聖女様の儀式

「おおっ! リオンちゃん来たーっ!」


 神殿の専用馬車に鎮座する、リオンちゃんの小さな姿が見えた。

 大歓迎に脅えつつも、引き攣り気味の笑顔でお手振りしてる。いよいよ鉱山の町コルクスに分神殿が建立される。その前準備となる、地鎮式(?)の主役だ。


 攻略チームの第一陣が、鉱山の町コルクスに到達すると、続々とプレイヤーたちが踏破して来た。。

 三十人が踏破した時点で、ドンッ! と王都と結ぶ街道が出来ちゃう。

 安全に移動できる駅馬車も運行を開始して、その警備にプレイヤーが雇われたりと、本格的に新しい町が動き始めた。

 鉱山の町とあって、鍛冶を志すプレイヤーさんが、駅馬車で大挙して移動する。王都で買うより、こっちで冒険者に依頼して鉱石を得る方が安く上がるもん。

 腕を上げるにも、消費者である冒険者にコネを作るにも、こっちの方が有利だ。


 馬車を降りた小さな聖女様は、これまで町を守っていた祠に祈って清める。

「お作法は自分で考えてね(ハート)」という、ワールドデザイナーの蒔田まきたさんの無茶振りもあって、ちょっとハラハラ。警護の冒険者に紛れて付いて来た、高級娼婦のはずのベルリエッタさんも不安そうに見守ってるよ。

 ちょんと膝を折ってから三歩前に歩いて跪いて祈り、立って二歩下がり、両手を広げたままクルクルと二回転。一歩下がって、また膝を折って……と繰り返す。

 可愛いよ、本当に。

 モニターしているであろう運営さんが、リオンちゃんの異動範囲に光のエフェクトを加え始める。そして、祈りが長くなった時に光がふわっと町中に広がった。


「おぉ……」


 神々しい光が消えた時、そこにもう祠は無く、代わりに一つの神像が置かれていた。


「皆さんの祈りが神に届きました。この神像を祀って、この地に神殿を建立いたしましょう」


 大歓声と拍手。

 よくやったよ、リオンちゃん。ちゃんと聖女様に見える。

 お城を抜け出してはブーたれてる、どこかの姫様とは大違いだね。これから建築を志すプレイヤーが、冒険者たちの採取してきた石を積み上げ神殿を建設する、大きめなクエストも始まっているぞ。

 大役を終えて、ほっと一息のリオンちゃんの肩に小鳥が止まった。

 おや? シマエナガに加えて、カワセミが増えてる。


「おーい、リオンちゃん。なんか鳥が増えてないかい?」

「途中で仲良くなったの。後で名前をつけてあげるね……」


 嬉しそうに頬ずりしてる。可愛い。

 でも、そんな簡単に仲良くなれるものなのかな?


「あ……私のスキルは【鳥使い】だから」


 小鳥好きなリオンちゃんにはぴったりだ。

 こら、シッポナ! 狩ろうとしちゃいけません!

 リオンちゃんが泣くし、リオンちゃんファンのプレイヤーに袋叩きにされるよ?


 私のは【猫と仲良くなれる】なんだけど……まだこの世界の猫って、シッポナとベルリエッタさんのアメールしか会ったことがない。他の猫、どこ?

 不思議なのは、私はいつもシッポナと一緒なんだけど、ベルリエッタさんは完全に猫と別行動なんだよね……。謎の多い人だ。

 ジュリア姫じゃないけど、「絶対に裏の顔が有るわよ、あれ」という言葉の信憑性が増してくる。あの猫は何をしてるんだろう?


「ユーミはここで、何をしているの?」

「フラフラしてるよ? あまり前線に出ていなかったものだから、今回私が来ただけで『森のクリアが間近だ』ってバレバレだったから、ちょっと反省」

「ふふふ……ユーミっぽい」

「そんなに暇だったら、勝手に生産スキルを生やしてしまうのも手ですよ」


 冒険者の振りをしていたベルリエッタさんが嘴を突っ込んでくる。

 今まで気がついていなかったんだろう。リオンちゃんが嬉しそうにじゃれついた。


「勝手に生やしちゃって、良いのかなあ?」

「現に私は、斥候のスキル生やしましたよ? 同レベルを集めたパーティで、森を突破できるレベルになてしまいました」


 悪戯っぽく肩を竦める。……そんな仕草も、しっとりと女らしい。

 そうだ、この人はそういう人だった。


「でも、私は手先が不器用だからなぁ……」

「ゲームなら、繰り返していたら勝手にレベルが上って上達するの。経験値の世界だから、手先の器用さは二の次。リオンも最近、編み物始めたのよね?」

「うん。その内にマフラーを編むの」


 おぉ……多忙さに振り回されていたリオンちゃんが、楽しみを見つけてる。

 何か負けた気がするので、私もスキルを生やそう。

 そうだよ、私たちだって、運営さんの指示が無い時はプレイヤーだもんね。まずは自分から、ゲーム世界を楽しまなくっちゃ。


 二人と別れて、町中をフラフラしながら、何をしようかと考える。

 いくら鉱山町だからといって、鍛冶屋に向かないのはすでに確認済み。ソフィアさんの所で、炉の熱さにめげたもん。

 ……あ、ソフィアさんもこっちに移転してきてる。あとで挨拶しよう。


 とりあえず、道具屋さんを覗いてみよう。

 まず道具を揃えて、それで安心してしまうタイプだよ、もちろん。

 絵筆……うぅん、あれはテクニックも有るけど、色彩感覚はどうしようもない。芸術系は難しそうな気がする。楽器はエリーゼさんと、リリカさんに任せる。

 そうなると、クラフト系? 料理系?

 森の中で、壺みたいな鍋で何か掻き混ぜてたら、魔女っぽくて似合う?

 魔女といえば……私は魔道具を作れるんだよ。

 ほら、スタート直後に魔石を作って、売ってたくらいだし。

 何か作って、魔道具にしたら楽しそう。それに、薬の調合とか?

 気の多い私は、お料理セットと、薬品調合セットと、工具セットを買っておく。

 これだけあれば、大概のことが出来るだろう……。


 プレイヤーさんは、どうやって生産スキルを決めてるんだろうね?

 なにか目指すものがあって、鍛冶屋とか服飾とか選んでるんだろうか……。直接訊いて回るのも、夕方のニュースの特集コーナーみたいで、気が引ける。

 レザークラフトでシッポナの首輪でも作ろうかと思ったけど、この子は首輪を嫌がるのよ。


 ……改めて、自分の趣味の無さを知る。


 とりあえず、キャンプ料理の本でも買おうかな?

 お家の手伝いをしなさいって?

 やだ! リアルだと、お小言と呆れ顔の嫌味が漏れなく付いてくるんだもん!


 現実は、夢が無いよね?

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