概要
今は亡き人と再会し愛を交わす
もう一度、あのひとに会いたい。
かつて恋人から聞いた不思議な伝承――立夏のひとつ前の十六夜の夜、翡翠川の上流の佐砂井の郷で、二度と会えない人にもう一度会える――を信じ、不如帰山の山中にある佐砂井の郷を目指す。はるか昔に廃村となったその郷で見たものは――
犀川ようさま主催の「第一回 さいかわ卯月賞」参加作品です。
かつて恋人から聞いた不思議な伝承――立夏のひとつ前の十六夜の夜、翡翠川の上流の佐砂井の郷で、二度と会えない人にもう一度会える――を信じ、不如帰山の山中にある佐砂井の郷を目指す。はるか昔に廃村となったその郷で見たものは――
犀川ようさま主催の「第一回 さいかわ卯月賞」参加作品です。
おすすめレビュー
新着おすすめレビュー
- ★★★ Excellent!!!月光霞み、東雲に溶ける幽玄の郷
翡翠川の上流に消えた郷があるという。かつて人々が暮らしたその場所は時の彼方に埋もれ、今では地図にすら載っていない。けれども立夏のひとつ前の十六夜の夜、そこでは「二度と会えない人にもう一度会える」と言い伝えられ──
とても素敵な冒頭に、私も憑かれたように読み進めてしまいました。辿り着いた静寂の中、淡い光を放つ廃屋たち。夜光虫のように幻想的なその輝きが、作者様の紡いだ文字から漏れ出すような感覚を覚えます。景色はまるで夢の中の幻影のように揺らめき、五感をくすぐる描写が静かに心を満たしてゆく。紡がれる言葉は触れれば消えてしまいそうなほど繊細でありながら、確かな重みをもって読み手の心に沈み込む。
…続きを読む - ★★★ Excellent!!!幻想の十六夜、憑かれたように艶いて
二度と会えない人にもう一度会える――
その想いを胸に佐砂井の郷を目指す物語。約束の場所は地図にはない廃村。それだけでも十分ホラーを感じるのですが、この小説が素晴らしいのは生と死の境界が烟る霞に浮かび上がる幻想感覚です。とにかく風景描写が美しく、五感に訴えてくる写実的な筆力に飲み込まれるような没入感を感じます。
特筆したいのが珍しい二人称表記です。この独特な語り口調で紡がれる俯瞰的でどこか浮遊めいた距離感が妙味で、奇異の眼差しとなって脳裏を惑わされるようです。
艶然たる微笑。はだけていく衣服。逢瀬をなまめかしい春のまぐわいとして描く、憑かれたように狂おしい程の激情。止められない律動を鼓動…続きを読む