第7話 温められるアルス

「か、カレンさん!? あの、どうしてあんな所に?」

「ん? あぁ、勇者パーティに憧れて兵士になった新兵たちに、軽く腕を見せてくれと国の偉い人から頼まれていたんだよ。それで、近くのダンジョンへ行くつもりだったんだ。そうしたら、偶然アルス君を見つけてね」

「えっと、じゃあ今は僕のせいで街へ戻っているんですね」


 身体が動かせないので見えないけれど、カレンさんの教えを受ける事が出来なくなったから、きっと兵士さんたちは怒っているんだろうな。

 ここに兵士さんが何人くらいいるのかも分からないけれど、申し訳無いと思っていると、


「はっはっは。私の戦い方を見るより、アルス君を助ける方が優先に決まっているだろう。ここにいる者たちは、皆騎士を目指している者たちだ。戦い方を学ぶよりも、人命救助を優先するに決まっているだろう」

「その通りですよ。勇者様の戦い方を見られなかったのは残念といえば残念ですが、それ以上に率先して人命救助を行われた勇者様の行動を見習おうと思っております」


 カレンさんの言葉を聞いて、女性兵士さんが僕の顔を覗き込みながら微笑んでくれた。

 そう言ってもらえるなら良かった……と安堵していると、カレンさんがこそっと耳打ちしてくる。


「……ふっふっふ。実を言うと、偉い人に言われて断れなかったけど、私としては新兵に戦い方を見せるなんて面倒だったんだよ。アルス君のおかげで流れたし、感謝しているくらいさ」


 いやあの、それはそれでどうなんだろうか。

 そんな事を思っている内に、街の門をくぐり……これは何処へ向かっているんだろう。

 僕の知らない道を通って、何処かの建物の中へ。

 途中途中で、カレンさんが挨拶されているから……お城とかなのかな?

 そんな事を思っていると、どこかの部屋の中に入り……カレンさんが僕を違う誰かに手渡す。


「ふふっ、そんなに緊張しないでね? さぁ、綺麗にしましょうねー」


 綺麗なお姉さんに声を掛けられたと思ったら……えっ!? メイドさん!?

 ここは何処なのっ!?

 頭にカチューシャを付けたお姉さんが僕を何処かへ運び……あ、温かい。

 どうやらお湯を僕にかけているみたいだけど……あ、身体が動く。


「もうちょっと待ってねー。綺麗に流しちゃうから」

「え? あ、はい。あの、ありがとうございます」

「気にしないでー。じゃあ、次は服を脱ぎましょうねー」

「えっ!? ちょっ、あの……」

「はいはい。ブルースライムの粘液は温めないと固まっちゃうから、しっかり落としますよー」


 気付いたら、いつの間にかメイドさんが二人いて、僕の小さな抵抗も虚しく、あっさり全裸にされてしまった。

 お、お願い。見ないで……うぅ。僕もう十二歳なのに。


「はーい、綺麗になりましたー。せっかくなので、湯船で温まっていってね」

「……は、はい」


 うぅ、泣きたい。

 枕の材料を手に入れる為にスライムを倒そうとしたら、全身ネバネバまみれにされて、メイドさんたちに裸を見られて、全身洗われて……もう子供じゃないのに。

 トボトボ湯船まで歩いて行き、三角座りでお湯を見つめていると、


「あっはっは。どうしたんだ? アルス君」

「え……いえ、ちょっと情けないなと思いまして」


 カレンさんが僕を慰めるように頭を撫でて……ちょっと待った! ここ、お風呂の中なんだけど!

 反射的に、手が伸びている方を見てしまい……慌てて顔を反らす。


「ど、どうしてカレンさんまで裸なんですかっ!?」

「どうしてって、お風呂は裸で入るものだろう?」

「えぇっ!? ……って、待ってください! まさか、ここって女風呂!?」

「そうだが? あぁ、大丈夫だ。ちゃんと事情を説明して許可は取ってある。それに、ブルースライムの粘液はやっかいなんだ。水と混じればゆるゆるになって簡単に流し落とせるんだが、一度固まってしまうと、お湯などで温めないといけないからね」


 そうなんだ……って、それなら男風呂に放り投げてくれれば良かったのに。

 いやまぁそれはそれで危険だから、ダメなんだろうけどさ。

 それから、カレンさんに百まで数えるように言われ……いやあの、それってもっと幼い子供に言う事だよって指摘したんだけど聞いてもらえず、しっかり温まって湯船を出る事に。

 脱衣所では二人のメイドさんに身体を拭かれて、綺麗な服に着替えさせられ、その上汚れた服を洗濯までしてもらってお店に帰る事になってしまった。

 平均よりも背は低いけど、僕はもう十二歳なのーっ!

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