第2話 凱旋パレード
「うーん。新規のお客さんが来てくれたのは嬉しいけど、よりによって王女様だなんて……しかも、こんな大金まで」
最高級の材料を全て買い揃えて手間賃なんかを差し引いたとしても、これだけのお金があれば、五十個くらい枕が作れてしまう。
流石に、このお金を全額受け取る事は出来ないので、後で返しに行かなきゃ。
ただ、王女様からはお店に来た事を秘密に……と言われてしまったので、どうやって返しに行こうかと考えていると、店の外が騒がしくなってきた。
「おい、勇者様たちの凱旋パレードが始まったぞ!」
「もうすぐ屋根を座席に改造した、特別馬車が来るぞ!」
「先頭は……勇者一行を治癒魔法で支えた、ソフィア王女様だっ!」
ソフィア王女様っ!?
慌ててお店から外に出て……って、人が多過ぎて見えないっ!
……そうだっ!
大急ぎでお店に戻ると、二階の自分の部屋へ。
僕の部屋は大通りに面しているから、窓を開けると……見えたっ! 外の人たちが言っていたみたいに、馬車の屋根に柵が取りつけられたパレード用? の馬車にソフィア王女様が乗っていて、優しい笑みを浮かべながら手を振っている。
「王族でありながら、勇者様と共に魔王を倒したなんて、ソフィア王女様は凄いよな」
「あぁ。国民の為に……って、常に俺たちの事を気に掛けてくれているし、慈愛の女神様だ!」
「ソフィア王女ー! ばんざーい!」
窓の下で、街の人たちがソフィア王女に声援を送っている。
この人たちも、まさかその王女様がついさっきまでこのお店に居たなんて思わないよね。
それから、次は古代魔法の使い手だっていう女性魔法使いさんを乗せた馬車が通って行き、続いて弓聖という称号を授かっている女性エルフを乗せた馬車が通って行った。
「いよいよ勇者様だな! 聖剣に選ばれし乙女……さぞかし清楚で可憐な少女なんだろうな」
「魔王討伐の旅に出発する時は、魔族に命を狙われないように……って、こんなパレードはなかったからな」
「さっきの魔法使いやエルフみたいに、きっと美しい女性に違いないぜ!」
次はいよいよ、魔王を倒した勇者様を乗せた馬車が通るらしい。
王女様以外は初めて見る人たちばかりだったけど、勇者様は一体どんな女性なのだろう。
わくわくしながら待っていると、窓の下が騒がしくなっていく。
きっと勇者様を乗せた馬車がやってき……えぇっ!?
「か、カレンさん!? あんなところで何をしているの!?」
何故か、さっき王女様と一緒に来ていたカレンさんが馬車に乗っていて、物凄く不機嫌そうに腕を組んでいる。
真っすぐ前を向き、笑顔も手を振ったりもせず……って、あの馬車は勇者様が乗っているはずだよね?
それなのにどうしてカレンさんが……えっ!? ちょっと待って! そういえばさっき、凱旋パレードに参加って……ま、まさか、カレンさんが魔王を倒した勇者様なのっ!?
でも魔王を討伐する旅って、過酷だよね? それなのに、枕が変わると眠れない……って、まさかマイ枕を持って魔王討伐の旅に!?
そして、魔王軍との激しい戦いの末、枕が犠牲になってしまい、マイ枕を失ったカレンさんは魔王を倒したものの不眠症になって……そうか! そういう事だったのか!
「カレンさん! 枕の仇は取ってくださったんですよね!? そこまで枕に拘りのあるお方……僕も全力でお応えさせていただきますっ!」
そうと決まれば、カレンさんが今晩からでも安眠出来るように、予め最高の材料を揃えておかなくっちゃ!
まずは……生地屋さんだっ!
……
「アルス君。いるかい?」
夕方まで街中を駆け回り、最高級の枕の素材を買い揃えて店に戻り、夕食を済ませたところで、カレンさんがやって来た。
「はいっ! カレンさん……僕は、カレンさんが安眠出来るように、全力を尽くさせていただきます!」
「おっ、嬉しいねー。宜しく頼むよ。実は魔王城から、王都へ戻って来るまでの間、殆ど眠れていなくてね」
「お任せくださいっ! 尊い犠牲を弔う為にも、カレンさんには是非安眠していただきたいんですっ!」
「尊い犠牲……? よく分からないけど、任せるよ」
「では、こちらで横になってもらえますか?」
カレンさんにお店のベッドで寝てもらう。
ベースとなる枕を基にして、先ずはカレンさんの枕の好みを聞いていこうと思ったんだけど、
「……二十点だな」
「えっ!? えっと、何が……ですか?」
「この枕だ。肌触りも悪く、香りも良くないし、硬い……これがこの国の最高の枕なのか?」
「いえ、これはカレンさんの好みを調べる為の物で、完成品ではありませんが……カバーもダメですか? この街で一番良いシルクなのですが」
「ダメだな。少なくとも私好みではない」
シルクのサラサラ感がダメなのだろうか。
だとすれば、生地をリネンにすべき? でも、リネンは……ひとまず、お店にあるリネンのカバーを持って来よう。
「カレンさん。では、こちらの枕はどうですか?」
「……十二点だ」
「えぇっ!? そ、そうですか」
「アルス君には、先ず私の好みを知ってもらう必要がありそうだな。一緒に来てくれ。私がまだ眠る事が出来る、六十点の枕を教えよう」
そう言うと、カレンさんが僕の手を引いて、店の外へ。
戸締りだけさせてもらうと、突然僕を抱きかかえて……ちょ、カレンさんっ!? 飛んでるっ!? 屋根から屋根へ……って、落ちるぅぅぅっ!
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