攻略者たち
「ワーズランド王国に、遊びにおいでよ!」
わぁっ、不意打ちを食らった。
啜りかけのラーメンに噎せて、友達に爆笑された。
テレビCMは嬉しいけれど、いきなり自分が出てくると戸惑うよ。買い物ついでの町中華のお店。テレビの有るお店は、当分の間は要注意だな……。
リオンちゃんの上目遣いなお願いバージョンや、出たり消えたりのミリィのバージョンとかなら、普通に見ていられるんだけどね。
「そんなんじゃ、スターには成れないね……優美は」
友達にからかわれるけど、反論できない。
まずは、自分で自分を見るのに慣れないとね。ましてやCGキャラなんだから……。
十人のコンパニオン・キャラがそれぞれ登場するCMは、かなりの効果があったようで、第二ロット三千本が、ほぼ予約で完売しちゃったらしい。
『楽屋』のホワイトボードに『祝! 更に二千本追加生産!』の文字と、ヤンバルクイナが浮かれ踊るイラストの描かれたメモが、貼られていたよ。
羽子板と羽根、墨と筆の『羽根つきセット』も、会議の三日後には、楽屋にサンプルが置かれていて、ジュリア姫がルール作りに頭を捻っていた。
ついでに遊んじゃったのは、言うまでもない。
本当にこれ、プレイヤーさんが作っちゃったの……。凄い人とゲームがあったもんだ。
でもなぜ、羽子板のイラストがカモノハシ……?
そんなこんなで、『楽屋』はすでに年末年始モードになってる。
ワールドにポップアップした私は、手に持ってたカボチャのランタンを所持品内に、ナイナイした。
昨日は、楽しませてくれてありがとう。ランタンくん。
噴水広場の掲示板には、遂に年末年始のイベントのお知らせが貼り出された。
リオンちゃんファンは、大いに嘆いてるだろうね。……年末年始がお休みで。実は、圧倒的一番人気なのだそうな。
「羽根つき大会って、予想の斜め上過ぎる……」
愕然とする男子と、キャイキャイ燥ぐ女子。でも、今どきの女の子で、羽根つき経験者はいるのでしょうか? ちょっと謎。
ジュリア姫とか、うるさいのに捕まる前に、ユーミとしてはさっさと街を抜け出そう。
そろそろプレイヤーさんの先遣隊が、森を抜けて鉱山町に着きそうだという話が来ているの。ユーミの出没場所が、増える可能性が有る。
年末年始イベントも有るし、これは重要なことなのです。
せっかくなので、プレイヤーさんの屋台でサンドウィッチとお茶を買って行こう。ピクニック気分も悪くない。
シッポナは猫なんだから、ご飯は森で現地調達なさい! あなたのレベルなら、森では狩り放題でしょ? ファンタジー世界の猫として、野生も忘れないように。
南平原では、まだまだ多くのプレイヤーが戦闘中。
それぞれのプレイ間隔も有るし、誰しもが攻略を目指してるわけでもない。でも、こっちは辻ヒーラーをしたりして、プレイヤー同士でフォローし合う環境ができてるんだ。
みんなでワイワイやっているのを、見守りつつ私はその先の森へ。
今の南の森は、腕自慢のプレイヤーたちの激戦区だ。
身のこなしが尋常でないフォレストウルフや、攻守ともに強いジャングルゴリラ、樹の上から物を投げてくるマシラザルなど、強敵がわんさかだ。
「あれ? ルゥさん、
顔見知りの斥候少女が、大弓を持ってる。
訊いてみると渋い顔をして、木々を睨んだ。
「あの猿ウザすぎ……。魔法はそうそう使わせられないし、斥候をもう一人確保して、私が弓でも射ないとシンドイよぉ。運営さん、性格悪すぎ」
「はーい。ワールドデザインの
「わーっ! 正直に伝えなくていいからっ」
冗談よ、冗談。
エリアが進む度に重要な職業が変わるのは、このゲームの基本方針なのは内緒。いろいろな職業で楽しめるようにという理想と、攻略プレイヤーの足止めという現実の板挟みなの。
私くらいのレベルになると、力押しも出来るんだけどね。
今はあまり役に立たない職業も、ちゃんと育てておくのが吉ですよ?
エイッと【
「いいなぁ、高レベル……」
「あははは……まあまあ、セーブポイント作ってあげるから、一息入れて」
「それ、助かる!」
コンパニオン・プレイヤーの秘技。通称【どこでもセーブ】だ。他のみんなはアイテム使用なのだけど、魔道士ユーミはちゃんと魔法でセーブポイントを作ります。
ユーミのカラーである緑色の光柱が立つと、目敏いプレイヤーたちが集まってくる。ここでセーブしておけば、用事で街に戻っても、再セーブしない限り戻れるもん。
がんばれー。
ネタバレになるから教えないけど、もう四分の三くらいまで来てるぞ。
何パーティーか集まって、情報交換を始めるのを他所に、私は更に森を進んでゆく。
この辺りまで辿り着けているプレイヤーは、ただ一組だけ。
……いたいた。戦士のボウモアさんをリーダーにする、攻略組のトップだ。
「あ、休憩中? 私も混ぜて」
「わぁ、シッポナだ。撫でさせて!」
私よりも、猫かい!
プレイヤー中、最高位の神官だろうマカロンさんが歓声を上げると、『撫れ』とばかりにシッポナが近づき、ゴロンとお腹を上にする。弓手の雪月花さんと二人で撫でくり返されてご満悦だ。
「ユーミちゃんがいるなら、安心して休憩できるな」
鍋のシチューを掻き混ぜながら、戦士のヒッキーさんが微笑む。うむ、重戦士である。
再び、セーブポイントを作ってセーブさせちゃう。
ラスボス前のセーブは基本だよね? 教えてあげないけど。
この魔法は、コンパニオン・プレイヤー特有魔法だと教えてあげたら、魔道士のゲラッパさんが肩を落とした。ごめん、プレイヤーが好きにセーブするのは、問題になるから。
「ユーミがこんな所に来るってことは、そろそろ森を抜けられそうだな?」
ボウモアさんが、そんな鋭いことを言い出す。
実にその通りなので、わざとらしく笑って誤魔化すしかない。もうちょっと、最前線にも出ておかないと駄目ですね。
「次のエリアが、妖精郷だといいなぁ……。森が弓手の
今のところ地味な、妖精使いのメラックさんが溜息。
次ではないけど、きっと出番が来るから。こんな地味な役割も育てているのが、攻略組の怖い所。足止めにもなりゃしない。
雪月花さんは現役弓道部員らしく、迷わず弓の道を進んでいる人。今は猫に蕩けてるけど、基本はキリッとした和風美人です。
斥候のイージスさんは、無口な人なのか会話には入ってこない。
「あ、こいつは気にしないで。匿名掲示板でライブレポートやってるから、そっちに書いてる最中だよ」
「そうなんだ。無口な人だなぁと思ってた」
「あっちで大はしゃぎしてるよ。『ユーミちゃん来たから、森突破間近だぁ!』って」
あはは……。あまりにも、バレバレな私……。
あまり街で遊んでばかりでは、駄目ですね。反省、反省。
一息入れたパーティーを、サンドウィッチ齧りながら見送る私。
お気楽に歩いてるけどさ……
「ウソっ! エリアボスなんているの?」
不意にマカロンさんの悲鳴とともに、みんなの姿が消える。
そうなのよ……。南平原にはいなかったけど、森にはいるんです。エリアボス。
私がセーブポイントを持ってきた意味が、解ったかな?
モニターウィンドウを開いて、エリアボス戦を観戦しよう。
攻略班が、どれだけ強いのかも実は知らないし……。
敵はトレントという木の精霊。それに枝の上を飛び回るフォレストジャガーが二つに、壁役のキングゴリラ二つ。……かなり手強い。
初手にいきなり『はっぱカッター』……じゃなくて、『リーフトルネード』がプレイヤーを襲う。ちなみに、トレントくんは『つるのムチ』ならぬ『ポイズンウィップ』も持ってる。毒付きな分、アレより陰険。
冷静に斥候さんが前で『避ける壁』となり、前衛にいたマカロンさんが一歩下がって、エリアヒールをかけて全員を回復してしまう。もうそこまでレベルを上げているのか……。
猿よりもすばしっこい筈のジャガーを、雪月花さんの弓がきっちり捉えている。飛びかかる隙を与えないだけでなく、釘付け状態でダメージを加えているほどだ。
活躍できないことを嘆いていたメラックさんが、【
ゲラッパさんの【
強いなぁ……。
私はモニターを切って立ち上がると、ローブの埃を払った。
ちょっと狡いけど、エリアボス無しで森を抜けて小道を進む。
見えてくるのは、切り立った山を背にした、レンガ作りの二メートルほどの壁に囲まれた小さな町だ。
門の脇に凭れて、間違いなく抜けてくるボウモアさんたちを待つ。
程なく、笑い合う声が聞こえてくる。
私を見つけて、手を振ってくれてるよ。
彼らにかける最初の一言は、これしか無いよね?
言葉の抑揚を無くして、機械的に……。
「ようこそ。ここは鉱山の町コルクスだよ」
わーい、ウケた。
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