第9話 勇者の力
カレンさんと共にダンジョンを進んで行くと、昆虫系や動物系に、爬虫類系の魔物が沢山現れる。
その魔物たちを、カレンさんが一瞬の内に倒していくと、見た事のない黄色いスライムを発見した。
「おっ、アルス君。イエロースライムだ」
そう言うと、カレンさんが何かの魔法を使い、スライムを真っ二つにした。
「凄い。カレンさんは攻撃魔法も使えるんですね」
「あぁ。と言っても中位魔法までで、高位魔法は使えないんだけどね」
ひとまず、カレンさんが魔法で倒したスライムの死骸を手に取る。
……魔法で真っ二つに切られているからか、グリーンスライムよりも柔らかくなっていた。
「あの、カレンさん。本当に申し訳ないんですけど、極力スライムの表面を傷付けずにコアを壊す事って出来ますか? どうやらスライムは、コア以外を斬れば斬るほど、弾力性が失われるみたいなんです」
「ほう。スライムにそんな特性があるなんて知らなかったよ。ちょっと待ってて」
そう言って、カレンさんが剣を鞘に納める。
魔王を倒したカレンさんから凄い気迫が伝わってくるけど、この黄色いスライムはどれ程の強さなのだろうか。
ここへ来るまで、カレンさんはずっと剣で魔物を斬ってきたけど、突然魔法を使ったのも何か理由があるのかな?
「イエロースライムは、別名アシッドスライムと言ってね。酸を飛ばして武器や防具を腐食するんだ」
「あ! だから、さっき魔法で倒したんですね?」
「その通り。風の魔法で斬撃と同じ様に斬ったんだけど……スライムの体内にあるコアだけ破壊するというのは、考えた事もなかったよ。初めて試みるけど、上手くいく……かな?」
カレンさんがそう言った直後、その姿が……消えた!?
そう思った後には、スライムが白く輝き……半島目の身体の中にあるコアが綺麗になくなっていた。
「……ふぅ。お待たせ。これでどうかな?」
「わぁっ! 凄い……表面に傷が一つもついていないのに、コアだけが破壊されてます! ……あの、本当にどうやったんですか?」
「何。私は勇者だからね。光魔法というのが使えるんだよ」
「光魔法……今も周囲を照らしてくれている、これですよね?」
「うん。この光を極限まで細くして、かつスライムの細胞を壊さない程度の魔力に抑えたんだ。後は、その光を様々な角度からコアに当てたんだよ」
……うん。一体カレンさんは何を言っているんだろう。
レーザー光線による光線力学的治療みたいな感じだよーって言われたけど、何を言っているのかサッパリだよ。
ひとまず、僕が消えたと思った時には、カレンさんがスライムの周囲を動き回って光魔法を連発していたらしいけど、目で追えないくらいの速さ……って、凄過ぎない!?
ただ、その甲斐あってか、かなり王女様の太もものムチムチ感に近いスライムを得る事が出来た。
これなら、今度こそカレンさんが満足する枕が作れるのではないだろうか。
「じゃあ、一旦ダンジョンから出て、またカレンさんに確認してもらいましょうか」
この材料を早く確認したくて、急いでダンジョンを出ようと後ろへ振り向くと、
「アルス君っ! 待つんだ!」
カレンさんの声が響き渡り、思わず足を止めると、それと同時に何かが目の前に振り下ろされた。
あ、危ない。今のは全く見えていなかった。
直後に、腕を引かれてカレンさんの後ろへ。
その際に、カレンさんが対峙している相手の姿が見え、先程僕の目の前に振り下ろされたものが何だったのかがわかった。
「きょ、巨大な鎌!?」
山羊みたいな顔をした人型の魔物が、床に突き刺さった大きな鎌を軽々と引き抜いたところで、
「はぁっ!」
カレンさんが鞘から剣を抜き、真横に薙ぎ払う。
これで終わり……と思ったのに、山羊の顔の魔物が鎌でカレンさんの剣を防いだ。
だが、防がれたとわかった途端に、カレンさんが次々に連撃を放ち……魔物が全て防いでいる!?
一体、どうなっているの!? ここって、新兵を連れて訓練をしようとしていたくらいだから、凄いダンジョンじゃないんだよね!?
何かカレンさんに加勢出来ないかと考えていると、
「待て。その子供が向かって来たから、反射的に攻撃してしまったが……お前と戦いに来た訳ではない。人間族の勇者よ」
山羊の顔の魔物が喋ったぁぁぁっ!
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