第4話 人形作成①
「さあて!ついに人形の作成だぁ!」
ゴブリンを1匹ボコして次の日、俺は同じ森にやってきていた。門の前にいる傭兵は、相変わらずサボっていたので余裕で門から抜け出す事が出来た。
今日は待ちに待った人形を作っていこうと思う。昨日の検証である程度の作成過程における障害は取り除いたので、成功する確率はかなり高いと踏んでいる。
作成する人形は、『ネズミ型人形』だ。
ネズミを選んだのには大きく分けて2つの理由がある。
まず初めに、ネズミは小さくて体の作りが簡単だからと言うのが挙げられる。いくら俺の魔力量が桁違いに多いと言えど、人間大の人形をそう何度も作れるわけではないからな。大きすぎても置き場所に困るし。また、ネズミはずんぐりむっくりとした体型で内部構造を作りやすく、なおかつ想像しやすいので今回の実験には向いているのだ。
二つ目の理由としては、人形の体内に埋め込む魔石の大きさに問題があるからだ。これは恐らく職業、《傀儡師》の恩恵でわかる事なのだが、人形作成においては『核』が必要不可欠なのだ。『核』とは、生物で言う心臓みたいなもので、魔力の循環の中枢を担う役割がある。そして、核には魔力伝導率が高く、なおかつ循環率も高い物質が理想なので、魔石が最適であると俺は考えた訳だ。今回の人形の核には昨日狩ってきたゴブリンの魔石を使うつもりなのだが、《人形作成》で魔石から不純物を取り除く工程で、どうしても魔石は小さくなってしまうのだ。
「やりますか。」
準備するものは木の枝が数十本(魔力伝導率が高い木)、ゴブリンの魔石(加工済み)の2つだ。
まずはネズミの胴体の部品を作っていく。今回込める魔力は100程にするつもりだ。胴体が完成したら次は手足。手の部分、前腕部、上腕部、手と前腕部を繋ぐ関節、前腕部と上腕部を繋ぐ関節を作り、スキル《人形作成》で組み合わせる。まるで、数本の針に同時に糸を通すかの様な繊細な作業に、俺は時を忘れて集中する。手足が4本出来ると、次に作るのは顔だ。が、先に顔の形を作ってしまうと、目玉が入らなくなってしまうので、顔の形を作りながら目玉を入れていく必要がある。なんとかこなしてはいるのだが、我ながらエゲツナイ作業である。
―――2時間後
「ようやく部品が完成したー!長かったー!」
俺の目の前にあるのは俺の努力の結晶、もといネズミ型人形の各部品である。
「マジで苦労したぜ……。部品作るのにこんなに時間を使うとは思っても見なかった。」
特に俺を手こずらせた部品は尻尾の部分だ。リアルを求める上で尻尾は、自由自在に曲げられる様にしたかった。そこで、極小と輪っかのパーツを大量に連結させた訳だが……コレが辛すぎた。まず、十数個の極小パーツを木材から生み出す時点で、無理ゲー並みの難易度なのだ。その上、それを組み合わせるとなるとたまったもんじゃない。
「って、もう7時半じゃねぇか!シスターレイナが起きちまう!」
あと数刻で、レイナさんが気づいた俺は慌てて『ネズミ型人形』の部品を抱えて教会にかえるのだった。
「はいはーい!みんな、起きる時間ですよー!」
(あっぶね〜!なんとか間に合った…。)
レイナさんが俺たちの部屋に入ってくるが、俺はすでにベットに潜り込んでいた。間一髪で間に合ったのだ。
「レヴィ!起きて下さい!朝ですよ!」
「んんー。もうちょっと……。」
俺はあたかもさっきまで寝ていた雰囲気を醸し出す。
「ダメです!どうせ、そう言っておきながら熟睡するのは目に見えています!」
「へいへい。起きますよ。」
俺が食堂(この教会では毎朝孤児全員で食事をする事となっている)に向かうとすでに多くの孤児が椅子に座っていた。どうやら、俺達が最後のグループらしい。
俺が孤児全体を見回すと、一人、俺に向かって手を振っている男子がいた。金髪のイケメン君、アレンである。俺も適当に手を振りかえしておく。アレンの隣では一昨日に俺に絡んできた赤髪の少女が俺を睨みつけているが、気にしない気にしない。
「みんな揃った様ですね。それではセド様に感謝をこめて、頂きます‼︎」
「「「「「いただきます!」」」」」
孤児達がガツガツと朝食をかき込んで行くのを見ながら、俺は気乗りしない気持ちを抑え、手元のパンを口に入れる。
(…やっぱり硬いなぁ)
この世界で食されているパンは硬いのだ。俺が気乗りしないのもそのせいである。しかし、この世界のパン全てがこの様に黒くて硬い訳ではなく、上級貴族や王族の食卓に出てくるパンは白くて柔らかい。ただ、富豪の家庭にしか出ない事からもわかるように、白パンは高価品だ。前世を日本で過ごした俺としては柔らかいパンを食べたいのだが、教会の財力を考えるとそうも言ってられない訳だ。
食事を食べ終わると、それぞれの自由時間が始まる。昼食まではみな好きなことを好きなところでする事となる。外に行ったりする(教会内から出ない)のも自由だし、屋舎で積み木をするのも自由だ。勿論俺がするのは、今朝の検証結果のまとめだが。
「おはようレヴィ!」
俺が食堂から出ようとすると、後ろから声をかけられた。この声は――
「よう、アレン。一昨日探していた本は見つかったのか?」
「うん!レヴィの部屋の隣の部屋に置いてあったよ。」
「よかったな。……ところで、お前に騎士団あたりから手紙が届いてないか?」
ふと気になった事なのだが、アレンは第二職業、《聖騎士》であり、第二職業を持つものはこの世界では天才とされている。教会からそんな逸材が出たとなれば、その情報を聞きつけて騎士団辺りがアレンの勧誘にきても不思議ではないと思ったのだ。
「う〜ん?きてないと思うよ。というか、《聖騎士》と言っても、所詮、《騎士》の一つ上の職業ってたけだよ?騎士団がわざわざくるとは思えないなぁ。」
「お前は第二職業を舐めすぎだ。第二職業保持者は理論上、第一職業保持者より一つ上の職業になれるんだぞ。周りが第二職業の時に、周りと同じ訓練を積んだお前は第三職業になっているって事だ。」
「ふぅん。…なんだかラッキーだね!」
ラッキーで済ませんじゃねぇよ……。と俺が思っていると、
「ぐぇっ!」
いきなり、後ろから俺の服が引っ張られた。
引っ張ったのは赤髪の少女。アレンに恋する乙女ちゃんだ。……ちょっとキツめの性格だけど。
「ちょっとそんな事したらレヴィが可哀想だよ。」
「アレンは優し過ぎるのよ!レヴィ!あなたアレンに何かしようとしてたでしょ!」
「何かってなんだよ、何かって。」
「……とにかく、何かよ!」
ちょっとアレンの束縛が強すぎやしないか?と思わなくもないのだが、彼女にとって、アレンと話している相手は暴君と名高い、あのレヴィ•マドラなのだ。アレンを守ろうとするのも頷けるだろう。事実、俺が前世の記憶を持たないままなら、服を引っ張られた時点でキレていただろうしな。
「ごめんねレヴィ。フレアはちょっと気早い所があるんだ…。」
アレンが俺に耳打ちををする。どうやら赤髪の少女の名はフレアというらしい。
「……苦労してるんだなお前も。」
「まあね。でも決して悪意がある訳ではないんだよ。」
「ちょっと!何コソコソ話してるのよ!」
「「いえ何も。」」
そんなこんなで俺とアレンの会話は、フレアの介入によって一区切りとなったのだった。
作者「誤字は定期的に訂正するつもりっす!」
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