第5話 人形作成②
午後5時、シャワーを浴びて夕食も済ませた俺達孤児はそれぞれの部屋のベットに向かう。ちなみにシャワーは個室がいくつも連なっている感じだ。この国では、風呂という文化があらず、お互い裸体になって大きな浴槽に入る事自体以ての外らしい。レイナさん曰く、一部の外国では風呂の文化があるらしいのでいつか行ってみたいものだ。
部屋についた孤児達はそれぞれがベットに入り、寝息を立て始める。俺も寝た
子供が就寝してしばらくするとシスターレイナが見回りにやってくるからだ。静かに扉を開けて、眠る子供の顔を一人一人拝んで去ってゆくその姿はまさしく鬼である。
―――ガチャリ
っと、噂をすればやって来たようだ。
―――コツ、コツ、コツ……。
歩いては止まり、歩いては止まりを繰り返しながら俺の部屋の最奥のベット、つまりは俺のベットに近づいてくる。
―――コツ、コツ、カッ!
ついに、彼女は俺のベットの前で立ち止まった。レイナさんがしゃがみ込む音が聞こえる。
(はやく立ち去ってくれぇ!というか、顔が近くない⁉︎)
レイナさん自身は無自覚なのだが、事実として彼女はかなりの美人である。そんな人が俺の目の前に、鼻と鼻がくっつきそうな距離にいるのだ。中身おっさんな俺には刺激が強過ぎる。
「大丈夫そうですね……。」
レイナさんは小さくそう呟くと、ようやく踵を返して部屋を出て行った。
俺はベットから体を起こす。
「シスターレイナ、恐ろしや……。」
レイナフィルターを命からがら(大袈裟)抜け出した俺は、窓から外に飛び出す。目的は『ネズミ型人形』の部品の組み立てだ。魔力も回復しているし、何より作りかけのものを途中で中断するのは、なんだかモヤモヤとするのだ。前世は社畜だった俺だが、実は職人なんてのも向いていたのかもしれないな。
部品の組み立てくらいなら、森に行く必要がないのでは?と思うかもしれないが、この世界の治安はなかなか悪いらしく昼夜問わず、食い逃げされた店主の怒号や、喧嘩の声が町の所々で鳴り響いているのだ。夜、そんな街中で一目につかないところで部品を組み立てている所を誘拐されでもしたらたまったもんではない。部品の組み立てが中断されてしまうではないか。という理由があって森に向かうのだ。
森についた俺は、早速組み立てに没頭してゆく。
―――――――――
―――――――
―――――
「っしゃぁ―――‼︎‼︎出来たぁ!」
朝日が地平線から顔を出すころ、ようやく『ネズミ型人形』が完成した。俺の目の前には、全長およそ15センチ、重さ約20キロの木のネズミがあった。
「部品一つ一つが重いなとは思っていたが、組み立てて見ると予想以上の重量になってしまったな。」
しかし、部品一つ一つが相当な量の木材を圧縮して作られているので、その分強度は申し分ない。密度がえげつないからな。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
人形No.1 【No name】
タイプ:鼠
MP含有量:715
製作者:レヴィ•マドラ
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「へぇ、自分が制作した人形のステータスも閲覧できるのか。ん……?No name?」
それから色々と調べるうちに、自分が作った人形には名前をつけられる事がわかった。
「じゃあ、早速付けるか、名前。…………よし!決めた!お前の名前は『
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
人形No.1 【潛】
タイプ:鼠
MP含有量:715
製作者:レヴィ•マドラ
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「おはようございます、朝ですよ!ほら、レヴィ!起きなさい!」
「うーん、もうちょっと……。」
「それ言って、ちょっとだった日はありませんよ⁉︎」
(昨日は徹夜だったんだぞおい!ガチで眠たいんだよ!)
俺は内心文句を垂れ流しつつベットを後にする。決してシスターレイナが恐ろしいわけではない。そう、決して!
朝食を食べるため食堂にいくと、
「おっはようレヴィ!今日は天気が思わしく無いね。」
と、アレンが手を振って俺を迎えた。相変わらず隣の赤髪の少女、フレアは殺意増し増しの目を俺に向けている。彼女には俺がどの様に見えているのか、知りたいもんだね。………いや、やっぱりいいや。傷つく予感しかしない。
アレンに手を振り返して席についた俺は、黒パンを頬張りながらこれからについて考える。
つい昨日、記念すべきネズミ型人形一号が完成した。その仕組みは簡単で、潛(ネズミ型人形の名前)の中にある核と俺とが魔力回路で繋がっており、その回路を通じて視界の共有や魔力供給、人形の操作などが可能となるという感じだ。
そこで、俺は思いついた。
――自分の魔法を人形を経由して撃てんじゃね?と。
もしそれが可能であれば、俺は教会という安全な所から魔物を狩り続けられる訳だ。控えめに言って超楽。倒した魔物の魔石は夜か早朝に回収に回ればいいし、実質デメリットは無しだ。
善は急げという事で、俺は朝食を一気に口に詰める。
「うぐぅ⁉︎」
「ちょっ⁉︎大丈夫ですか!」
「だ、大丈夫大丈夫。……ゔっ」
「とても大丈夫とは思えないのですが……。」
レイナさんよぉ、俺を舐めすぎだぜぇ?
「……口一杯にパンを詰めてそんな顔をされても説得力なんて微塵もありませんからね!」
さいですか。俺は半ば無理矢理パンを飲み込む。
「ご馳走様!じゃあ、部屋に戻ってる!」
「いきなりどうしたのでしょうか……?」
食堂を早足で出ていくレヴィを前にレイナは首を傾げるのだった。
「まずは〝視界共有〟っと。」
部屋に戻った俺は誰も部屋にいないことを確認した上で、スキルを行使する。〝視界共有〟はスキル《人形作成》に含まれる能力の一部でその名の通り自分が作った人形と視界を共有できるという者だ。俺と潛は魔力で繋がっているのでタイムラグも無いに等しい。
すると視界が森に変わった。木々をほぼ真下から見ている様なこの目線は間違いなく潛のものだ。
「よし見えた。あとはこいつから魔法を撃てばいいだけなんだけど………。」
そこで俺は気づいてしまった。
「あれ……?俺って《人形作成》以外のスキル持ってなくね?」
そう。俺には魔法という魔法が全く備わっていないのだ。スキルとは、職業授与の儀で職業を授かったと同時に与えられる。その量と質は人によって千差万別で、大量に授かる人もいれば、珍しいスキルを一つだけ授かる人もいる。俺のスキルは、職業が日本語で《傀儡師》と書いてあったことからも世界で一つだけだと予想される。こういうのをユニークスキルというのだろう。この世界にもその概念があるのかは知らんが。
「いやまてよ?」
そこで、俺は思い出す。
「確か、この前読んだ本に『魔法、スキルの習得は後天的にも可能』と書いていなかったか?」
教会の書庫に忍び込んだ時に見た本に書いてあったのだ。つまり、俺が今から魔法と呼べる様な魔法を編み出して、それが神様(実在するかは別として)からスキル認定されれば良いのである。
とはいえ、過去にそれを成功させた事があるのは勇者と共に魔王討伐に赴いた、大賢者くらいらしいので、成功する可能性は相当低いと考えておくのが妥当だろう。まあ、必ずしも失敗するとは限らないので、俺は成功させるつもりでやるがな。
「やってみるか。これからの事を考えると護衛手段は欲しい所だしな。作るのは……魔力を固めてうち出す魔法とかが簡単で良さそうだな。」
流石に一度では厳しいかな?と内心考えながらも自分の手のひらに魔力を集中させてゆく。すると白とも透明とも言えない様な色をした物質が俺の拳の先に現れた。大体、MP換算で500分位溜まったところであらかじめ開けておいた窓の先に向かって手を伸ばす。そして、手と魔弾の間で、魔力を爆発させた様な推進力を想像して…………一気に押し出す!
―――ドォォオオン‼︎‼︎
魔力の塊が飛んでゆく。
「……一度でできちゃったよ。というか、初めてにしては思いの外上手く……いっ……………え?」
俺って大賢者並み?、そんな事を考えてふと上を見た俺は目を見開いた。
俺は魔弾を試す上で、教会の建物に傷をつけたりしない様に念の為、魔弾を空に向けて撃っていた。
「…………き、今日は空一面雲が覆っていたはずたよな?」
俺の目の前にあるのは、さっきまで曇りだった筈の空が教会を中心として同心円状に開けている光景だ。教会の上にあるのは先ほどとは打って変わった様な晴天である。
「う、嘘だろ……。さっきの魔弾が雲を退けたってこと⁉︎」
こんな現象が起こったのは俺が空に向けて放った魔弾が原因なのは明らかだ。だが……ありえない。
いくら魔法といえど、こんな超常現象を起こした記録なんて俺が今まで見た書物の中には存在しない。神話には神が雲を割った、などの記述があるのかも知れないが、この現象を起こしたのは俺というしがない傀儡師である。
つまり、そこから導き出せる結論は………
「さっきの魔弾に込めた魔力、MPにして約500が桁違いに多かったということか。」
俺は、今までは自分以外のステータスを見たことがない。それもあってMPの保有量は数万、消費量にしても一度の魔法で数百の魔力消費が普通だと誤認していた可能性がある。ひょっとすると、一般人が保有している魔力というのは俺の想像よりも遥かに少ないのかも知れない。
「これは、一度『常識』というものを知る必要がありそうだ。」
――スキル《魔力弾》を習得しました。スキル補正により、《魔力弾》を使用する際の魔力消費を抑える事が可能です――
しばらくして、俺の頭に声の様なものが響き渡った。どうやら無事、スキル《魔力弾》を獲得出来たらしい。
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