魔道士ユーミvsキメラ!

 コルクスの町からの進み方は、二つに分かれる。

 一つは、そのまま山越えルートを狙う。こう一つは、鉱山ダンジョンを攻略する。

 明確な案内は何も出ていないから、ここはプレイヤーの悩みどころ。


「ダンジョンの方が、アイテムが出そうな気もするんだけど……」

「向こう側に抜けられるのか、奥にボスが居て行き止まりなのかも解らないんだよなぁ」


 攻略班も頭を抱えている。

 チラチラこっちを見られても困る。そういった情報は、貰ってないんだよ……。


「ユーミちゃん、奥まで行って様子を見てきてよ」


 冗談とも、本気ともつかないことを言われても、対応できませんって。

 小刀を使って竹を削りつつ、曖昧な笑顔を返しておく。

 できた! 串焼きの串!

 笑わないでよ。これ、意外と需要が多いんだから。

 料理の道に走る人は、食器とかの製造には無関心。買えば良いと思っているけど、木工職人を志す人には、竹串なんて初歩の初歩。すぐに作らなくなっちゃう。

 その内に木工職人を志す人がいなくなったら、相当困るんじゃない?

 串職人のNPCを作れば良いのかな?

 まあ良いや……それ考えるのは、ワールドデザイナーさんのお仕事。

 とりあえず私は、やっと生やした木工スキルを上げるのに、竹串を作りまくってる。

 簡単、売れる、スキルアップできる。言う事無し。


 きっかけは、お正月イベント用の羽根つきセットなんだ。

 アレを作っちゃったのは、別のゲームのプレイヤーさんらしい。

 凄いなー。と思ってたけど、そのゲームとこの『シールズ・キングダム』は、基本的なプログラムが一緒なのだとか。

 だとしたら、このゲームでも、そんな事ができちゃうかも?

 と思って、木工スキルを頑張ってます。

 唯一の問題点は、魔道士ユーミは定住しないキャラなので、工房を持てないことだ。

 旋盤みたいな機械で、円筒加工したり出来ないから、けん玉とか作りたいのに出来そうにないのは残念です。

 串の後は竹とんぼでも作ろうかと思うけど、その先はどうしよう?

 一刀彫で、鮭を咥えた熊でも作るか……冗談だけど。


「竹串作って面白いの?」


 声はすれど、姿は見えず……。

 ミリィちゃんか。今は昼間だから、幽霊さんは姿が見えない。


「いつかは、羽子板! の心意気だよ。現在、修行中。木工スキルも生えたし」

「スキルって生やせるんだ」

「うん。ベルリエッタさんに至っては、斥候スキル生やして、知らん顔してプレイヤーに混じってるし」

「あはは。……相変わらず、あの人は謎ね。私も何かやろうかな?」

「ミリィちゃんは、どんなスキルを持ってるの?」

「お料理に、お掃除、お洗濯……生前は、ハウスメイドだったのかしら?」


 生前って、自分のことでしょ?

 言われてみれば、この娘の服装はメイド服っぽいエプロンドレスだ。


「あと、固有スキルで【透明時壁抜け】ていうのもあるよ」

「また、面白そうなスキルを……」

「でもこれ、壁抜けして入った部屋が暗いと出られなくなるのよ……」

「その部屋に鍵がかかっていたら、出られないじゃない。そんな時はどうするのよ?」

「ユーミも一緒でしょ? ログアウトすれば、好きな場所にログインできるじゃない」


 おぉ! と、思わず手を打ってしまう。

 神出鬼没同盟の仲間だった。

 周りが不思議そうに私を見ている。あぁ……昼間にミリィちゃんと喋ってると、傍目には独り言にしか見えないんだよ。私、変な人じゃないよ……ここに幽霊いるの。

 前にいるか、横にいるか、後ろにいるか解らないけど……。

 空中浮遊もデフォルトだしなぁ。困った娘だ。


「好きにスキルを生やせるなら、私は魔道士でも目指そうかな? でも、ジュリア姫は何のスキルも生やせないみたいだし……」

「あれは、姫だから。象徴的存在だもの」

「幽霊なら、大丈夫かな? 魔法学校行って、スキルブック買ってくれば良いんだよね?」


 あ……行っちゃった?

 君は自分が、昼間は人の目に見えないことを忘れてるでしょ? 魔法学校の受付さんが、困っちゃうんじゃないかな。


 ピコンとスキルが上がったので、串は卒業だ。

 できた分だけ道具屋さんに売って、ブロンズ硬貨を何枚か貰った。

 あまりじっとしていると、またヤンバルクイナの縫いぐるみが出てきちゃう。

 ちょっと、鉱山方面でも見に行こう。

 手前に採掘鉱山があって、その奥に鉱山ダンジョンが有る。採掘鉱山にも、一応魔物は出るらしい。比較的雑魚い相手らしいけど、採掘に夢中になりすぎると、コロッと逝けると評判。

 お金稼ぎの冒険者さんは、こっちだね。

 鍛冶職人さんの依頼や、店売りの鉄鉱石とかを採取しに集まってる。

 私が覗くべきは、最前線の鉱山ダンジョン。

 こっちの入口は、山肌にポコンと穴が空いてるだけ。魔道士の意地で、ランタンは持ちません。【灯光ライト】の魔法で、杖の先に光を灯します。

 黴臭い、自然の岩肌っぽい?

 ときおり風を感じるのは、アチラコチラに外気に通じる隙間があるのかな?

 酸欠する可能性排除とか、凝り性の蒔田まきたさんは、こだわりそうだ。

 洞窟の定番、オオコウモリが来たけど、シッポナがジャンプ一閃で仕留めた。あんた、時々凄いよね?


「猫、強ぇ……。コウモリに苦労している俺達って、何?」


 ほら、プレーヤーさんが引いてるじゃない。普段は可愛い素振りをしてるのに、台無しだよ……。今更、ニャ? とか可愛く鳴いても遅いって。

 知らん顔する所を見ると、コウモリは美味しくないのね。美食猫め。


「洞窟の中は手強い?」

「シッポナなら楽勝なんだろうけど、俺達には手強いよ」


 ほらぁ、プレイヤーさんがイジケちゃった。

 いつもは猫撫でに来る女子プレイヤーも、気不味そう? 大失敗だよ、シッポナ。

 何とか話を聞き出すと、ここの一階は野生動物系の魔物が多いらしい。コウモリにネズミ、サソリにムカデ、あとは女子が名前も言いたくないGも出るとか。帰ろうかな……。

 ボウモアさんたちのパーティーが、もうちょっと先に進んでいるらしい。

 攻略部隊としては、ダンジョンは放っておけないとか。それでも、まだ下への階段を見つけていないという話。

 弓手のルゥさんもいる、カナリーちゃんたちのもう一つの攻略組は、山の方に進んでいるとか。Gが出るなら、そっちを見に行こうかな。

 あの黒くてカサカサ動くのは、リアルだけで充分。こっちで会うとシッポナサイズだし、あんなのと取っ組み合いするプレイヤーさんに、同情するよ……。


「裏切り者ーっ」

「ユーミちゃん、ズルい!」


 の声を背中に浴びつつ、Gの出る洞窟なんて、とっととサヨナラしちゃう。

 ほら、山の方も見に行かなきゃならないし。

 またコウモリが出たけど、シッポナが美味しくないのは無視するものだから、魔法で落とす。横着者!

 

 もう一度鉱山の入口まで戻って、反対の山道を進む。

 まさかこっちの森にまで、アレは出ないよね? タヌキに借金返すゲームによると、元々森の昆虫らしいから、ちょっとビクビク。

 あぁ……タイマンで狼に勝っちゃうか。長毛種の白ニャンコよ。少し野生に帰りすぎてないか?

 ウン、こっちの方にも結構プレイヤーさんが来てるから、ちゃんと猫かぶってなさいね、文字通りに。いいから、フォレストジャガーは狩らなくても……無傷で勝つし。肉食獣は美味しくないっていう話だよ? ほら、ね。

 カナリーちゃんが指揮するパーティーは、どこまで行ってるのかな?

 あ、いたいた。キャンプ中かな? おーい。


「ずいぶん進んだね。休憩中?」

「わぁ、ユーミちゃんだ。ここでセーブさせて……」

「いいけど、何で?」

「エリアボスっぽいのがいるのよ、あそこに」


 指差す先には、変な生き物。

 羽根の生えたライオン? あ、尻尾は蛇になってる。前脚は、鷲の足みたい。いろいろ混ざってるね、君は。

 とっても多様性な生き物。


「あれって、マンティコア?」

「多分違う。マンティコアは羽根が生えてないもん。それに顔は人じゃなくて、ライオンだし」

「多分、キメラ」


 なるほど、強そうだ。

 だもんだから、どうしようか悩んでいるんだね。とりあえず、セーブをすると良いよ。

 陽当りの良い所で、お昼寝中のキメラくんを他所に、セーブポイント作成。


「山と、ダンジョン。どっちが正解だかわからないから、判断に迷うのよ」

「通せんぼキャラだとしたら、戦ってもまず勝てないだろうし……」

「先にダンジョン見てきたけど、あっちはGが出るって」


 情報を流してあげたら、さすが女子中心パーティー。露骨に嫌な顔をする。

 ボウモアさんたちも、まだ地下二階への階段を見つけてないと教えたら、考え込んでる。それだけ、あちらの敵も強いってことだ。

 ますますどちらが正解なのか、解らなくなるよ。蒔田さん、意地悪。

 みんなで頭を捻っていたら、トコトコとシッポナがキメラの方へ。

 こらこら! 君はそれを狩るつもりかい?

 肉食獣は美味しくないって、教えたでしょ! 起こしちゃ駄目だって。

 慌てて捕まえに行ったけど、遅かった……。シッポナアタックが、キメラの鼻先に決まる。

 たらりと流れる一筋の血……あ~あ、起きちゃった。

 仕方がない。君が食べられちゃうと困るから、援護するよ。私がエリアボスを相手に戦って、どうするのよ……。


「おぉ、ユーミちゃん対キメラ。エリアボスの強さの目安になるよ」

「食べられちゃったら、お墓作ってあげるから、頑張れ~」


 応援の仕方に愛が無い……。

 食べられちゃったら、ミリイちゃんと二人で化けて出るからね!

 蒔田さんに「幽霊キャラは二人いらない」って、リストラされちゃったら、どうするのよ!

 こら、シッポナ! 意外に強いからって、飼い主を盾にしちゃやだ! 私魔道士だから、防御力は紙レベルで低いんだからね……。

 杖をしっかり握って睨み合う。

 鳥さん相手は風魔法。ヘビさん相手は氷魔法。ライオンさんは火? それより前に、防御の魔法を張らないと駄目かな?

 頭の中はパニックだよ……何で、こんなことに……。


 キメラくんが、一歩、二歩と進み出る。

 接近戦は不利……後ずさろうとしたら、次の瞬間。


「ナ~ゴ……」


 へ? 急にゴロンと転がって、お腹を見せたよ。

 君はシッポナか? 撫でれのポーズって……。


「あ……ライオンってネコ科?」


 おっかなびっくり近寄って、お腹を撫でてやる。喉をゴロゴロ鳴らしてる……。

 思い出した、私のスキル【猫に好かれる】……君も、猫の端くれかい?

 キメラくんを撫でくり返していると、呆れながらカナリーちゃんたちも寄ってきた。


「どういう状況よ、ユーミちゃん……」

「私のスキルなの。【猫に好かれる】って、いろいろ混ざってるけど、この子もネコ科でカウントされるみたい」

「マジですか、それ……」

「戦うより、撫でたかった!」


 猫好きルゥさんの魂の叫びとともに、撫でまくる手が増えた。

 シッポナよりも毛がゴワゴワしてるけど、鬣も有るし……これはこれで、良き。

 え~っと、すっかり懐いちゃってるんですけど、この子どうしよう?


 君、エリアボスなんだよね?

 ヤンバルクイナの縫いぐるみ~! こういう時に出てきてよ。

 判断に困る~!


 ……どうしよう?

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