第8話 枕の素材

 どうやら騎士団の寮にあるお風呂へ入れて貰っていたらしく、メイドさんたちが用意してくれたお昼ご飯までいただいて、カレンさんと共にお店へ戻って来た。


「カレンさん、いろいろとありがとうございました」

「あっはっは。気にしなくて良いよ」

「は、はい。じゃあ、僕は枕作りに取り掛かりますね」

「そうか。じゃあ、私も見学させてもらおうかな」


 そう言って、カレンさんがお店の奥にある工房へついてくる。

 正直、見られながら作業をするのはちょっと嫌だけど、すぐに意見を聞けるのは良いかもしれない。

 そんな事を考えながら、先ずは弾力がある青いスライム――ブルースライムを袋から取り出す。

 ムニムニと感触を確かめ……スライムを使うっていう発想は良いと思うんだけど、やっぱり弾力が足りないというか、柔らかいんだよね。


「カレンさん。一応の確認なんですけど、これってどうでしょうか?」


 ブルースライムを麻袋に入れて、カレンさんに枕代わりにしてもらい、意見を聞いてみると、


「んー、私には柔らかすぎるかな」

「ですよねー」


 案の定、ダメだった。

 という訳で、このブルースライム入り麻袋を一回り大きな袋に入れ、その隙間に削って角を取った小石を詰めてみる。


「うーん。この粒々した感触は好きじゃないかな」

「なるほど」


 小石を麦やおがくずに替えてみたけど、カレンさんの好みではないらしい。


「感触で言うなら、最初のブルースライムだけの方がまだ良かったかな」

「じゃあ、スライムの回りに何かを入れるっていう方法は、イマイチですか?」

「そうだねー……あ、もしかして、他の種類のスライムなら、良いのがあるのかもしれないのかな?」

「おそらく……といっても、僕もスライムはグリーンスライムしか知らなかったので、他にどんな種類がいるのか分からないですけど」


 実在するかどうかは知らないけど、緑と青がいるのだから、他の色も存在するんじゃないかな……とは思う。


「なら……アルス君。私と一緒に少し出掛けないか? これまでに多くの魔物を倒してきたから、様々な種類のスライムが何処にいるか知っているんだ」

「そ、そうなんですかっ!? ぜ、是非!」

「よし。じゃあ、そうと決まれば早速行こう。ただ、それなりに遠い場所になるから、日帰りは無理だ。必要な荷物を纏めて欲しい」

「はい! 少し待っていてください!」


 急いで数日分の着替えとお父さんのレシピに、スライムを入れる為の袋をあるだけカバンに詰め、騎士団のメイドさんが綺麗にしてくれたフルーレを持ってカレンさんの許へ。


「お待たせしました!」

「早いねー。じゃあ、早速行こうか。近い順で行くと……最初は兵士たちと行く予定だったダンジョンだな」

「が、頑張ります!」

「心配しなくても大丈夫だよ。私は魔王を倒した勇者だからね。アルス君にはかすり傷一つ負わせないさ」


 再びカレンさんと共に街を出ると、街道を西へ。

 ……僕がカレンさんに見つけてもらったのは、この辺りかな? 今思い出しても、ちょっと恥ずかしいけど……お、思い出さないようにしよう。特にお風呂の事とか。

 そのまま街道沿いに進んで行くと、大きな河に差しかかり、少し北側にある橋へ向かう。


「アルス君。さっきのブルースライムは、本来こういう水辺にいるんだ」

「そうなんですね……でも、どうして草原にいたんでしょうか?」

「お風呂に入りながら考えていたんだけど、それが分からないんだよ。魔王を倒した事で、魔物の生態系がおかしくなったのかもしれないな」


 あれ? それって結構マズい事じゃないのかな?

 これから、いろんな場所で想定していたのとは違う魔物が現れるかもしれないんだよね?

 あの草原みたいに、弱い魔物しか現れないから初心者でも安全……と思っていたら、強い魔物が現れたりする訳だし。


「まぁとはいえ、魔物の長である魔王を倒したんだ。これから自然と魔物が弱体化していくから、一時的な心配事だと思うけどね」

「あ、そうなんですね。それなら大丈夫……かな?」


 そんな話をしている内に、橋を渡り切り、大きな洞窟の前へとやってきた。

 これが、いわゆるダンジョンというやつだ……入った事はないけど。


「このダンジョンの魔物は弱いけど、数は多い。私から離れないようにしてくれ」

「わかりました」

「じゃあ、行こうか」


 カレンさんが魔法で明かりを灯して先へ進んで行く。

 ……明かりを点ける魔法って、いいなー。便利そう。

 とはいえ、寝具職人には過ぎた力だけど。

 そんな事を考えながら、カレンさんの後に続き、洞窟の奥へと向かった。

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