 しかも一体だけではない。

「ドラゴンたちが……」


 ある竜は、百舌鳥モズの早贄であるかのように串刺しにされ……。

 ある竜は、原型を留めぬほどに粉砕され……。

 ある竜は……。


「……」

 悪をくじき、世に平和をもたらすために誕生した英雄ヒーローたち。

 だがしかし、彼女たちは……最強であるはずの竜たちは、それ以上の力を持つナニカによって、あっけなく嬲り殺しにされたのだ。

「あ、ああああああーーーーッ!」

 黄昏に響くは、飛来したヘリのブレードスラップ音を掻き消すかのような慟哭。

 両膝を地に付けたAIは、絶望的な世界に打ちひしがれ、

「……帰りましょう、AI」

 一筋の涙を頬に伝わせた香は、泣きじゃくる竜の背中を強く抱きしめた。

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