鬼は~外っ!

 約束通りの時間にログインする。

 さすがに、今日の中央広場はごった返してるぞ。

 いつもは他の街やダンジョンに散っているプレーヤーたちも、今日は王都に戻ってきている。二月のイベント、『フェアリー・レスキュー』当日だもん!

 鍛冶屋たちは、今日の為に各プレイヤーが集めてきた銀の原石をインゴッドに変え、次々と銀の豆を生産していく。

 その豆は、中央広場の大鍋に集められ、神官たちが破邪の魔法を込め、清める。

 何で豆なのかって?

 それは、節分だからに決まっているじゃない!

 木工を始めとする生産プレイヤーが作ったスリングで豆を投げ、暴走状態で押し寄せる小鬼……ゴブリンたちを退治するのさ!


 東門方向に、合図の【花火パイロ】が上がった。

 あれは、元ラスボスのフェニックス『ホウちゃん』に乗って空から見張ってる、聖女リオンちゃんが、逃げてくる妖精さんたちを見つけた合図。

 昨日、私が大量に作った【花火パイロ】の魔石が、役に立っているようで嬉しいぞ。

 このイベントは、ゴブリンを退治することではなくて、逃げてくる妖精さんたちを何人王都に迎え入れ、助けることができるか? が目的なのです。

 お城のバルコニーでは、妖精さんカウンターを前に、アゲアゲなお姫様が煽りまくってます。う~ん、天職だ。

 やっぱり、リオンちゃんが鳳ちゃんを手に入れたのは大正解。

 城門の外を空から見張れるキャラクターが、ひとりきりなのと、二人いるのでは大違いだもん。

 私は、盛大な火柱を上げて、リオンちゃんに交代の合図を示す。

 ド派手な登場に、大歓声を受けた私が舞い上がる。

 午前十時のスタートから、六時間頑張ってくれた健気な聖女様にサムアップ!

 リオンちゃんは少しオフラインで休んで、午後九時からのラストスパートと、その後の打ち上げパーティーに再び参戦の予定。しばし、のんびりするんだよ!

 破邪の豆のコマンドワードを、みんなで唱えよう!


「鬼は~外っ!」


 む? 西門方面に、キラキラ感が有る。

 そっちに移動してみると、妖精さんたちが必死に逃げてくるぞ。

花火パイロ】を上げよう! プレイヤーさん、こっちだよ!


 いつものように、魔法で一掃できると楽なのだけれど……。

 私と、シッポナ、キメラのキラくん。そして、リオンちゃんと鳳ちゃんの直接攻撃は禁止されてるの。やってしまうと、ひと攻撃につき、妖精さんカウンターがマイナス五千されてしまい、みんなに顰蹙を買うのです……。

 だって、何人妖精さんを保護できたかで、賞品が変わるんですもの……。

 鬼の面から、金棒、ますとレベルアップする賞品の最終目標は、十万人保護の報酬『お手伝い妖精さん』だ。

 名前に反して、何もお手伝いしてくれない妖精さん。

 キラキラ飛び回り、時折プレイヤーの肩に留まっては、何だか解らない妖精語で語りかけてくれたり、頬にスリスリしてくれるペットキャラ。

 テイマー職など無い、このゲーム。

 私のシッポナや、リオンちゃんの小鳥たちは、実はプレイヤーさんたちに相当、羨ましがられているらしい……。


「私たちにもペットをプリーズ」


 の声に応えての導入なのだとか。

 それぞれの好みの動物をいちいち訊いていたら、埒が明かないものね。

 みんなで護り、受け入れた妖精さんたちと仲良くなるストーリーだ。

 それまでは


「こんなにイケてる女の子を揃えていて、何で二月のイベントが節分よ?」


 と、ブーたれていたワガママ姫が、俄然


「コンパニオン・プレイヤーにも妖精って、貰えるんでしょうね?」


 と、蒔田ワールド・デザイナーさんに詰め寄って、OKされたら、一気に気合が入った。

 ……実は、ペット持ちが羨ましかったの?

 私は武闘派のシッポナが狩りに動きそうで、辞退しました。

 リオンちゃんは小鳥もいるから……同じくらい可愛かったら欲しいと保留。

 ミリィちゃんは、本人と同じで昼間見えなくて、壁抜けもできる子を熱望して認めて貰った。そうしないと、妖精さん、置いてきぼりになっちゃうもん。


 今度は西門に方向に、キラキラ反応!

 空飛ぶ私の動きを見て、ジュリア姫が「今度はあっち!」とプレイヤーたちを先に動かしてくれる。

 豆を投げるのにもHPを使うから、プレイヤーさんも出たり、入ったり大変だ。

 宿屋のナナリーさんが、大鍋で魔力回復効果の料理を作り、お清め神官ズのMP回復を助け、エリーゼさん、リリカさんの歌唄いコンビは【回復リジェネ】の呪歌でHP回復を助ける。

 みんな総出の大イベントだ。

 おっと、鍛冶屋のソフィアさんから、メッセージが入ったよ?


「ユーミちゃん、ちょっとキラくんに乗せてくれないか?」

「へ? ソフィーさんも、空を飛びたい人?」

「それも興味があるけど……今、プレイヤーの数が一番少ない時間帯だから、正門方面のゴブリンを叩くのに、シフォンさんが出るんだって!」


 わわっ、それは私も興味津々だ。

 エレガントな服飾協会会長さんは、実はかなりの使い手と見られている。

 腰に下げた謎の黒拵えのサーベル『黒鳥』は、ソフィアさんが魔剣じゃないかって、予想している業物っぽい剣。

 それは近くで見せてあげたい。

 リアルタイムで午後六時半。晩御飯やら何やらで、昼のプレイヤーさんが落ち、夜のプレイヤーさんが来るには少し早い時間。

 ソフィアさんを乗せたキラくんが戻ってきた頃、正門から黒いゴスロリ姿の小さな影が、戦場となっている草原に進み出た。

 シッポナアタックを、軽く素手で受け止めちゃう人だ。どんな戦い方をするんだろう?

 雲霞のように迫りくるゴブリンたちを踊るようなステップで躱し、ついにその剣を抜く。

 うわぁ……剣の拵えだけでなく、刀身まで真っ黒だ。

 格下ゴブリン相手とはいえ、その優雅な動きはダンスを踊ってるみたい。


「突いたり斬ったりした後は、必ず炎が上がっている。あれ、絶対に炎ダメージプラスの魔剣だろう……」


 鍛冶屋として魔剣製作に燃えるソフィアさんが目を輝かせた。

 私としては、こんな綺麗な戦い方が有るんだとビックリしてる。蝶のように舞い、蜂のように刺すっていうやつ? まるで剣舞みたいだ。


「コラーッ! ユーミは見惚れてないで、ちゃんとレーダー役をしなさい! 十二時間で妖精十万人って、結構ギリギリな数なんだからね!」


 あう……意地悪姫に怒鳴られた。

 か弱い妖精さんはゴブリンに虐められたら、命を落としちゃう。

 ごめん、許して妖精さんたち。


 キラキラ反応を感じて、西門に飛ぶ。

 わぁっ! こっちはプレイヤーさんが少ないよ。【花火パイロ】を上げて、みんなを呼ばなくちゃ。


「鬼は~外ぉ~」


 どこからか、可愛い声が聞こえて、接近中のゴブリンが大量にポリゴンになった。

 ……誰?

 西陽が翳って、ぼんやりと見えてくるのは幽霊のミリィちゃん。

 何そのいしゆみみたいな、ごっついスリングは。


「私は直線ですぐに移動できるけど、壁の外には出られないから、狙撃用のスリングをソフィアさんに作ってもらったの! 鬼は~外ぉ!」


 これは強い……でも、大量にばらまくから、あっという間に弾切れに……。

 そこへバスケットを咥えた猫ちゃんが、走り込む。

 おお……ベルリエッタさんの所のアメールくんじゃないか。バスケットの中身は、もちろん補給の破邪の豆。

 届けた後は、すぐに身を翻し、猫道を戻って行く。頼れる補給係だ。

 ちょっとシッポナ。見習いなさいよ。武闘派のくせに、いつも私にくっついているんだから。


 午後八時半を回って、あと一時間半。

 妖精さんカウンターは八万五千を超えた所だ……これは、本当にギリギリかも。

 バルコニーの姫様は、どこから持ってきたのか羽扇子を振りながら、踊って煽っている。

 君はバブルの生き残りか? そこはお立ち台か? 似合ってるけど。

 西門にはミリィちゃんが、北門にはソフィアさんが、東門にはおそらく初めて見るプレイヤーさんが多いだろう。ベルリエッタさんが珍しく高級娼婦スタイルで立ち、男性プレイヤーの溜息の中、声援を送っている。

 正門には、もちろん先ほど剣技で魅せてくれたシフォンさんだ。


 ここが最後の勝負どころとばかりに、運営さんも悪乗りしてるとしか思えない量のゴブリンを繰り出してきた。

 夜になって、キラキラ反応が掴みやすくなっているけど、これでは合図を送る前に妖精さんが潰されちゃう!

 その時、神々しい光が王都から離陸した。

 元ラスボスの鳳ちゃんに乗った、リオンちゃんが復帰してきたんだ。


「ユーミは西と北の方を見て。私は東と南を見るから」


 手分けができると助かるよ。

 プレイヤーさんの数は、今が最高潮だろうから、合図さえ届けばなんとかなる。

 リオンちゃんも、頑張ってる所をベルリエッタさんに見せて、褒めてもらわなくちゃね。


 む、キラキラ反応! 【花火パイロ】!

 今度はこっち!

 ゴブリンが増えた分、逃げてくる妖精さんの数も増えてる。

 どうなってるのだろう? 私には、妖精さんカウンターを見ている暇がない。

 一人でも多く妖精さんを助けるために、【花火パイロ】を打ち上げる。


 その瞬間、合図の【花火パイロ】とは違う、大きな尺玉のような花火が上がった。

 た~まや~……じゃなくて、妖精さんカウンターが十万人を突破した合図だ。

 大歓声が上がり、みんなで喜び合う。

 でも待って! まだ逃げてくる妖精さんがいるんだよ。

 目標を達成したからって、最後までみんなを助けなくっちゃ……。


 お城のバルコニー。

 スタートイベント以来久しぶりに、プレイヤーたちの前に、全コンパニオン・プレイヤーが勢揃いした。

 やっぱり、リオンちゃんは人気だな。声援が一番多い。

 今日で急にベルリエッタさんのファンが増えたのが、はっきりわかる。あとシフォンさんの声も増えたな。あの剣技を見れば、納得だけど。

 頑張れ、ユーミファンももっと増えて!


 さて、スタートイベントの時は、司会は姉妹ゲームのイメージキャラをやってる女優の佐伯夏姫さえき なつきちゃんに頼んでた。恥ずかしがり屋のワールド・デザイナーさんは、今日はどうするんだろう?

 コンパニオン・プレイヤーが妙な注目をしている中、突然妖精さんカウンターがカウントダウンを始めた。乗りの良いプレイヤーたちが、カウントダウンに合わせて数字をコールしてくれる。

 ゼロになった時、累積報酬がドッとプレイヤーたちのアイテム欄に流れ込んで来る。

 そして、みんなの肩の上に、可愛らしい妖精さんが!

 どよめいていると、今日は鳳くんくらい有る巨大なヤンバルクイナのぬいぐるみが現れた。

「妖精さんは、持ち物欄の妖精さんをクリックすると、個別設定できます。性別、色、髪型、体型、容姿……自由に設定できますので、名前をつけて可愛がってあげて下さい」


 ……それだけ?

 妖精さんカウンターに『おめでとう』とか『妖精さん十万人達成』とかの文字は躍っているけど、アナウンスはそれだけなの?

 蒔田さん、恥ずかしがりにも程が有る。


「まったくもう、照れ屋さんなんだからっ!」


 さすが芸人さん。リリカさんが巨大縫いぐるみにツッコミを入れてる。

 ふわっと宙に浮いたミリィちゃんは、プレイヤーさんの上にリオンちゃんから貰った、余りの【花火パイロ】の魔石をばらまいて、大はしゃぎだ。

 合図用だから、害は無いんだけど、プレイヤーさんもそりゃあ慌てるよね。


 解ってます。場を盛り上げるのは私たちのお仕事。

 ジュリア姫が進み出て、一気に集まったプレイヤーを盛り上げる。

 私も杖に乗って空を飛んで、ミリィちゃんと一緒にエフェクト係をやりましょう。


 あ……リオンちゃんがヤンバルクイナの巨大ぬいぐるみに、乗りたそうに見てる。

 でもね、ヤンバルクイナって飛べないんだよ?

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