噴水広場の騒ぎ
空から、王都の南門に降り立つと、やっぱり大騒ぎになった。
門番の兵士さんに囲まれながら、噴水広場に移動する。私って、まるっきり重罪人扱いじゃない?
騒ぎのきっかけになったシッポナは、先輩風を吹かせてキメラくんの鬣に丸まって、昼寝してるし……。
どこに行っても大騒ぎになるのは決まってるので、まずお城のジュリア姫にお墨付きをもらっておこうと思ってきたんだけど……みんな集まってきちゃった。
「ユーミ、まずどうしてこうなったのかを説明して」
腕組みして斜め六十度のアングルで睨めつけながら、ジュリア姫。
成り行きとはいえ、ちゃんと説明して呆れられる。
ちなみにその後、少しエリアをズレたら、別のキメラくんがポップしたよ?
困ったことに、私のペットになって、お役御免でリストラされちゃったんだよ、この子。
「ユーミちゃんとパーティ組んで、もう一頭テイムしてもらったら、エリアボスクリア?」
なんて甘い考えも出たけど、一頭でも困るのに、キメラくん二頭はいらない。それに、ここを抜けたにしても、その先のエリアで、このクラスの敵相手に全滅するのは、目に見えてるよ。
地道にいかなきゃ。
どうやら、先にダンジョンをクリアしないと駄目っぽいね。
「ユーミちゃん。G対策に『火球石』いっぱい欲しい!」
と哀願されて、武士の情けと、提供された魔石に【
Gは……全部殲滅すれば良いよ!
キメラくんは、リオンちゃんを見つけてスリスリしようとして逃げられて、傷ついてる。
そっか、君は鳥さん成分も有るから【鳥使い】のリオンちゃんには懐くか。
「あんまり、可愛くなくて……怖いです」
可哀想に。ライオン成分が多すぎて、怖がられちゃってる。
多様性の時代なのにね。
珍しくいるシフォンさんが、大げさに溜息を吐いて肩を竦めた。
「どこのゲームにもいるのよ……。何の悪気もなく、システムのルール内ギリギリの所で、とんでもない事をやらかす娘って」
従者に何か指示をして、また溜息。
私……やらかしてますか?
「でも、どうするの? この世界にテイマー職は無いから、獣魔を登録するギルドも無いでしょう?」
こっちは面白がって、ナナリーさん。
冒険者の宿の経営者としては、扱いが気になるみたい。馬小屋に繋いでおいて、馬を食べちゃうようじゃ困るか……。
「私もそう思ったから、ジュリア姫にペット登録してもらおうかと思って……」
「勝手な登録項目を増やさないでくれるかなぁ? ユーミはまったく!」
ちゃんと説明したよ! 悪いのは、私じゃなくて、シッポナだもん。
「使い魔の起こしたトラブルは、相方の魔道士の責任! 自覚しなさい」
「はーい……」
私がこんなに怒られてるのに、ニャンコズはのんびりお昼寝を始めちゃってる。
なんか理不尽。
今度、ジュリア姫がお城を脱走してきても、相手してあげないんだからね!
「まあまあ、ジュリア姫……その辺で許してあげて」
やっと来たーっ、ヤンバルクイナの縫いぐるみ。
なぜか、キメラくんの鬣の中に出現して、スリスリしてる。……ひょっとして、それやってみたかったんですか?
「ごめんね、ユーミ。あまりに想定外だったので、緊急会議で時間かかっちゃいました」
コンパニオン・プレイヤーたちの慌てっぷりを眺めていた、一般プレイヤーも大爆笑。
そんなに想定外だったんだ……。
「うん、そもそもキメラにユーミのスキルが効くって、誰も考えてなかったのよ。ネコ科の概念で見てなくって、あくまで魔物だったから」
「……で、どうするの? このお騒がせ娘」
「どうもしないよ? 放置決定!」
「そんな無責任な!」
ジュリア姫が呆れる。
よかった……この上、キメラくんが抹消されちゃうのも可愛そうだからね。
「会議でも問題になったんだけど、そもそもユーミの連れてるシッポナだって、かなりのオーバースペックなのよ。ユーミは知ってるだろうけど、実はフォレストジャガーにもタイマンで勝っちゃう娘だよ?」
さすがにプレイヤーたちも、ざわつく。
可愛いと撫で繰り返していた、白い長毛種のニャンコが、自分たちより遥かに高レベルの生き物とは思うまい。
自信過剰で、キメラくんに単独で挑もうとしたのが、そもそもの発端だもん。
「だから、今更ユーミが高レベル生物を連れていても、大して問題にならないよね? って結論になっちゃった。だからユーミは責任を持って、その子もよろしく」
「ちょっと、
「ん? 最初っから言ってるでしょ? 枠にとらわれず、自由気ままに暴れまくっていいって。少しはシステムを信用しなさいって、じゃあね~」
……帰っちゃった。
本当に、そこまで無干渉で行くんだ……。
多分、この先はネコ科のボスは出なくなるんだろうな? 頑張れ、プレイヤーズ。
「ユーミ、それは本当に人とか、馬とか襲わないんでしょうね?」
「逆に襲われたりしない限りは、大丈夫だと……思うよ。大きなシッポナだと思って」
「でも、尻尾がヘビで怖い……」
リオンちゃんは怖がりだなぁ。
私はG要素が無くって良かったと、心底思っているのに。
キメラだから、実は何でも有りだもんね。
ジュリア姫は片目を瞑って、スクリーンショットを撮る。その写真を立て札にペーストして、こう書き加えた。
『ユーミが変なペットを増やしたけど、人畜無害だから気にしないように』
酷い! ジュリア姫のお触れに愛が足りないよ……。
早速読んだプレイヤーたちが爆笑してる。
もぉ……その立て札、焼いちゃおうかしら。
魔法の詠唱に入ったら、ぽんと肩を叩かれて中止する。シフォンさん?
「ペットなら、ちゃんと首輪を付けてあげないと区別がつかないでしょう」
鮮やかなグリーンの首輪を見せてくれる。
でも、何でキメラくんはビビってるのかな? ひょっとして、シフォンさんって君より強い? エレガント、この上ない人なのに……。
脅えつつ頭を上げたキメラくんの首に、緑色の首輪が撒かれた。
こらー! シッポナは相手を見て飛びかかりなさいって!
シッポナアタックを軽々と受け止め、撫で倒しながら、その眼の前にシッポナの瞳と同じエメラルドの付いた首輪を見せる。
「あなたは女の子だから、宝石付きが嬉しいわよね?」
凄い……完全に、力でシッポナを制圧した。
尻尾をすっかり垂らしちゃったシッポナを撫でながら、シフォンさんが宣言する。
「また何か変なペットを手に入れちゃったら、私の所へいらっしゃい。この緑色の首輪を付けてる子は、ユーミちゃんのペット。そう決めて、通達しておけば面倒はないわ」
私、この先ペットが増える前提?
えーっ、そういう役回りじゃないと思いたい。
シフォンさんは、羨ましそうなリオンちゃんの視線に気づいて付け加える。
「リオンちゃんも、後で小鳥を連れていらっしゃい。小鳥だから、金の足輪に白を差して、リオンちゃんのマークにしましょう」
嬉しそうに顔を綻ばせる。
この娘は絶対に、小鳥を増やすのは確実。
はいはい、コレで解散とシフォンさんは背を向ける。
とりあえず、撫でてみたい系女子が、恐々とキメラくんに近づいてくる。大丈夫だよ、もうルゥさんたちが散々、撫で繰り返してるからね。
「ところで、ユーミ」
「何よ、意地悪姫」
「誰が意地悪だっつーの。……それより、ペットにするなら、名前くらいちゃんと付けて上げなさいね?」
「キメラくんじゃ、駄目?」
「駄目じゃないと思える、あんたが不思議だわ……」
うぅん……悩みが増えちゃった。
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