淑女教育 32話

 〈レイシア視点〉


 う〜、よく分かんない。お母様から、「レイシアは、勉強はしてたけど、女性としての基本的な情操教育はされていなかったの」って言われたけど、メイド修行じゃだめだったのかな。お辞儀をして見せても、「それは使用人の礼よ」と言われたし。


「キラキラしたものは好きじゃないの?」って聞かれて、「研いだばかりの包丁は美しいです」って言ったら怒られた。なぜ? 


 あっ、歩き方は褒められたよ。メイド修行が役に立ったみたい。さすがメイド歩行術。背筋は伸ばすし、足音鳴らさないからね。


 女の子らしくって必要なの? って思った時、先生神父様の言葉を思いだしたよ。


〈コピペ〉

「女子力を侮ってはいけません。悪役令嬢のオープニングの追放劇は、女子力の高いヒロインに主人公が貶められ、バカ王子に無実の罪を着せられて婚約破棄・追放されるのでしょう。主人公に不足だったのは女子力です。女子力が高ければ防げる悲劇があるのですよ」

「貴族社会は、特に女性の社交で女子力がないのは致命的。罠にはめてくださいと言っているようなものです。あなたの失敗は弟の致命傷になりかねないのです」

         〈コピペ 終了〉


 そうだった。女子力なめてた。弟のために頑張らないと。


 そうだラノベ聖書の研究を始めよう。悪役令嬢シリーズ神作家達の預言書には失敗の事例と巻き返すための方法、さらに理想の女性像真のヒロインと、|駄目な女性像ざまぁヒロインが描かれているわ。先生の言うとおりだね。「知識は裏切らない」それだわ。


 私は、孤児院でラノベを片端から読みあさった。これで私の女子力も上がるはず。


 ◇ ◇ ◇


 〈アリシア視点〉


 一体何をやっていたの! うちの男共は。ディナーで最高の気分になっていた時に、


「あっしが担当いたしやした、レイシアでさぁ」〈コピペ〉


 と言われた時の驚愕! あの娘に何を仕込んでいるのよ! まったく! 私が教育し直さないと!


 ◇


 あの、レイシアちゃん。指輪とかブローチとか沢山ある中でね、キラキラしたものどれが好きって聞かれたら、普通、「研いだばかりの包丁」っては言わないわよね。


 好きなものは? って聞かれた時に、「食材としてはボアの肉が1番好き。調理しやすいし、レパートリーも多いし」って、6歳女子の会話じゃないから。食材縛りしてないから。


 クリフトったら何していたのよ。えっ? この一年半、おもちゃとか買って貰ってないの。そういえばドレスも増えてない。何やってたの、あなた〜クリフト。えっ、特に困らなかった? 日常服はメイド長が……、そういう問題じゃないのよ! レイシア、明日は買い物よ!


 ◇


 やる気の見えないレイシアに、なんとかその気にさせるため、クリシュを巻き込んで『おままごと』のていで淑女教育をしたのよ。我ながらいいアイデアだわ。


「さあ、クリシュは王子様よ。挨拶から始めましょう」


 レイシアは、可愛い弟相手に一生懸命におままごと淑女の礼を始めた。やればできる子よ。そうよ、淑女なんて所詮女優。あれだけの読み聞かせが出来るあなたなら、ルールさえ覚えれば簡単にできるはず。やれるわ、レイシア。あとは経験値よ。


 ◇


 やる気の見えないレイシアが、「弟のために」と急にやる気になった。何があったか分からないが良い傾向だ。では今日もクリシュを王子様役にして……


「え〜、王子様ですか」


 何やら不満そう。何で?昨日までは、「クリシュは世界で1番可愛い王子様」って喜んでいたのに。


「だって王子って、頭悪くて、浮気者で、最後にざまぁされる役立たずなのでしょう」


 何言ってるの、この娘。


「仕方がない。やるわ……『私はイジメなんかしていませんわ。どこに証拠が…………そんな……分かりました。では私を辺境送りにして下さい。それで私の家には何の咎も……』」


 待ちなさい、レイシア。何をやっているの! えっ、預言の書? ラノベでしょ、それ! 間違ってるから! 絶対違うから! 薄い本はもっと関係ないです! 王子様って大体はちゃんとしているから。そんな奴らだらけなら国が滅びるから。戻ってきて、レイシア!!!


 レイシアの淑女教育は前途多難だ。私は、レイシアの大切な5歳の時期を、気の利かない男共に託した事を後悔した。せめてノエルかポエムは残しておくべきだったわ。今更ながらそう思い、溜息をついた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る