第12話 アルスの覚悟

「では、こちらのポテトの皮をむいて、一口大に切ってもらえますか?」

「うむ。お安い御用だ」


 カレンさんと一緒に夕食を作る事になり、ポトフを作る事にした。

 簡単だし、温かいし、美味しいしね。

 床下の倉を見ると、オニオンやキャベツがそろそろ痛んでしまいそうなので、一口大に切っていく。

 あと、今日はカレンさんもいるし、ソーセージも少し使おうかな。


「アルス君。出来たぞ」

「えっ!? もう……うわっ! めちゃくちゃ早いし、凄く綺麗です! それに、ちゃんとポテトの芽まで処理してる!」

「ふふっ。これくらい、造作もない事だよ。次は何をすれば良いかな?」

「いえ。正直、一番時間が掛かると思っていたポテトをお願いしたので、もうこれといってやる事はないんです。けど、どうしてこんなにポテトの皮を薄くむけるんですか?」

「日本で……こほん。まぁ剣の扱いには慣れているからね。そうだ……少しだけ待っていくれたまえ」


 そう言って、カレンさんが家の外へ。

 まぁパンは事前に買い置きがあるし、後はコンソメを入れて煮込むだけだから……って、あっという間にカレンさんが帰って来た。


「折角だから、私も一品作らせてもらおうと思うんだが、調理器具を借りても良いかな?」

「えぇ、もちろん……って、ミルクと卵と砂糖? 何を作るんですか?」

「ふっふっふ。ナイショだ」


 カレンさんが楽しそうにウインクしたかと思うと、凄い速さで三つの材料を混ぜていく。

 ボールをかき混ぜる手が早過ぎて……って、何だか勇者の力を無駄遣いしていませんかっ!?

 そんな事を思っていると、カレンさんが混ぜたものを小さな器に移し、コンロで蒸し始めた。


「うむ。後は待つだけだ。アルス君の料理はどうかな?」

「はい。僕の方はもう食べられますよ」

「では、いただこうか。実は、この世界……えーっと、普通の家庭料理というのが楽しみだったんだよ」

「え? と言いますと?」

「いや、魔王討伐のメンバーは、王族と貴族だから料理が出来なくてね。もっぱらトリーシャが……弓使いのエルフが食事を作ってくれていたんだけど、野菜しかなかったんだ」


 なるほど。魔王討伐の旅の間は、街では外食で、野営時は野菜だけだった……という事かな?

 だから、久しぶりに家庭料理を食べたいって事なのかも。

 あー、そういう事なら、ソーセージをもう少し増やしておけば良かった。


「すみません。お肉は少ないんですけど、ポトフです。パンと一緒に食べてください」

「おぉ! 正に私が食べたかった料理だよ! アルス君、ありがとう!」

「えーっと、凄く簡単な料理で申し訳ないですけど……」

「いや、本当に望んでいた料理なんだ。いただきます!」

「いただ……? は、はい。どうぞ」


 カレンさんが両手を合わせる変わった仕草をした後、本当に美味しそうにポトフとパンを食べ進めていく。

 途中で、先程作っていた何かの火を止めに行ったけど、後は一心不乱というか、一口一口味わいながら……あ、おかわりですね。


「ごちそうさまでした! アルス君。こんなに美味しい料理をありがとう!」

「よ、喜んでいただけて何よりです」

「お礼を言っては何だが、私の作ったデザートを食べてくれないかな?」

「で、デザートですか!?」

「うむ。実は高校生の時にお菓子作りにハマってね。簡単だけど、自信作だ」


 コーコーセー? ……王女様も言っていたけど、カレンさんは時々よくわからない言葉を使うよね。

 カレンさんがキッチンから器を二つ持ってきて……これは何だろう? プルプルしてる?


「これはプリンというお菓子なんだ。ソフィアに言わせると、プディングというらしいけど……さぁどうぞ」

「は、はい。凄い……ひんやりしてますね。……お、美味しいっ! そして、甘い!」

「ふっふっふ。氷魔法を使って、凍らせないように冷やしてあるんだ」

「氷魔法……そんな使い方もあるんですね! それよりカレンさん! これお店が開けますよ!」


 カレンさんが作ってくれたデザートを美味しく食べ、ゆっくりお風呂に入り……いや、ゆっくりではないか。

 途中で、カレンさんが入って来たから。

 それはさておき、サッパリしたところで、カレンさんに連れられ、昨日に続いて王女様の部屋へ……って、誰もいない?


「あれ? ソフィアは公務かな? 待っていたら戻ってくると思うが……」

「……あ、カレンさん。そこに手紙が置いてありますけど」


 来る事を予想していたのか、カレンさん宛ての手紙が置いてあって……


「……しまった! そういえば、戦いの支援を担う者を手配するって言っていたな」

「あの、王女様は?」

「隣国に行っていて、今日は帰って来られないそうだ」


 困った事になってしまった。

 バフォメットを倒すには、カレンさんが熟睡する必要があるのに、僕がまだ枕を作れていなくて、王女様もいない。

 カレンさんが寝不足になって、魔物に負けてしまったら……ぼ、僕のせいだ!


「か、カレンさん! 僕のお店に戻りましょう! 今晩は、僕を枕にしてください!」


 何とかしなきゃ! と思って提案したんだけど……ちょっと早まったかもしれない。

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