第3話 カレンさんの枕?

「あの、カレンさん。ここは……」

「気にするな。すぐに分かる」


 カレンさんが僕を抱きしめたまま、ピョンピョン屋根の上を飛んでいったかと思うと、どこかの窓から、凄い部屋に連れて来られた。

 天蓋付きの大きなベッドに、フカフカの枕……これは見た事ないくらい上質なシルクだ。

 なるほど。街で買える最高のシルクを準備していたけど、確かにこの枕に比べたら、二十点と言われるのも納得がいく。

 他にも、何の生地かわからないくらいに上質の毛布……あ、これ敷かれているシーツまでシルクだ!


「なるほど。カレンさん、これが六十点の枕なんですね」

「え? いや、違うぞ? これは……うん、三十点だ」

「こ、この枕で三十点ですかっ!?」


 カレンさんがベッドに寝転び……枕を酷評する。

 ハッキリ言って、僕が……いや、お父さんが最高の枕を作ったとしても、この枕に及ばないのではないと思う。

 では、カレンさんがこの倍の点数を付ける枕とは、一体どんな枕なのだろうかと、カレンさんに聞こうとしたところで、部屋の扉が開き、一人の女性が入って来た。


「……って、ソフィア王女様!? どうしてここに!?」

「どうして……って、それは私の台詞ですよ? まぁカレンさんが無理矢理連れて来たのでしょうが……ここは私の部屋なんです」

「えぇぇっ!? 王女様の部屋っ!? も、申し訳ありません!」

「いえ、先程も言いましたが、アルスさんは連れて来られたのでしょう? まぁ目的も分かっていますし……」


 そう言って、王女様がカレンさんに目を向ける。


「カレンさん。今夜だけですからね?」

「ふふ、ソフィアは話が早くて助かる。さぁ、アルス君。現時点で、私が唯一及第点を付けている枕だ。よく見ておいてくれたまえ」

「は、はい」


 カレンさんが、王女様と共にベッドへ。

 でもベッドには、さっきカレンさんが三十点だと言った枕しかない。

 実は他に枕が隠れている……とか?

 一体どういう事なのかと思って様子を見ていると、王女様がベッドの上に座り、カレンさんが……王女様の太ももに頭を乗せたっ!?


「か、カレンさん!? ま、まさか及第点を付けた枕って……王女様の膝枕なんですかっ!?」

「膝枕というか、太もも枕だな。このムチムチとしたソフィアの太ももは、柔らかすぎず、かといって硬い訳でもなく、私の頭をしっかり受け止めてくれる。それに、肌触りも良いし、香りも……くぅ」


 えっ!? 寝たっ!? カレンさんが、喋りながら数秒で眠りに落ちたぁぁぁっ!

 いやまぁ、そもそも大きなクマが出来るくらい眠そうだったので、仕方がないのかもしれないけどさ。

 けど、王女様の太ももで、やっと六十点……僕は、王女様の太ももよりも寝心地の良い枕を作らなくてはならないのか。


「……アルスさんも来ていただけますか?」

「ふぇっ!? ぼ、僕も王女様の太ももで寝るって事ですかっ!?」

「ふふっ……女性のカレンさんはともかく、アルスさんがそんな事をしたら、打首獄門ですよ?」


 いやあの、微笑みながら怖い事を言わないで欲しいんですけど。

 とはいえ近くへ来るように言われたので、ベッドの傍に立つと、王女様がカレンさんを起こさないようにするためか、小さな声で話し始めた。


「カレンさんは、世界に六体居ると言われる魔王の内の一体を倒し、この国を……いえ、この大陸を救った英雄なんです」

「えっと、王女様も一緒に魔王討伐の旅に出られたんですよね?」

「えぇ。約一年間、カレンさんと行動を共にし、命を懸けて魔王と戦いました。だから……だからこそ、分かるんです。カレンさんが半分他人になっているという事が」


 ……はい? えっと、カレンさんは王女様の脚に頭を乗せて爆睡しているんだけど。


「あの、どういう意味でしょうか?」

「私たちは魔王の一体と戦い、激戦の末に勝利したのですが、カレンさんが止めとなる最後の一撃を放った直後……魔王がカレンさんに死の呪いをかけたのです」

「死の呪い!?」

「はい。それは、どんな防御魔法でも防ぐ事が出来ない、受けた者は必ず死ぬと言われる魔王の呪い……なのですが、何故かカレンさんは死ななかった。いえ、それ自体は凄く喜ばしい事なのですが、枕が変わったから眠れないとか、味噌汁が飲みたいとか、日本へ帰りたいとか……姿はカレンさんなのですが、意味不明な事を言うようになってしまったのです」


 味噌汁? 聞いた事が無いけど、飲み物の名前って事なのかな?

 あと、日本って何だろう? 帰りたいって事は、地名……なのかな?


「えっと、枕が変わったというのは……」

「わかりません。魔王を倒すまでは、カレンさんは枕に拘るような方ではありませんでしたし、そもそもどこでもすぐに眠られる方でした。それが魔王を倒してからは、こうして私の脚を枕代わりにしないと眠れなくなってしまって……」

「な、なるほど?」

「アルスさん。私は公務があるため、毎晩カレンさんに膝枕してあげる事は出来ません。どうかカレンさんが熟睡する事が出来る枕を作ってあげてください!」


 王女様から改めて要望を聞いたんだけど、声が少し大きくなってしまったからか、カレンさんが寝返りを打ち、


「うーん……うるさい」

「ふぁっ!? か、カレンさーんっ!? 寝ぼけないで……」


 凄い力で抱きしめられ、ベッドに引き上げられてしまった。


「あ……残念ながら、そうなってしまったら、朝まで出られません。魔王城から帰還するまでに、エルフのトリーシャも何度か……」


 えっ!? 朝までカレンさんに抱きしめられたままなのっ!?

 王女様のベッドで!?

 た、助けてぇぇぇっ!

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