楽屋の内緒話
「……遅くなりました」
シックな感じの黒いゴスロリ服の少女が、ポップアップしてきて円卓に着く。
キャラは初めて見た。この人がシフォンさんか……。
人形染みた綺麗な娘。腰に下げた黒作りのサーベルが不似合いな印象だけど、これ、凄い業物じゃないの?
ソフィアさんが目で【鑑定】を依頼してくるけど、『楽屋』じゃスキルは使えない。
どういうキャラなんだろう? 服飾の商会長のはずなのだけれど……。
「全員揃ったわね。では、会議を始めましょう」
円卓の真ん中で、ゆっくりと回転している、ヤンバルクイナの縫いぐるみが宣言した。
シュールな絵面だけど、これはワールドデザイナーの
上下関係は一切無いので、円卓なのだとか。
それぞれが着いたテーブルには、個人用のモニター画面があり、その上にカメラが見える。意味はないんだけど、ちゃんと見てるよ? という意思表示。
進行役の蒔田さんのモニターには、おそらく十のウィンドウが開いており、それぞれが映っているはずだ。
「まずは、現状報告から……。おかげさまで、『シールズ・キングダム』は初期ロット五千本を売り切って、年末商戦に第二ロット三千本の投入が決まりました」
「おぉ……」
誰からともなく、拍手が起こる。
追加ロットの生産が決まるってことは、好評なんだよね?
「現在のプレイヤーの定着率は、七割ちょっと。これは、かなり高い数字です。コンパニオン・プレイヤーのみんなのおかげだと思っています。ありがとう」
みんなの顔が綻んだ。これ以上の褒め言葉はないよ。
「議題に入る前に、先に連絡しておくわ。二次ロットに合わせて、テレビCMを打ちます。パターンは十通り。……みんなに、ひとりひとり呼びかけてもらうから、会議が終わり次第、撮影をします。もちろん、仮想空間でね」
わーい。テレビCMだ! 仮想空間でキャラとはいえ、顔立ちは本人のままだから、知人には自慢できるかも。特に、まだ仕事と信じてくれていない、ウチの母親とか!
みんな、ニコニコだね。
「でもって、今日の議題は……予想しているとは思うけど、クリスマスから年明けのイベントが決定したので、各自の役割等で希望を取りたいの」
あ、ヤンバルクイナの縫いぐるみが笑った。……器用な。
「と言っても、まだゲームがオープンしてからそんなに日が経って無いので、大規模なことは出来ないんだけど。……クリスマスは、各コンパニオン・プレイヤーから、二人を選んでプレゼントを貰えます。あと、噴水をクリスマスツリーにして、雪を降らせる予定」
「とことん、ベタね……」
「様式美と言ってよ、ジュリア。雪は冬の間降らせておいて、カウントダウンの時は噴水をタイマーに、お正月は神社にして、お賽銭を受け付けます」
「キリスト教に神道。リオンちゃんは立場無いね」
「……私、クリスマスからお正月はお休みなの」
「え? ずるい」
「リリカ、あなたも暮れから正月は、テレビや寄席で、お休みでしょ?」
「ば~れ~た~かぁ!」
さすがに、お仕事の休みは蒔田さんに申請してるものね。バレバレですわ。
え? 私? あはは、プライベートも仕事も予定は無いぞ! 極力、連ドラとか、映画のメインキャストとかのオーディションは、この一年受けないようにとの契約もあるの。
入ってくる仕事は、受けるんだけど。……私を指名してくるような仕事、有ればいいな。
「お正月もアイテム配りのイベントになっちゃうんだけど……。ジュリア、あなたの方は何か仕出かす予定はある?」
「仕出かすって、酷くない? これは相談しようと思ってたんだけど、羽根つき大会したいのよね? ミスったプレイヤーの顔に墨塗ったりして、楽しそうでしょ?」
「羽根つきか……道具がいるね」
「うん、作れる?」
「手が、足りるかな?」
「どうだろう、難しいね」
急にヤンバルクイナの横に、信楽焼の狸が出てきた。
チーフエンジニアさんのアバターらしい。相当忙しそうだね。
すると、シフォンさんがトンデモナイ事を言いだした。
「アイテムのコンバートは難しくないんでしょ? 『黒鳥』も完コピできてるもの。 だったら、向こうで作って、こっちに持ち込んじゃったらどう?」
「そりゃあ、出来ないことはないけど……あっちのスタッフは今、ドラゴン作りで大忙しだよ?」
「スタッフじゃないわよ、プレイヤー。『みんなで遊ぼうよ』ってお願いすれば、きっと作っちゃうわよ?」
これには、私たちがどよめく。
プレイヤーがアイテムを作っちゃう? あっちって、どこよ?
でも、蒔田さんは存じているらしい。
ヤンバルクイナの縫いぐるみが、器用に肩を竦めて笑った。
「それは是非、頼んでみて下さい。後で私から、イズさんに謝っておきます。……ただプレゼント配りだけじゃ、寂しいから。せっかくジュリアが盛り上げてくれそうだものね」
「道具が手に入るなら、絶対に盛り上げるよ! シフォンさん、私からもお願い」
「はいはい……多分、ノリノリで作るだろうから、楽しみにしていて」
唯一の素人なのに、何だか仕草が女優っぽい不思議。
いちいち、優雅なんだよね。羨ましい。
「……で、そのシフォンは、どういうスケジュールの予定?」
「そうね……クリスマスと、カウントダウンは向こうかな? お正月は、向こうのメインが五日からのイベントだから、三が日はこっちメインで過ごせます」
「あぁ……クリスマスにいないのは痛いな。その間に、キャラはこっちで動かしちゃって良い?」
「イメージを壊すような事をしないでくださいね」
「はーい」
シフォンさんは、優雅に目礼して口を閉ざす。
代わって、ナナリーさんが首を傾げた。
「それで、私たちの役割や希望は?」
「クリスマスやお正月のプレゼントの中身です。あとは、どこにいるか? プレゼントは、それぞれの職種に因んだものから五種類の内、ランダムで渡す予定。そのアイテムに意見を採用したいと思ってます」
「……幽霊に因んだものって、何だろう?」
ミリィが首を傾げて、笑いを誘う。
更に、ベルリエッタさんがお淑やかに混ぜっ返した。
「高級娼婦に因んじゃったら、成人指定が入ってしまうかも?」
「あぁ、ベルリエッタはヤバ過ぎだ!」
みんなで、「どうするの?」とヤンバルクイナの縫いぐるみを見る。
顔を顰めて、蒔田さんが答える。
「ベルリエッタは高級なお飾りアイテムと、ジャンル限定で発表します。その前に、あなたが見つかるかどうか……? ミリィは、ポーション系アイテムの予定」
「……ぬるぬるのヤツ?」
「それは、ローションです」
そんな冗談も交えながら、金額上限を決めてアイテム選定にかかる。
私の場合は、マジックアイテム。魔法攻撃プラスの指輪を大当たりとして……一番のハズレは、とんがり帽子? ただのサンタカラーじゃつまらないから、もうひとネタ入れたいなぁ……。あ、サンタ髭も追加できる帽子なら、ちょっと面白いかな? 魔法使いって、お髭のお爺さんのイメージ有るし。
「ユーミ、それは良いアイデア。シフォンのキャラで配布予定の、サンタローブと合わせると面白いわ」
「トータルコーディネイト、完璧ね」
シフォンさんが、クスクス笑う。
気取り屋さんっぽいけど、可愛い感じの人なんだよなぁ。やっぱり、一度じっくりと話してみたい。
「それくらいは、作りましょう」
信楽焼の狸さんはそう言ってくれたけど、それが安請け合いにならないことを祈る。
私の一言を皮切りに、みんな追加機能の注文を始めるし……。自分のキャラが配るなら、普通のものじゃあ、つまらないよ。
ちなみに、お正月の配布物は『ラッキーカード』なのだとか。
ジュリア姫以外からもらえるカードに、数文字書いてあるものが何パターンもあって、それをプレイヤー同士で組み合わせて、ジュリア姫に持っていくと、その言葉のアイテムが貰えるんだとか。
ちょっとした、トレーディングカード状態?
プレーヤーさん同士で、いろいろ話し合ってペアを組んでくれると良いな。
「それと、ミリィ、ユーミ。ハロウィンイベントを組めなくて、ごめんね。せっかく幽霊と魔女がいるのに」
「気にしないで良いですよ。ユーミじゃないけど、私にはお盆もお彼岸も有る!」
「あはは……ふたりとも、当日はカボチャ型のランタンでも持って歩く? 配布はできないけど、気分だけでも」
それは可愛いかも。信楽焼の狸さんの提案に、ミリィと二人笑顔で頷く。
この娘は見えないのを良い事に、昼間、謎の浮遊ランタンとかやりそうだ。
私は知らなかったんだけど、『シールド・キングダム
ううっ……コンパニオン・プレイヤー人気投票は、見たいような、見たくないような。
冬コミ、企業ブースに出す『クリエイトゲーム社』のブースで、コンパニオン・プレイヤーのトークショーをするのね。初日が、私とミリィのコンビ。二日目はジュリア姫と吟遊詩人リリカ。
ライブの舞台は緊張するけど、場馴れしているミリィちゃんに縋ろう……。
ライブトークに呼ばれるくらいは、ユーミも人気が有るのかな? 嬉しい。
当日は舞台で喋りつつ、バックのスクリーンでは、キャラが喋ってるように見せるんだって! でも、ミリイちゃんは昼間見えない設定……どうするんだろう?
「じゃあ、撮影セットに移動してCM撮影に入りますけど……私から、みんなに一言」
ヤンバルクイナの縫いぐるみは、挑戦的にニコっと笑った。
「キャラ設定は有るけど、その枠にハマリ過ぎずに、もっと自由に我が儘していいからね。その為のあなた達なんだから」
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