第5話 弾力性のある材料
カレンさんに抱きかかえられ、お店に戻って来た。
まさか王女様の部屋に泊まる事になるなんて、想像も出来なかったよ。
「さて、アルス君。私が求めている枕がどんなものかは、ある程度わかったかな?」
「はい。うちの店だと、柔らかい素材で、寝ている人の頭を優しく受け止めるような枕が人気なんです。けど、カレンさんはそういう枕ではなくて、割と弾力がある方が良いんですよね?」
「そうだねー。低反発枕はあんまりしっくりこなくてね。ずっと高反発枕を使っていたんだ」
「高反発枕……?」
「あぁ、あんまり気にしないでくれたまえ。それより、今日も予定があるんだ。昼過ぎ……おやつの時間くらいには戻れると思うよ。じゃあ、行ってくるね」
おやつの時間……アフタヌーンティーの事かな?
とりあえず朝食を済ませ、お父さんに貰ったレシピを見返してみる。
僕が知る限りでは、弾力があって、かつ硬すぎない素材は一つしか当てが無いんだけど……あった!
「やっぱりコレ……だよね。……スライム」
魔物であるスライムだけど、コアと呼ばれる魔物の核を破壊すれば、動かなくなる。
なので、極力身体を傷付けずに、体内にあるコアだけを攻撃したい。
「となると……これかな」
作業場の奥にある道具入れの中から、フルーレと呼ばれる細い剣を手にする。
細身剣という武器の一種なんだけど、これを使って一突きでスライムを倒せば、目的の素材が手に入るはずだ。
念の為、道具入れの中にあった盾も持ち出し、分厚い革の服に着替える。
よし……行こう!
布袋に入ったフルーレを手にして街の門へ。
「ん? アルスじゃねえか。棒なんて持って何処へ行く気何だ?」
「西の草原だよ。寝具の材料を採りに行くんだ」
「草原か……まぁあそこなら、弱い魔物しか出ないか。とはいえ、まだ子供なんだ。何かの材料を採りに行くんだろうが、魔物が出たらすぐに逃げるんだぞ」
門で兵士のオジサンに声をかけられたけど、僕はもう子供じゃないのに、すぐ子供扱いするんだから。
「おじさん。僕はもう十二歳なんだからね!?」
「いや、まだ十二歳だろ。背伸びしたい年頃なのは分かるが、決して無茶はしないようにな」
えぇー。ちょっと納得いかないけど、お昼にはお店へ帰って作業を始めたいし、先を急ぐ事にした。
街の西側から外へ出ると、広い草原が続いている。
北に行けば大きな河があって、現れる魔物が少し強くなるんだけど、この西側はとにかく初心者向きで、弱い魔物しか現れない。
……と言っても、僕は自分で魔物を倒した事は無いんだけどね。
お父さんが魔物を倒して、その素材を一緒に持ち帰った事ならあるけど、あの時は戦うお父さんの背中を見ていただけだった。
「今日は、僕が魔物を倒すんだ! 眠れないカレンさんに最高の寝具を作る為にっ!」
袋からフルーレを取り出すと、街道から外れて草むらの中へ。
狙いは草むらにいる、グリーンスライムだ。
小さければ手の平大で、大きくても大人の頭くらいの大きさしかない上に、昆虫なんかを溶かして食べる魔物なので、人間が襲われる事はまずない。
なので、魔物と戦った事のない僕でも倒せるはず!
という訳で、草むらの中を探し回っているんだけど……いたっ!
半透明の緑色のスライムが、小さな昆虫を追いかけて、ゆっくりと移動している。
「……えぇーいっ!」
透けて見えているグリーンスライムのコアにフルーレを突き刺し……一度目はコアからズレてしまったけど、一旦引き抜いて二度目で倒す事が出来た。
動かなくなったグリーンスライムを拾い上げて……思っていたほど弾力はない。
コアを破壊したから?
それとも、元からこれくらいの弾力なの?
流石に生きているスライムを枕にする訳にもいかないから、コアは破壊するしかないんだけどさ。
「とりあえず、素材として回収して、他のグリーンスライムも倒してみようかな。弾力に固体差もあるかもしれないし」
という訳で、再び草むらの中を探し回り、二体目、三体目のグリーンスライムを倒したんだけど、やはり弾力が足りない。
出来るだけコア以外にダメージを与えない方が、弾力を保ったままだというのは分かったものの、王女様の太ももはもっとムチムチしていたんだけど、倒したグリーンスライムはフニフニしている。
どうしたものかと考えていると、少し離れたところに今までとは違うスライムがいた。
「あれは……青色っ!? あんなの知らないけど……もしかしたら、弾力が違うかも!」
緑色以外のスライムを見るのは初めてだけど、最高の枕の為に倒してみる事にした。
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