まだ「サクヤ」は完結していませんが
新作「ふよふよ~付与魔術師は全て他人任せ~」(タイトル確定)のイメージが固まりましたので、宣伝がてらに冒頭をチラ見せします。
ジャンルは『ファンタジー』
もうちょい、サクヤとお付き合いをお願いしますが、こちらもお楽しみに
☆★☆
『ふよふよ~付与魔術師は全て他人任せ~』
「ここは魔法学園の入学試験会場だぜ? お前ら、来る所を間違えてないか?」
ロバの曳く馬車の客室を無遠慮に覗き込んで、門番が鼻で笑った。
車椅子に座った私は、皮肉の一つでも言い返してやろうと思ったけど、先に御者をやっていたニースが爆発した。
「おっちゃん、あんたこそ頭は大丈夫か? 騎士様の試験会場ならともかく、魔術学校の試験は、座ったままでも魔力があれば充分でしょう?」
収まりの悪い水色の癖っ毛を何とかメイド帽に押し込んだ、そばかす娘が一気に捲し立てた。
今は御者の真似事をしているが、服装から見て解る通りに私のレディメイドである。
時々育ちの悪さが出るけど、彼女が怒るのはたいがい私絡みだ。問題は多い娘だけど、私の信頼は変わらない。
言いたいことは、みんなニースが言ってくれたので、扇を広げて冷ややかに微笑む。
魔法学校に入るのは、神殿に入るのと同じ。家を出たとはいえ、貴族令嬢の矜持まで捨てるつもりはない。
「だいたい……何の酔狂でロバに馬車を曳かせてるんだよ?」
「このドンキー君が、可愛いからに決まってるでしょ? そんな事も解らないのかしら?」
無駄な時間を食ったとばかりに、鼻を鳴らして馬車を動かす。
もちろん、それはニースの優しい嘘だ。
私が幼い頃に、好奇心から馬に乗って振り落とされて、腰から下が動かなくなってしまった。そんな経緯もあって……実は馬が怖いのだ。
小さく気の優しいロバのドンキー君をニースが連れて来てくれてから、私の移動はこのロバ馬車になった。
預かり所にロバ馬車を預けると、後方ドアが開かれる。
「では、お嬢……参りましょう」
車椅子の固定具を外して、レールを下ろす。
私は小さなタクトを振って、ニースに《《助力》》した。
ニースの細腕は、私を乗せた車椅子安定して支えて、レールの上を地面に下ろしてみせる。レールを馬車に戻して、後方ドアをロックした。
ニースに押して貰う車椅子は、芝生から石畳に乗り受付を目指す。
「お嬢……石畳の揺れは大丈夫ですか?」
「あなたが仕込んでくれた板バネ、効果が有りますよ。小さなショックなら吸収してくれています」
「王都の石畳は古く、意外に揺れが多いので……効果があって、何よりです」
やはり、車椅子の娘は目立つのだろう。
興味本位の視線が絡みつく。貴族の家に生まれ育たなければ、とっくに間引かれているだろう。
それでも生きているのだから、十三歳で道を選ぶ権利は有るはずだ。
受付に並び、順番が来たら受験許可の手紙と、身分証明のIDプレートを提示した。
魔道具のプレートには、まだ子爵令嬢としての自分が登録されている。合格さえすれば、晴れて魔道士見習いとして、家から離れた自分の籍が持てる。
それこそが、自分が生きている証明だ。
☆★☆
こんな感じのお話です。
ただし、スタートほどシリアスっぽくはないはず。
もうしばらくしたら、名を明かしていないお嬢様の応援をよろしくお願いします。