舞台裏 25話
翌日、アリシアはクリフト始め,執事・メイド長・コック長を集め問い詰めた。
「昨日はとても素敵な時間をありがとう。ところで私の留守の間、レイシアに対して、皆さまは何を教えていたのでしょう」
静かな物言いが、逆に怖さを引き立てる。
「特に料理長。レイシアがあのような『あっし』とか、『ガッハッハッハ』とか、あの言葉遣いは、なにをどうすれば出てくるのでしょうか?」
名指しされた料理長は一瞬で固まる。こういった雰囲気に一番慣れていないのに……。
「あなたは一体、レイシアをどう育てていったの?」
次は
「奥様、長い間のご帰郷お疲れさまでした。我々一同、奥様のご無事とお帰りを心より祈っておりました。昨日の催しはいかがでしたでしょうか」
「えっ、ああ、素晴らしかったわ。ありがとう。あれを企画したのはあなた?」
「いいえ、あの一連の催しをプロデュースしたのは、レイシア様です」
「まさか、レイシアは6歳よ。そんな事できる訳が……」
「本当ですよ、奥様。最も我々が全力でサポートさせて頂きましたが」
「「ほんとなの(か)」」
アリシアとクリフトの声が重なる。
「なんであなたが驚いているの!」
「旦那様はカヤの外でしたので」
(やっぱりこの人は無関係だったのね)
ある意味では分かっていたことだけど、ガッカリしてしまうのは仕方のない事。アリシアは白い目で夫を見ていた。
「話は長くなりますので、場所を移しましょう。メイド長、全員分のお茶の準備をお願いします。料理長は、例のジャムとクッキーを持ってきてくれませんか。では続きは貴賓室で」
見事に空気を支配し直した執事の手腕に、被疑者達は心の中で拍手を送った。
◇
「こちらが今回の企画、『お帰りなさいませ
執事が一冊の本を差し出す。アリシアは手に取り、タイトルを確認する。アリシアは本のタイトルを見たが、なぜこの本が出てきたのか理解ができなかった。
『卒業式で断罪された悪役令嬢は、鬼殺しと恐れられた辺境伯に溺愛される〜真の聖女を追放して、貴方たち大丈夫ですの〜』
「な……なに、この本……」
「レイシア様曰く、悪い事をしようとした者は神から
(違うから、それ違うから)
思っても口に出せないアリシア。うかつな事を言えば、いつ
「今回の企画は、32ページから始まる第2章。『あなたが辺境伯⁉ うそでしょ!』より、歓迎の出迎えシーンと、67ページから始まる第4章『訪れる危機の予感〜助けて愛しい人〜』より、婚約パーティーのシーンを組み合わせ、現実レベルにまで落とし込み、再現いたしました。なんと言いますか、小説の世界では魔法を簡単便利に使うので、現実的に解釈し直すのはかなり難しかったです」
真面目くさった顔と声でそんな説明されても……。タイトル箇所でキャラ声使って感情込めなくても……アリシアのHPがガリガリと削られていく。
「レイシア様は我々を集め、『こんな風にお母様をお迎えしたいの』と相談されました。幸い旦那様から頂いた、『予算は好きなように使ってもよい』という、サイン入りの確約書をお持ちでしたので、旦那様からの案件として処理させて頂きました」
(そういや、レイシアが予算下さいって言っていたからサイン付きで書いたけど、ちょっとプレゼント買う位だと思ったんだよな…………幾らかかったんだ⁉)
クリフトが青ざめながら執事を見つめると、執事はそっと用意していたメモを手渡した。
『旦那様、予算の話しは奥様のいない所で。いま話すのは悪手』
メモを握りつぶし、作り笑顔でコクコク頷くクリフト。執事のターンはまだ続く。
「こちらの本『卒業式で断罪された悪役令嬢は、鬼殺しと恐れられた辺境伯に溺愛される〜真の聖女を追放して、貴方たち大丈夫ですの〜』は、レイシア様が教会の書庫から借りて来たものです。ですので、神父様からもオブザーバーとしてお知恵をお借りしました」
(だから〜、タイトル言うのに感情込めなくていいから! それから、「溺愛される〜」 って伸ばさない! 「ですの〜」 も伸ばさない。あれは「○○○」、括弧及び括弧閉じ、と同じ扱い!)
アリシアは、もはやどうでもいい事しか考えられなくなっていた。本題を見失っていた。
「まとめますと、プロデューサーはレイシア様。企画制作運営チーフは私セバスチャン。ホール全般及び乙女心燃焼隊チーフ、メイド長キクリ。調理及びメニュー開発チーフ、料理長サム。オブザーバーとしてバリュー神父 他で行ないました。本当にレイシア様は頑張られました。パーティー企画の説明は以上となります。ご質問はございますか?」
乙女心燃焼隊ってなに? と思ったが、それについて聞くだけのHPはもはや残っていないアリシアとクリフトだった。
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