第13話 アルスの膝枕

「アルス君。本当に大丈夫なのかい?」

「はい。僕が枕を作れていない訳ですし、またバフォメットみたいな魔物が現れた時に、カレンさんが寝不足で力が出ない……なんてのは避けたいので」

「じゃあ、お言葉に甘えて……ほほぅ。ソフィアとはまた違う感触だな。ソフィアよりも弾力がなくて硬めだが、私はこちらの方が好みだな」


 僕の部屋にあるベッドの上に正座し、太ももの上にカレンさんの頭を置いてもらうと……カレンさんがすんなり目を閉じた。

 なるほど。王女様の脚よりも、僕の脚に近付けた方が良いんだ。

 王女様の太ももは一度触らせてもらって感触を覚えてはいたけど、自分の脚なら容易に作った枕と比較出来るからね。


「……すぅ」


 って、早っ! カレンさん、もう寝ちゃったの!?

 これ、眠ったというより気絶してない?

 ちょっと不安になるくらいの寝つきの良さなんだけど。

 とはいえ、折角カレンさんが眠れたみたいなので、起こしてしまわないように極力動かないようにする。


「……んっ」


 ひぅっ! カレンさんが寝返りを……く、くすぐったい!

 けど、我慢だ。僕は枕……カレンさんの枕なんだ。

 カレンさんの横顔を見ながら、暫く耐えていると、再びカレンさんが寝返りを打ち、仰向けに戻る。

 うん。横向きになられると、いろいろとくすぐったかったけど、仰向けなら大丈夫かな。


「……はふ」


 カレンさんが眠りに就いてから、どれくらい経っただろうか。

 そろそろ僕も眠くなってきたけど……これって、座ったまま寝るしかないよね?

 枕だから……って、ベッドの上の方に座っちゃったから、後ろはヘッドボードと、ちょっとした棚があって、壁となる。

 このまま後ろにもたれかかれば……うぐっ! すぐ後ろが壁じゃなくて、微妙な棚があるせいで、背中が痛いっ!

 真っすぐ……背筋を真っすぐ伸ばしたまま寝るしかないか。

 というか、もう限界……。


……


 ふにふにした柔らかくて気持ちの良い何かが顔に押し付けられている。

 これは、顔じゃなくて、掛け布団として身体を覆っていたら最高の素材だよね。

 柔らかいだけでなく、温かいし、羽毛布団みたいにフカフカ……ううん、やっぱりふにふにの方が適しているかな。

 ……って、待った! この素材の夢は昨日も見た!

 昨日は、起きたらカレンさんの胸を触っていて……


「――っ!?」


 嫌な予感がする夢を見て、目が覚めた。

 既に朝らしく、明るさを感じる。

 だけど、そんな事より目の前の二つの膨らみは、まさか……


「あ、起きた? おはよう、アルス君。お姉ちゃんの胸枕はどうだったかな?」


 嫌な予感がしたところで、すぐ下からカレンさんの声が聞こえて来た。

 二つの膨らみから視線を下に動かしていくと……カレンさんの顔がある。

 という訳で、この二つの膨らみはカレンさんの胸な訳で……


「あの、もしかして僕、カレンさんの胸に……」

「うん。私の胸に顔を埋めて寝ていたよ」

「ご、ごめんなさいっ!」


 慌てて上半身を起こすと、カレンさんがゆっくりと僕の太ももから頭を上げて座る。


「んーっ! うん。アルス君の枕は、夜は九十点だよ。自分でもビックリするくらい早く寝付けたし」

「それは良かったです。けど、夜は……っていう事は、やっぱり朝起きて、僕がカレンさんの胸に顔を埋めてしまっていたのが大問題ですよね」

「いや、そんなのは気にしないよ? アルス君が私の胸に興味があるなら、幾らでも触るなり顔を埋めるなりしてもらって構わないんだけど、それよりも自動目覚ましというか、強制的に起こされるのがね」

「……? どういう意味ですか?」

「……あー、何ていうか、朝になると後頭部に硬い物が当たってね」


 カレンさんは一体何を言っているんだろう?

 けど、さっきからずっと同じところを……というか、僕のお腹辺りを凝視している?

 こんなところに硬い物って……あぁぁぁぁっ!


「ち、違うんですっ! これは、変な事を考えていた訳じゃなくて、勝手にというか……」

「いや……うん。大丈夫だから。さっきも言った通り、私は気にしないから落ち着いて」


 うぅぅ。早く……早く枕を完成させなきゃっ!

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