神出鬼没な私たち
「おお、夜だ……」
『シールズ・キングダム』にログインした私は、久しぶりの星空を見上げた。
ゲーム内の時間は、リアルタイムの三倍の速度で流れる。イベントの時は、普通の時間に合わせるそう……まだ、イベントは実施してないけどね。
特に意識していないんだけど、私のログイン時はなぜか昼間が多い。
夜の街は久しぶりだ。
あちらこちらに篝火が焚かれて、メイン通りは意外に明るい。
その分、裏通りが暗くて、危険なのはどこの町も同じ。噴水広場には、料理スキルのアップを狙うプレイヤーの屋台が出ていたりして、結構賑やか。
どこを歩いても、コンパニオン・キャラクターは注目の的だ。お手振りして応えたりするけど……何でみんなビビってるの? 私、怖くないよね?
「ユーミちゃん、何か憑いてる……」
「へ?」
振り向いたら、肩の所に青い顔をした半透明の女の子が微笑んでた。
まったく、イタズラ者!
「ミリィちゃん……いるなら言ってよ」
「あはは。でも、幽霊として、挨拶するのもどうかな? 和風じゃないから、人魂とか飛ばせないし」
よく見ると、可愛らしい女の子なんだよ?
『ふらふら幽霊のミリィ』こと、
幽霊キャラなだけに、夜か、暗い場所でしか姿が見えません。
それを良い事に、昼間はいろいろとイタズラしてる困った娘です。
「ゲーム内では、初めまして?」
「違うよ? ときどき一方的にくっついてたりしたから、昼間に」
「やめて、心臓に悪いよ」
「急に声を掛ける方が、心臓に悪いと思うけどなあ……」
可愛らしく、首を傾げる。
ソシャゲのアイドルの声をやってたりして、ステージイベントなんかもやってる関係かな? 仕草がいちいち可愛い。
ユーミとミリィが一緒にいる所って、かなりレアなせいか、スクリーンショットを撮ってるプレイヤーさんが多い。ポーズを決めておこう。
「運営さんがまだイベントをする余裕はないみたいだけど、ユーミちゃんと二人揃うとハロウィンっぽいよね」
「あぁ、確かに。売り込んで、イベントにして貰えば良かったね」
「二人を見つけると揃うグッズとか、配ってみたり……ああ、主役のチャンス逃した」
「大丈夫! ミリィちゃんには、お盆も、お彼岸も、あるから」
「イタズラされたくなかったら、おはぎを頂戴! とか?」
「いろいろ混ざってるよ、それ」
二人で、ケラケラと笑い合う。
陽気な幽霊ちゃんだ。プレイヤーを驚かせる時だけ、恨めしげな顔をするんだとか。
ちょっと早いけど、魔女と幽霊のハロウィン漫談状態。
猫のシッポナが呆れて見てる。
「こらぁ! ユーミにミリィ。人の職場を荒らすなよなぁ!」
と、乱入して来たのは『歌う道化師』ホビットのリリカこと、
子供サイズの身体に、マンドリンを背負ってる。
珍しくも、神出鬼没同盟が三人揃っちゃった!
今はまだ、プレイヤーさんたちが王都の周囲までしか進出してないけど、他の街にまで行くようになると、この三人はどこに現れるのか解らなくなる。
もし、誰かを探すイベントがあると、プレイヤー泣かせになることが必至です。
「まったく、ジュリア姫は勝手にイベント作っちゃって、プレイヤーを駆けずり回すし、魔女と幽霊は漫才始めるし……これ以上、大道芸人の客を奪うなよなぁ」
腕組みして、ぶんむくれてみせる。
お笑い芸人が本職とはいえ、コンパニオン・キャラクターに選ばれるくらい、リリカさんは結構な美人さん。彼女の下品にならない笑いは、私も大好き。
吟遊詩人のエリーゼさんの歌うバラードも素敵なんだけど、リリカさんの皮肉やダジャレを効かせたマンドリン漫談も楽しいんだ。
タダどころか、お給料を貰って聴けるのは、コンパニオン・プレイヤーの特典です。
「ユーミ、ミリィ……せっかくだから、コラボしようぜ」
リリカさんの誘いに乗って、コラボしちゃおう。
いつも通りのリリカさんのネタに、左右から私とミリィでツッコミを入れていく。時々、背の低いリリカちゃんの頭の上で二人だけで話を進めて、怒らせて、笑いを取ってみたり……。ミリィちゃんのリアクションセンスに合わせるだけで、結構盛り上がった。
投げ銭用の空き缶は、銅貨と銀貨でぎっしりだ。
「あぁ……疲れた。小銭も溜まったし、ナナ姐の所で休もうや」
三人揃って、冒険者の宿併設の酒場に行ったら、主であるナナリーさんに呆れられた。
ナナリーさんこと、
「さすがにこれだけ、ひと所に揃っちゃうと怒られちゃうかな」
ちょんと指差す先には、吟遊詩人のエリーザさんもいた。
あはは……今ログインしているコンパニオン・プレイヤーでここにいないのは、『服飾のカリスマ商会主』シフォンだけだ。
さすがにどうかと思うけど、これも偶然だから……許して。
「あたしとナナリーは仕事が仕事だからともかく、ユーミとミリィとリリカが三人揃っちゃうのは、どうなのよ?」
「それはユーミとミリィが悪い。噴水広場で漫才始めて、ひとの客を取るんだもん」
グラスを傾けながら呆れるエリーゼさんに、リリカさんが言い返す。
この二人の歌い手が揃うのも、かなりレアじゃないかな?
「漫才なんてしてないです。ユーミちゃんとお喋りしてたら、プレイヤーさんが集まっちゃっただけだもん」
「アレが漫才じゃなかったら、何だって言うんだよ?」
「ガールズトーク?」
澄ました顔で言い返す、ミリィちゃんも負けてない。
私は、我関せずとナナリーさんの淹れてくれた、コーヒーなんぞを呑んでます。喉を酷使しすぎたから……。
こういう時は、飲み物を飲めない幽霊のミリィちゃんは、ちょっと可愛そう。
リリカさんは、当然お酒を呑んでます。
心の中で、孤軍奮闘中のシフォンさんに詫びておく。
彼女だけ、芸能関係じゃなくて一般の娘なんだよね。
スカウトで参加してるけど、メインは別のゲームらしくて、こっちは一歩引いた形になってる。だから、ログオン時間はリオンちゃん並みに短い。
お喋りしてみたい娘なんだけど、なかなか機会がないんだよ。
実はキャラクターも見かけた事がない。
そのくせプレイヤーさんの間では、地味に人気が高い。……不思議だ。
おぉ。エリーゼさんのギターに、リリカさんのマンドリンでセッションが始まった。
これには、クラップハンド。手拍子でリズムを取っちゃう。
あ……こら、シッポナ。私の膝の上から、急にどこに行こうというのかな?
なんて視線を巡らせたら、カウンターにピョコっとヤンバルクイナのぬいぐるみが……。
「……分散しましょうね?」
穏やかな声だけど、目が笑っていない微笑みが見えるよ。
キャー、怒られたーっ!
家主のナナリーさんと、そこで歌ってたエリーザさんを残して、神出鬼没トリオはバラバラに街の中へと、逃げ出すのであった。
ごめんなさーい!
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