第6話 外出禁止令発令のお知らせ
――スキル《魔力弾》を習得しました。スキル補正により、《魔力弾》を使用する際の魔力消費を抑える事が可能です――
頭の中でスキル獲得の知らせが鳴り響いたその時、後ろから扉の開く音がした。振り向くとレイナさんが息を切らして佇んでいた。
「みなさん、大丈夫ですか⁉︎ってレヴィくん一人ですか。」
「そうだけど、そんなに慌ててどうしたの?息も相当切らしている様だし。」
「孤児の避難と安否の確認を、各部屋を回ってしていたんです。レヴィも見たでしょう?空を覆う雲が貫かれたのを。」
「う、うん。なんか凄かったね。誰がやったんだろうね?」
俺は、自分の仕業である事がバレていないか確かめるため、レイナさんに探りを入れてみる。
「あんなもの人間業ではありませんよ!できるとすれば魔人や悪魔くらいですよ。」
「へ、へぇ。怖いなぁ〜」
実は俺が引き起こしたなんて口が裂けても言えない。俺の人間としての尊厳が失われてしまう!額に汗を浮かべる俺にレイナさんは続ける。
「あ!S級冒険者達は例外ですよ?彼らはあのくらいできて当たり前と聞いたことが有ります。彼らはもはや人間としてカウントされません。」
「……マジで?」
「それがマジなんですね。実際、十数年前に起こったスタンピードを魔法一発で鎮圧したS級冒険者がいましたし。」
(S級冒険者恐っそろし‼︎今回の出来事で天狗になっていた鼻をへし折られた気分だわ!)
「ここは大丈夫そうなのでそろそろ、次の部屋に行きますね。魔人の類が起こした可能性があるので、絶対にここを動かないでくださいね!」
そう言ってレイナさんは隣の部屋へと向かっていったのだった。
想定外の事が起こったせいで脱線してしまったが、まだ人形を経由して魔法を撃つという試みを試していない。気を取り直して、再び〝視界共有〟を行う、
(今度は込める魔力量に気をつけないと……。)
俺は約20の魔力で作った魔力弾を思い浮かべる。すると、〝視界共有〟で見えていた潛の視界に白い球体が現れた。いうまでもなく魔力弾だ。
「よし!あとは、これに推進力を付与して……」
――――バシュン‼︎
「成功だ!やっぱり、人形経由の魔法はできたんだな!これが出来るとなるとこれからの魔法の幅が広がるぞ…。」
魔力弾は潛の目の前にある大樹を貫いて散開した。
貫かれた部分は見事に削れており、綺麗な空洞となっている。
「!……まてよ。これって……。」
俺はもう一度、潛の前に魔力弾を浮かべる。しかし、今度はその魔力弾の形状を変化させて先の尖った形にしてみる。
「うわ、結構難しいなコレ。…でもまだ許容範囲内だ。」
更に、魔力弾に回転を加えてみる。ギュイィンという音と共に高速回転を始めた魔力弾は周りの空気をも巻き込見始めた。この状態を維持するのはかなり難しい事なのだが、《人形作成》で魔力制御を鍛えてきた俺にとっては出来ないことではない。
俺はその状態で魔力弾を発射した。
発射された魔力弾は前方の木とその奥の木をも容易く貫通し、3本目の木に当たったところで散開した。
「…………えっぐぅ。」
同じ魔力消費で、さっきの2倍以上の威力が出たことに、素っ頓狂な声をあげる俺だが、この弾の真骨頂はそこではなかった。貫かれた木の裏を見てみると、魔力弾の射入口の大きさに比べて、射出口の大きさが桁違いに大きいのだ。これは魔力弾の高速回転によるもので、弾道状にあるものを巻き込んで挫滅させる事で、弾が木から出てゆく際に弾道状の組織も引きちぎる、というメカニズムになっている。前世でいうところのいわゆる弾丸と同じ仕組みだ。
「これは、護衛用魔法の域を超えてないか?」
まあ、作ってしまったものは仕方がない。この魔法があればゴブリン程度なら倒せるだろう。俺はそう思うことにして潛との接続を切った。
「セド様の加護で今回は何事もなくて良かったけど、いつまた危険な目にあうかわからないからね?だから、これから3日間はお外で遊ぶのは禁止。これはみんなの為を思っていっているからね?分かったかい?」
「「「「「はーい!」」」」」
…………どうしてこうなった……。
今俺たち孤児は食堂に座らされている。目の前にいるおじいちゃんはここの教会の神父様だ。神父様ってのはもっと偉そうな人間かと勝手に偏見を持っていたのだが、いざ蓋を開けてみるとここの神父様は優しそうな人だった。
俺たちが、ここに集められたのは神父が俺たちに伝えたいことがあると言ったからだ。
で、その内容がこれ。『外は危ないから3日間外出禁止令』だ。
いや危なくねぇよ‼︎それ引き起こしたの俺だから‼︎
と、切実に叫びたい気持ちを俺はなんとか抑え込む。
しかし、改めて3日間の束縛をくらうのは致命的だ。
『別にいつも通り、早朝と深夜に抜け出せばいいじゃん』と思ったそこのキミ。この話はそう簡単ではないのだよ。
というとも、外出禁止の3日間は教会に近衛騎士が泊まり込みで調査しに来るらしいのだ。調査内容は例の超常現象について。彼らはナベル侯爵から調査の他にも孤児の保護を命令されている様で、昼夜問わず、騎士のうち誰か一人は起きて、教会周囲を徘徊している状態が続くそうだ。
そう!すなわち、俺が教会を抜け出す隙が無い!
近衛騎士団は、正門の前にいる、俺の脱走に気づかない雇われの傭兵とは違い、正真正銘の精鋭部隊だ。俺程度が脱走を試みたところで、すぐに捕まってしまうだろう。
「3日か……。キツイ、キツ過ぎるぞ。」
だがしかし、これも自分が蒔いた種。この事態も俺の失態が招いた結果だ。大人しく我慢するしかあるまい。俺は、そう自分に言い聞かせる。
がしかし、検証ができないのは非常に、そう誠に残念な事だが、俺にはまだ潛がいることを忘れてはならない。我らがヒーロー潛くんは、いま森で待機させている。つまり!人形越しの狩りが可能という訳だ!
残念だったなぁ近衛騎士どもめ!貴様らの思惑は無惨にも俺と潛を前に砕け散った!
「ふふふ、ムハハハハハッ‼︎」
自分のことを奇怪の目で眺める子供を他所に、俺はひとり笑い続けるのだった。
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