方舟の向こうのペイリー

このレビューは小説のネタバレを含みます。全文を読む（232文字）

アンドロイド2024-8は、コールドスリープ中の九歳の少年を保守してきた。
少年の目覚めは、停滞していた2024-8の時間をも動かしはじめる――。

ポストアポカリプスのしっかりとしたSFでありながら、KAC2024のお題を全部詰め込んだ贅沢仕様の物語。

色素の薄いマスターに合わせて設定されたアンドロイドのペイリーと、少年アッシュ。
この淡い色合いの二人の世界に溶け込むように、あちこちにちりばめられて馴染んでいるお題使いは、見事としか言いようがありません。

百五十年余り、人間が活動を停止した地上は、現在どうなっているのか。
終末から目覚めた世界の風を、あなたも感じてみてください。

マスターである少年の目が覚める。
アンドロイドであるペイリーは、彼の目覚めとともに、彼から名付けられた名前を思い出した。

「パパとママは？」

起きて早々、ペイリーに尋ねる少年アッシュ。

158年間の眠りからさめた世界は、荒廃しきっていた。
――それでも、隣にはアッシュがいる。

途方もなく無情な世界で、アッシュによってだんだんと取り戻されるペイリーの心の機微に、心震えました。