五章 レイシアと7人の敵 132話
「イリアさん。『制服王子と制服女子~淡い初恋の一幕~』ですけど」
レイシアは手に持った本をイリアに見せた。
「よ、読んだの?」
イリアがおどおどと聞くとレイシアは「はい!」と答えた。
「素敵でした。王子の心の内がぐっと迫るような文章。ヒロインのレースの可憐さ。ラストシーンの大逃走劇は、爽快と言うかなんというか! とにかく素敵でした」
イリアはホケっとした顔で、「それだけ?」と言った。
「それだけ?……読み込み浅かったですか?」
「あっ、違う! ありがとう。気に入ったならいいんだ」
イリアはレイシアをモデルに書いたことがばれていないと確信でき安心した。ヒロインの名前をレースにしといてよかったと心の中から思った。
「それで、この本バイト先の同僚の本なのですが、サインしてくださいませんか?」
「サイン? ああいいよ。お安い御用だ」
イリアはペンを取り出すとチャチャッとサインした。
「ここにメイさんへ って入れてください」
「はいよっ。これでいいかい?」
イリアは勝手にレイシアをモデルに書いたことを気にはしていた。そのため、お昼ご飯をおごったりいろいろしてたりした。が、本を読んだレイシア自身が気づいていないと分かり、とにもかくにも安心した。稼がせてもらった分はこれからも返そう。でも次回作も大事! そこで気づかれない様に取材を始めた。
「ところで、騎士コースで王子と一緒になったって言っていたけど、王子はどう?」
「王子様ですか? いつも一緒に訓練していますよ」
「いつも一緒に?」
「ええ。他に組む相手もいないですし、模擬戦は王子様とだけ戦っていますね」
(なんか格好のネタが来た!)そう思いながら取材を続けた。
「なんで? どうして他の人とは組まないの?」
「弱いからです」
「何が弱いの?」
「他の生徒がです」
レイシアはさらっと言った。
「弱いからって……。騎士コースでしょ? 冒険者コースじゃなく……」
騎士コースと言えば騎士爵の息子や娘がいる所。彼らに対し弱いとは……。
「彼らの中では王子は一番強いです。見て分かるくらい違いますね」
「そうなんだ」
「ええ。王子は強いです」
王子は他の生徒から手加減されていると思い込んでいるのだが、実際はそんなこともなく、今はレイシアと言う
「じゃあ、なんでレイシアは王子と戦っているの?」
イリアの疑問はもっともなものだ。だってレイシアは女の子だし、こんなに華奢だし。
「それは王子より私が強いからです!」
言い切った! イリアは
「王子に勝てるの?」
「はい! フォーク一本で勝てます!」
「まさか。話盛りすぎよ」
「本当ですよ」
ニコニコと言い切るレイシア。事実は小説より奇なりなのだが、現実が小説家の頭の中では追い付かない。
(まあ、いいか。強いヒロイン。それもありね)
イリアは新しいヒロイン像を作り出せそうな気がしていた。
「ところでイリアさん。新作はどんな感じなんですか?」
「ああ、もうじき出るよ。新作は王子と制服少女のホラーサスペンスだ」
「なんで!!!」
(何でと言われても……。あんたがAクラスに入んないからラブストーリーのネタが来ないんじゃない)とは言えず、イリアは答えた。
「今学園で広がり始めている話がいくつかあるの。その話を取り入れて『学園の七不思議シリーズ』を作ろうと思っているのさ。流行を作り出すんだよ」
「おお! さすがですね」
レイシアの誉め突っ込みにイリアは気をよくした。
「『制服王子と制服女子~淡い初恋の一幕~』からの続編?になるのかな? タイトルは……」
少し勿体つけながら、イリアは言った。
「『王子と制服少女~学園七不思議① メイド
「なにそれ! 怖そうですね」
メイドアサシン……。レイシアの二つ名だ。
「今、下級生の中で『メイドアサシンはまじでヤバい』っていう怪談が流行っているみたいなの。なんか良くない?メイドアサシンって語感。メイドなのに殺し屋よ! 誰が考えたのかな。使わない手はないと思わない! これを王子と制服少女が解決していくのよ! 斬新だと思わない?」
「そうですね! すごいです!」
「でしょ! だからいけると思うんだよね!」
「七不思議って、他にもあるんですか?」
イリアは興奮しながら答えた。
「今下級生で流れている噂がいくつかあるんだよ。夏までに完成させる! 今が稼ぎ時さ」
そう言うと、タイトル候補を上げた。
『王子と制服少女~学園七不思議② 黒魔女の祝福』
『王子と制服少女~学園七不思議③
『王子と制服少女~学園七不思議④ やさぐれ勇者の暴走』
『王子と制服少女~学園七不思議⑤ 血みどろの死神』
『王子と制服少女~学園七不思議⑥ 悪魔のお嬢様』
『王子と制服少女~学園七不思議⑦ 最終章 制服少女VS制服の悪魔』
「どうかな? タイトルだけでもいけそうな気がするんだけど」
「シリーズ物のサスペンス! しかも7人の敵ですか!」
「そうなの! 最終章は王子が
「すごいです! さすがです! 先生は天才です!」
「おお、もっとほめて!」
イリアとレイシアは七不思議シリーズについて遅くまで話をしていた。それはそれは盛り上がっていた。
しかし、彼女らは気づいていない。
制服少女と7人の敵が、すべてレイシアであることに……。
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