第19話 風の精霊魔法
翌朝。
結局、ニーナちゃんとカレンさんから枕にされたまま、身動きがとれずに僕も眠ってしまっていた。
目が覚めた時には、僕はニーナちゃんのお腹に顔を埋めていて……カレンさんの時みたいに、胸じゃなくて良かったよ。
たぶん、ニーナちゃんの背が低いおかげだと思うけど。
それからニーナちゃんも目を覚まし、
「き、昨日は疲れてただけなんだからっ! アルスの温もりが良かった訳じゃないんだからねっ!」
起きたニーナちゃんが、顔を赤らめながら謎の文句を言ってきたけど、疲れていたのならし方ないかなと。
「と、とりあえず、朝食にしましょうか」
ひとまず食事で機嫌が治ったのか、ニーナちゃんが笑顔になっている。
ただ、オムライスのケチャップが口について……うん。やっぱりまだ幼いんだね。
「ニーナちゃん。動かないで……はい、取れたよ」
「ん……ありがと」
カレンさんが作ったくれたご飯が美味しかったおかげだろうか。
子供扱いするなと怒るかな? と思ったけど、普通にお礼を言われてしまった。
だけど、その一方で何故かカレンさんが凄く不機嫌だ。
昨日、ニーナちゃんが僕を枕にして眠っていたせいで、カレンさんがよく眠れなかったのかも。
「くっ……アルス君は私の口を拭いてくれなかったのに」
えぇ……いやあの、カレンさんは大人ですよね?
ひとまず、カレンさんが寝不足とかではなさそうなので、昨日やりかけていたパープルスライムの臭いをどうしようかと考えていると、ニーナちゃんが近づいてきた。
「ん? アルス。その紫のスライムをどうするの?」
「カレンさんの枕にするんだよ」
「えぇっ!? スライムをっ!? カレン様の枕にっ!?」
「いや、うちは寝具店だけど、スライムを使った寝具は結構あるんだ。まぁ、このパープルスライムを使うのは初めてだし、臭いもあるから困っているんだけどさ」
「ふーん。じゃあ、変なものではないのね。けど、カレン様の枕が臭いというのは許せないわね。ちょっと、そこに置いてくれる?」
ニーナちゃんに言われた通りに、パープルスライムを作業台に置くと、ニーナちゃんが杖を向ける。
その直後、緑色の風がスライムを包み込む。
「ニーナちゃん。これは?」
「風の精霊の力を使って、そのスライムの臭いを封じ込めたの。嗅いでみればわかるわ」
という訳で、ニーナちゃんに言われた通り嗅いでみると……何の臭いもしない!
「凄い! ニーナちゃん、凄いよ!」
「ふふん。大魔法使いたる我からすれば、これくらいは当然! さぁカレン様。ニーナの華麗なる精霊魔法で臭いを封じ込めた、この枕をどうぞ」
「おぉ、ありがとう。では早速……こ、これはっ!」
カレンさんが臭いの消えたパープルスライムに頭を置いた瞬間、ハッと目を開け、すぐに起き上がる。
「……風の精霊の力のせいだと思うが、弾力のあるスライムの枕ではなく、ただのフワフワした枕になってしまった」
「えぇっ!? という事は、この枕は……」
「うむ。悪いが、全然ダメだな。何か別の方法を考えた方が良さそうだ」
僕も触ってみたけど、確かにフワフワしていて、カレンさん好みではなさそうだ。
弾力は問題ないというところまできたので、あと少しなんだけど……どうすれば良いのやら。
毒沼に生息し、体内に毒を持つパープルスライムの臭い消し……そもそも毒沼に生息している時点で、厳しい気がしてきたよ。
とはいえ、どうにかしなければと頭をひねっていると、外から誰かがお店のドアを激しく叩く。
近くにいたカレンさんが扉を開けると、男性が飛び込んできて、大声で叫ぶ。
「か、カレン様! ま、魔物です! この辺りでは見た事の無い魔物が、街の周囲に!」
「ニーナ君! 行くぞっ!」
「はいっ! カレン様っ!」
この人は、どうやら昨日王女様と一緒にいた騎士の一人みたいだ。
とはいえ、枕も完成していないのに、もうバフォメットが攻めて来たのか!
「カレンさん。僕も……」
「何を言っているんだい。魔物を倒すのは私とニーナ君の仕事だ。アルス君は、枕の作成と……そうだな。美味しい昼食の準備を頼む」
「アルス、大丈夫よ。我が精霊魔法は最強! 魔物如き、殲滅してくるから!」
そう言って、やって来た騎士さんと共に、カレンさんとニーナちゃんが店を出て行った。
確かに戦闘は僕には無理なので、カレンさんの為にも早く枕を完成させなきゃ!
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