ダンジョンを抜けて

 三週間ぶりの『シールズ・キングダム』の世界は変わらないようで、いろいろ変わってる。


 コルクスの町をのんびり散歩していたら、串焼きを貰った。……のは、ともかく。

 どうやら、そろそろダンジョン突破のパーティが出そうな感じらしい。

 ボウモアさんたちのパーティと、カナリーちゃんたちの女子組が競っているような。

 町では噂のタネ。

 Gは嫌だけど、見に行くしか無いかな?

 死に戻りで、ここまで戻って来ちゃうんじゃ可哀想だものね。

 ダンジョンボスのキャラにも興味があるし、プレイヤーが近づいているなら、私もダンジョンの奥を見ておかなくちゃだわ。


 行くよ! シッポナ、キラ君。


 念の為、Gが出た時に即殲滅できるように、爆炎石をいっぱい作っておく。

 できれば、アレは見たくない。


「あら? ユーミさん、お帰りなさい」


 って声をかけてきたのは、高級娼婦のはずなのに、しっかりシーフの革鎧姿のベルリエッタさんだ。

 また、こんな方まで来てるし。


「ただいま。三週間留守にしちゃって申し訳ない」

「ふふっ……ミリィちゃんがいろいろ大変だったみたいだけどね」

「お仲間みたいなものだけど、リアルと役柄は違うのかな、やっぱり?」

「そういう感想になるから、面白いのよ。ユーミさんは」

「あ、そうだ。これからダンジョンの奥を見に行くんだけど、一緒に来ない?」

「いいの?」

「野次馬は一人でも多い方が、受けるから」

「じゃあ、私も連れてけー!」


 突然割り込んできたのは、マンドリンを背負ったホビットさん。

 お笑い芸人にして、我らが神出鬼没同盟の一人のリリカさん。


「でも、集まり過ぎちゃうと、またヤンバルクイナさんが……」

「ダンジョンなら、問題無いっしょ?」

「ふふっ……じゃあ、リリカさん責任で行きましょう?」

「ゲッ……ベルリエッタって、そういうキャラだったのか」


 ケラケラ笑いながら、ちょっと珍しい取り合わせでダンジョンに入った。

 リリカさんは、キラ君の背中でご機嫌だ。


「さすがに、早いですね……シッポナは」


 シーフとして、シッポナと先陣争いしているベルリエッタさんが、お行儀悪く舌打ちをする。

 その娘、けっこう高レベルだし、猫だから素早いのよ。

 アメールくんも連れてくれば、良い勝負になるのに。


「アレは、どこかで遊んでいるでしょう」


 それではなぜ、ベルリエッタさんとセットなんだろう?

 訊いてみても、美しい微笑みで誤魔化されてしまう。

 謎が謎を呼ぶ、猫さんだ。


 ダンジョン探索中の人たちに、この顔ぶれで驚かれてしまう。

 でも、みんな慣れたもので、下へ行く階段の方向を教えてくれる。

 Gが出たので反射的に爆煙石を投げてしまったが、同時にシッポナも突っ込んでた。

 ……なぜ君は無傷で帰ってくるかな?

 毛並みも焼けていないんだから、文句は受け付けません。次も出たら、躊躇せずに爆煙石を投げます。私の猫なら学習しなさい。私はアレが大嫌いなの!

 ニャアニャアと文句を言うシッポナを、気合で黙らせる。

 アレを全滅させるためには、シッポナの苦情も突っぱねるよ、私は。


 シッポナとマジ喧嘩する私を、仲間はおろか周りのプレイヤーさんも笑ってるよ……。

 文句が有るなら、私が投げる前に、アレを全滅させなさい!


「ユーミって、誰とでも漫才できるんだねえ……。女優をやめて、こっちの世界に来ない?」


 リリカさんに飛んでもない事を言われた。

 ……まだ、女優に未練が有るんです。この間再確認したばかりです。

 珍しくベルリエッタさんも大笑いしているから、ひょっとして才能有る?

 いやいや、私は女優。……売れてないけど。


 地下も二階、三階と降りていく内に、シッポナとベルリエッタさんの間に連携ができてゆく。素晴らしい……。シッポナが一撃で倒せないほど、敵が強くなっているんだけどね。


「呆れるくらいに、経験値が入ります」

「私なんか何もしてないのに、レベルアップしていくよ」


 戦闘技能を持っている二人は、ホクホク顔。

 ちなみにキラ君も、リリカさんを乗せたまま、戦闘に参加していないよ。

 私は、このくらいではレベルアップしないほど、レベルが上だったりして。

 澄まし顔で黙ってる。


 いよいよ地下五階。

 ここが最終フロアらしい。

 さすがに、ここまで来ると周囲のパーティーがいなくなる。

 ボウモアさんたちと、カナリーちゃんたちはどこにいるのかな?

 訳知り顔のシッポナが、尻尾を立てて前を歩くからついて行くけどさ。本当に道が解っているのかな?

 この階になると、とうとうキラ君も戦闘参加。

 さすが、元別ルートのとうせんぼラスボス。ほぼ参加すると一撃で仕留めてくれる。

 あ、角を曲がった所に、二パーティー共にいた。


「ユーミちゃーん、久しぶりだー」

「キラ君も、しっかり懐いちゃって」

「シッポナーっ。撫で繰り返したかったよーっ」


 と、女性陣が、もふもふに殺到する。

 さすがに思わぬメンバーにビックリしてるのは、男性陣。


「何で、そのメンバー?」

「なりゆき、なりゆきー!」


 マンドリンを奏でて、リリカさんが唄う。

 でも、そんなことしてて良い場所なの?


「あのドアを開いたら、ラスボス。確認していないけど、あんなのがラスボスじゃなかったら、蒔田ワールドデザイナーさんを恨むよ」


 ボウモアさんが、苦々しげに扉を見つめる。

 既にボウモアさんたちは三度、カナリーちゃんたちも二度、死に戻りしているらしい。

 今度はイケるのだろうか?


「駄目で元々、二パーティを統合してみたら、ここでは大丈夫なんだよ。これは多分、レイドして挑めって言うことでしょ? 今度こそ、やっつけてやる!」


 カナリーちゃんの言葉は頼もしいけど、シッポナのお腹に顔を押し付けながらでは、あまり威厳がないよ……。

 例によって、セーブポイントを作ってあげよう。


「ユーミちゃん、キラ君貸してよぉ……」


 切ない眼差しで、雪月花さんに見つめられるけど、それは出来ないのよ。

 そんなにシンドいのがいるの?


「いるのよ……ケルベロスが、ヘルハウンド連れて」

「ワンコ天国じゃん!」

「私は猫派だもん!」


 リリカさんの混ぜっ返しに、っちゃんこと、雪月花さんが頬を膨らます。

 ベルリエッタさんの中の人である、冬月美涼さんに並べる和風美人。

 こういう姿に、ボウモアさんの所の男性陣の鼻の下が伸びてる。

 きっと、雪っちゃんの弓より、男子には効果絶大。


「じゃあ、先に行くから追いついておいで」

「ずるーい!」


 大合唱を尻目に、私たちはドアを開けて進んでいく。

 あ、いたいた。三つ首ワンコと、目付きの悪いワンコたち。

 一応ネコ科の、キメラのキラ君と睨み合ってる。

 でも、ルールで私達は進んで戦いに行こうとしない限りは、ボス戦は回避できる。……って、だから、シッポナは、かかっていこうとしないの!

 最近は、シフォンさんに首輪を嵌められちゃったおかげで、ちょっと捕まえやすくなったりする。

 ベルリエッタさんが、難なくキャッチ!

 全く、怖いもの知らずの武闘派なんだから。……抱き癖のついた家猫のくせに!


 犬猫の睨み合いを他所に、リリカさんがさっさと出口の扉を開いた。

 喧嘩の始まらない内に、さっさと出ちゃいます。


「おぉっ……なにここ……」

「綺麗ですね……」


 周囲を見回して、リリカさんもベルリエッタさんも感嘆してしまう。

 これまでの人工の石壁から打って変わって、岩肌丸出しの洞窟だ。

 だけど、暗いはずの洞窟の岩が、あちらこちらで煌めいている。

 赤い光、青い光、黄色に白……本当に綺麗だ。

 あまりの美しさに、はしゃぎながら進んで行くと、その石で作った煌めく町が現れた。

 何、ここ……。私たちは走って町に入る。


 そこにいたのは……。

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コンパニオン・プレイヤーの暴走 ~シールズ・キングダムの軌跡~ ミストーン @lufia

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