第15話 どう考えたってキモイでしょ

 「げぇむ?が何かは知らないけど、属性が少ないって言うのは間違いだと思うよ。」

「ほう。詳しく」

「えっとねぇ、これは教会の絵本とかを読んでわかってきたことなんだけど、才能のある人は、その人固有の属性魔法を持ってるっぽい。」

「!」

 コレまた面白いことを聞いた。つまりアレだろう?この世にはゲームの定番最強キャラみたく、時空を操る奴や重力を操る奴がいるかもしれないってことだろ?

 特に戦いたいって訳じゃないけど、実際にそいつらに会ってみてどんな感覚でスキルを使ってるのかとかを根掘り葉掘り聞いてみたいって気持ちはある。

「顔がニヤけてるけど?」

「………げほん!そんな訳あるまい。ところで、そろそろ帰らないか?もうすぐ日の出の時間だぞ。普通の子供はおねんねしている時間だ。」

「むぅ…何さ、僕が普通じゃ無いみたいな言い草は!」

「いやいや!どう考えても普通じゃ無いだろうが!こんな感のいいガキがいてたまるか!」

「そう言うキミは僕より3歳もガキだよ⁉︎」

「いいや。俺は立派な大人だね。」

「はぁ〜、キミのことを大人びていると思った僕が馬鹿だったみたいだよ。」

 まあ、今の会話で俺は一つも嘘なんかついていないんですけどね。残念でしたぁ〜。レヴィの中身はダンディーなおっさんでーす!




 あれから、教会に帰ってきた俺たちは別れてそれぞれの部屋に向かった。俺も今はベットの中だ。


 キリに俺の秘密が知られたことから始まった、今日の魔物狩り体験。いざ蓋を開けてみると、ブラックタイガーという馬鹿強い虎と遭遇するとかいう、急展開に発展したのだが、キリと力を合わせてなんとか倒す事ができた。それによりキリはもちろん俺のレベルも急激に上昇し、今や俺のレベルは67。あとゴブリンを100体くらい狩ればLv.70に届きそうな数だ。

 この一件で、冒険というものは危険と隣り合わせなのだと、改めて実感させられた。同時に戦力不足も痛感した。今の俺の手札は、潛と魔力弾だけ。コレじゃあブラックタイガーのような魔物には通用しない。圧倒的な防御と攻撃には対抗できないのだ。


 そこで俺は、新たな人形を作ることに決めた。ついに、本格的な戦力拡張が始まるのだ。


 作る人形の形状の大体決めてあるし、内部構造もある程度考えてあるので、作業効率は初めての時よりは良いはずだ。

 ただ、大きさが大きさなので時間は前回よりもかかる。

 と、まあ考えるのは明日にしてひとまず睡眠を取ることにしよう。ここ最近はまともに寝ていなかったからな。そろそろ、体の限界を感じ始めた頃だしこの後の人形作成の為にも集中力を切らす訳には行かないからな。

 という事で、おやすみんさい。


――――ZZZ





 翌日。レイナさんに起こされて他の孤児と共に朝食をとる。

 キリも隣にいるのだが、見ての通り、かなり眠たそうだ。欠伸を噛み殺しているのが容易に想像できる。

 キリちゃんよ。俺みたいな元社畜おっさんなら兎も角、成長期真っ只中のキミはちゃんと寝ないといけないよ?

 と、その元凶である俺は心の中で呟くのであった。

「で、今日は何をするんだい?」

キリがパンを頬張りながら尋ねた。

「新しい人形を作る。潛だけじゃ昨日みたいな脅威には対応出来ない。あ、潛ってのは昨日見せた鼠型人形のことね。」

「まあ、Bランクの魔物ともなれば、ね。………分かった。僕も手伝うよ。」

「それは有難いが…良いのか?」

「勿論さ。素材集めとか簡単な作業でなら僕でも役に立てると思うし、何よりキミが人形を作ってる所に興味があってね。一度見てみたかったんだ!」

「ありがとな。それじゃあ食後に教会の裏手集合で。」

「おっけー!」




 それから俺たちは、建物の裏手に回り、シスターと神父様の目を盗んで教会から抜け出した。

 現在時刻は午前9時。門番が機能し始める時間だが、そこは森で待機させていた潛を使う。


「―――おわっ⁉︎なんだこの鼠!」

「ああ⁉︎魔物かぁ⁉︎」

「ちょっ!コイツ思いの外すばしっこいぞ!お前らも手伝え!こうなったら…〝ファイヤ――――」

「馬鹿!コイツが魔物じゃなかったらどうするんだ!魔物以外の動物に魔法を撃つことは禁止されてるんだぞ!」

「ちぃ!鼠1匹、素手でとっ捕まえてくれるわ‼︎」


 はい。この間に門を抜けますと。

 ね?簡単でしょ?

「やっぱりキミって思ったよりも賢いのかもね。」

「馬鹿にしてんの?」




 「はい!人形作成に入りたいと思います!」

「質問〜!一度目は鼠型だったらしいけど、今回はなんの動物をモチーフに作るんですか?」


「良くぞ聞いてくれたキリ君!今回俺が作る人形のモチーフはズバリッ‼︎――――ヤドカリさんだ‼︎‼︎」


 俺は両手をチョキにしてキリに歩み寄る。すると、キリは斜め上を見上げて首を傾けた。

「やど…………かり?宿、狩り?」

 ………あー、やっぱりか。


 というのも、以前レイナさんに『まるでオオスズメバチだね!』といったら『ハチ…?大きなハチがどうかしましたか?あ、スズメでしたか?』と言われたのだ。

 そう、おそらく、レイナさんは、ハチとスズメは知っているのだろうがオオスズメバチを知らない。というか、この世界にオオスズメバチは存在しないのだ。その理論でいくと、ヤドカリという生物も存在しない可能性も出てくる訳だ。似たような生物はいるかもしれないが、名前も違いそうだしな。


 まあ、考えてみればわかることだ。前世の世界とは違い、この世界には魔力という超常物質が、そこらじゅうの大気に存在しているのだ。

 生物というのは自分の置かれた環境に適応しようとして進化する。魔力のある世界で進化するならば、魔力をなんらかの形で活用する種が生まれるのも必然というものだろう。

 と、話が脱線してしまったが、結論としてキリはヤドカリを知らない。仮に知っていても、別名として理解しているだろう。

「えーっとだなぁ。こんな生物だ。」

俺は、木の棒で地面にヤドカリの絵を描く。絵心はある方なので、割とうまく描けた。

「うわっ!キッモっ‼︎」

「え゛っ⁉︎なんで⁉︎」

唐突な悪口に驚いて声をあげる俺。

「いやだって、背中に亀みたいな甲羅つけて、脚が5対10本の赤黒い蜘蛛だよ⁉︎どう考えたってキモイでしょ!」

「そ、そうか?コレに近しい生物で、エビとかカニとかもいるがどれも高級食材だぞ?」

「うげぇ、コイツを食べるとか頭がどうかしてるとしか思えないよ。」

ひでぇ言い草だな。

 キリの嫌悪感丸出しの顔をみて、少し引き気味になる俺。蜘蛛とか蟹って、普通にかっこいいと思うんだよな。なんと言うか、ビジュアルがいい。

 俺だけ?

 でも実際俺たちは、エビカニを美味しいと知ってるから食べれていた訳で、味を知らない状態だったなら、同じ様に食べれていたかな?……うーん…肯定はできませんな。

 というか、キリは蜘蛛が嫌いなんだな。ぐへへ、メモしておこう。いざという時の切り札ゲットだぜ!









〈補足〉

 ことわざなどの中には地球世界の動物の名前が入っているものがありますが、それらは普通にこちらの世界でも使われています。


〈例〉

雀の涙ほどの〜〜〜


 これは、過去の勇者が召喚された際に、この世界に伝えたからです。




 

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