貧乏奨学生レイシア 閑話集5 ラノベ関係

みちのあかり

第一部まとめ

二章 読み聞かせ 22話

「今のなに! レイシアは一体どうしたの! あなた、レイシアは一体どうなっているの! あなたっ! 」


 アリシアはパニックに陥った。

 可愛い娘が「あっし」やら「がはははは」やら言っていたら、理解できなくても仕方のないこと。

 クリフトは、落ち着かせるのに必死になった。


「落ち着け。あればな、ごっこ遊びだ。大丈夫、サプライズな演出だよ」


「サプライズな演出、ですか?」


 「そう。君がいない間レイシア、平日は教会に通っていたんだ。でも土日は休みだからね、構ってくれる相手として、メイド長とか、料理長の所に行っていてね、メイドごっことか、調理人ごっことかしていたんだよ。ジャムの試作品貰ったり、メイドごっこでお皿運んだり。そういった姿を弟に見せて、お姉さん振りたいんじゃないかな。『素敵なお姉さまになる』が口癖だから。アリシアに一人前だと認めてほしいんだよ。一人でお留守番、頑張っていたんだからね」


 アリシアは、残していった娘の気持ちをおもんばかり反省した。

(明日から思いっきり甘やかせてあげよう)

そう決めてディナーは終わった。



 アリシアが部屋に戻ると、レイシアが本を抱えて待っていた。アリシアはレイシアを抱きしめ「どうしたの」と聞いた。


「私はお母様がいない間、立派なお姉さまになるために、いろいろ頑張ったんです。絵本の読み聞かせだってできるんです。お母様に聞いて貰いたくてきました」


 アリシアはさっき夫に聞いた話と、レイシアの行動が一致していると確信し、娘に付き合う事にした。


「すごいわレイシア。もう字が読めるようになったの?」


「当たり前です。お姉さまですから」


 さっきの料理人はごっこ遊び、今の可愛い娘が素なのね、と微笑ましく思い、絵本を読んで貰うことにした。



「フラリンダックの犬。ある所に、ベロと言う心優しい少年が、お祖父さんと、犬のパラドッグと一緒に住んでいました。『いつもすまないなベロ、儂の足が』『大丈夫だよ、パラドッグもいるし、ね』『Bow Bow』」


 (フラリンダックの犬ね。それにしても声の使い分け上手すぎない? 犬の鳴き声なんてリアル。Bow Bow?  ワンワンでいいのよ。そうね、ごっこ遊びしていたから声色使えるのか。料理人の時はおどろいたわ)


「ジジイが死んだんだ。借金のカタにこの家は貰う。サッサと出ていけこのガキが! あぁ、なんか文句でもあんのか、クソガキが。グキッ、バシッ、ゴシュッ。何ならお前を、奴隷商人にでも売り飛ばしてやろうか。ケケケケケ」


 (なんて迫力。なんてドス。ならず者そのものじゃない。子供の読み聞かせでそこまでリアルでなくていいのよ、レイシア。それと、アドリブいらない! 殴る音とか蹴る音とか! 奴隷商人とか怪しい笑いとか! ないから! 本に書いてないから! 泣くから! 寝られなくなるから! ケケケケケってやめて! クリシュにトラウマ植え付ける気なの⁉)


 「パラドック、僕もう疲れたよ……このまま休もう、一緒に、ね」


 (うぅぅ、涙が溢れて止まらない。悲しいセリフをここまで感情込めて言えるなんて、この娘天才なの?)


「こうしてベロとパラドックは、天使に連れられて、お祖父様の待つ天国へ旅立ちました。めでたしめでたし。……どうでしたお母様」


「すごいわ、レイシア。本物の役者みたいだったわ。あ、でもね、読み聞かせにアドリブはいらないわ。付け足しては駄目よ。書いてある通りに読めばいいのよ」


 さり気なくアドリブを禁止するアリシアだった。


「もっと難しい本も読めるのですよ。お母様は大人なので、最近王都で流行っている本を読んでもいいですか?」


「いいわよ。そんな字の細かい本も読めるのね。すごいわレイシア」


「お姉さまですから」


 自慢気に胸を張るレイシア。それではと本を読み始める。


「『マグナディーヴァ、貴様との婚約は破棄だ。心優しいマリアをいじめ殺害しようとした罰を受けるがいい』。……今日は卒業パーティー。目の前で怒鳴っているのは、私の婚約者カタル王子。こんなことになるなら、早いうちに……」


「何読んでるの、レイシア!」


「今王都で人気の『婚約破棄シリーズ』です。女性に人気があるというので、お母様に読んでみました。約束を守れない人は神様に嫌われ破滅するという、教会の教えに基づいたお話です。あっ、もしかして、『欲しがり妹と地味な姉 ざまぁシリーズ』の方がお好みでしたか? これも強欲は身を滅ぼし、清貧は神様が見てくれているという教会の……」


「……どっちもいらないかな〜」


「まぁ、では男性に人気の『オレって強すぎイイイイイイイイイイイイーシリーズ』が」


「それもいりません!」


「もしかして……禁断の……噂でしか聞いたことがないのですが、どうやら『薄い本』というものがあるらしく……でも、私は手に入れる事ができませんでした。お母様ごめんなさい」


「いらないから! 薄い本は手に取っちゃダメ! いい、薄い本は手に取っちゃダメよ! ダメ絶対! 分かった⁉」


 薄い本。……アリシアの脳裏に封印したはずの黒歴史が……


「王都で流行っている本は読まなくていいから。クリシュのために絵本だけ読んであげて。いい、。分かった⁉」


「分かりました。絵本だけですね。……では私はこれで戻ります。今日はお父様とゆっくりして下さい」


 そう言うとレイシアは部屋を出た。


 一人残されたアリシアは、頭の中で黒歴史の思い出が溢れ出るのを止めようと、必死になった。

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