第4話 及第点の枕

 ふわふわ……ううん。ふにふに……かな。

 柔らかくて肌触りの良い、今までにない素材だ。

 これで枕を作ったら、とても気持ちが良いと思う。

 いやでも、この柔らかさは枕というより、掛け布団の方が適しているかも。

 不思議と、いつまでも触り続けていたいと思う感触と、良い香りに包まれ……


「……スさん。アルスさん」


 可愛らしい声に呼ばれ、身体を揺すられる。

 どうやら夢を見ていたようで、ゆっくり目を開くと、大きな二つの膨らみが……これは何だろう?


「あ、起きた……って、アルスさん。寝ぼけてないで、手を離して下さい」

「ふふっ、私は別に構わないぞ。可愛い弟みたいだし」

「仮に弟だとしても、姉の胸を触らせたりしませんよっ!」


 昨日、似たような話があったなと、何となく考え……眠気が吹っ飛び、慌てて起き上がる。

 先程まで僕が眠っていた場所にカレンさんが横たわっていて、僕の顔があった場所には、カレンさんの胸が……


「ご、ごめんなさいっ! 僕、もしかして触ってました!?」

「うん。私が目を覚ましてから、今までずっとね。とはいえ、アルス君は完全に寝ていたし、まぁ気にしなくて良いよ」

「その通りです。カレンさんは目が覚めているから起き上がれば良いのに、ニヤニヤしながらアルスさんをずっと見ていましたからね。アルスさんよりカレンさんの方がダメですから」


 カレンさんがニヤニヤしながら僕を見つめてくる一方で、王女様が庇ってくれる。

 けど、いくら寝ぼけていたとはいえ、触ってしまった僕が悪い……と思っていたら、カレンさんが起き上がり、僕の手を取った。


「さて、アルス君。時間も無い事だし、先ずは現時点で最高の枕を確認して欲しい」

「え? 確認って……えぇぇぇっ!?」


 カレンさんが僕の手を引いて、王女様の太ももを撫でさせる。

 だ、ダメだよっ! 不敬罪で捕まっちゃうぅぅぅっ!


「うぅ。カレンさんの事だから、きっとこうなると思っていましたけど、一回だけですからね?」

「それはアルス君次第だが……しっかり確認しておいてくれ。ソフィアも暇ではないから、毎晩触らせてくれる訳ではないからな」

「これが最初で最後ですよっ!」


 い、一応王女様も認めてくださっているし……ここはちゃんと調べておくべきか。

 最高の睡眠を提供する、浪漫寝具店の枕を作る為にも、遠慮している場合じゃない!


「弾力が……なるほど。触り心地はサラサラよりも、ちょっとだけしっとり気味で……」

「わ、私の太ももの感想を声に出すのは、流石に止めて欲しいかな。恥ずかしいから」

「いやいや、アルス君が私の最高の枕を作る為だ。ほら、アルス君。ペタペタ触ってばかりでないで、実際に寝てみよう」


 そう言うと、カレンさんが僕の身体を軽々と持ち上げ……この細い腕に、どうしてこんな力があるのかは分からないが、無理矢理王女様の脚に頭を置かれてしまった。

 なるほど。ムニムニとした感触が気持ち良いかも。

 それに、ちょっと良い香りがしている……気もする。

 そう言えば、昨日はカレンさんが寝返りを……うん。こういう感じか。


「ちょっ! アルスさんっ! そこまでっ! それ以上はダメですっ! うつ伏せには絶対なっちゃダメぇぇぇっ!」

「おぉ、流石は国内最高の寝具職人だ。入念な調査をしているが……しかしソフィアが泣きだしそうになっているから、ここまでにしておこう」


 そう言って、カレンさんが僕を抱き起こす。

 ひとまず、肌触りや弾力に、香りを実際に確認出来たのは良かった。

 だけど、僕が街で買った材料では、王女様の脚に到底及ばない。

 特にあの肌触り……ムニムニと弾力があって、肌に吸い付くような柔らかさで、しっとりとした感触も残っていた。

 あの肌触りを再現するには、一体どのような生地を用意すれば良いのだろうか。

 頭の中で、いろいろな素材や生地を思い浮かべていると、突然部屋がノックされる。


「おはようございます。ソフィア王女様。朝食の準備が出来ておりますので、お着替えを……」

「マズい! 私だけなら問題無いが、男の子のアルス君は非常にマズい! ソフィア、ではまた来る!」

「えーっと、アルスさん。カレンさんの事、よろしくお願いいたしますね」


 どうやら王女様のお付きのメイドさんが来たみたいで、カレンさんが慌てて僕を抱きかかえ……窓から飛び降りたぁぁぁっ!

 カレンさんの身体能力が凄いのは分かったけど、もっと普通に……普通に移動させてぇぇぇっ!

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