第11話 sideガルムン②
「え、えぇぇぇ――‼︎ゴブリン25体にオーク5体を1人で⁉︎」
驚愕の声を上げたのは冒険者ギルド一番の美人受付嬢だ。切り取った耳を渡すと、再び彼女は目を見開いた。
現在俺は、森林捜索から帰ってきた所だ。元々は『黒い虎』の正体疑惑のあるブラックタイガーを狩りに出向いたわけだが、結局手掛かりすらも掴めずマズイと思っていた俺。
しかし、捜索の途中でオークを一撃で吹き飛ばす魔法を使う鼠の魔物と鉢合わせた。結局、ソイツは魔物を倒したっきり魔石だけを抉り出して帰っていったのだが、幸運にも魔物の耳は全て残っていたのだ!
おそらく、鼠の魔物は魔物の右耳が、人間界での討伐証明になる事を知らなかったのだろう。知っていても、わざわざ耳を切り取っていたかは怪しい所だが。
まあ、何にせよ俺は美味しい所だけをいただくことが出来たわけだ。ほら、その証拠に周囲の人々の目は俺に釘付けだ。ふん!酒くさいお前らとは違うのだよ!
「ど、どうやってこんなに……?」
「ふん!討伐したに決まっているだろう!」
「い、いえ、ですが貴方はCランク冒険者です。30体の魔物相手に1人で勝てるとは………。」
「は、はぁぁぁあ⁉︎っざけんじゃねぇ!討伐したって言ったらしたんだよ‼︎」
あ、やべ、俺のクールなキャラ付けが!
「ゲフンっ!失礼。だが、事実としてここに討伐証明があるだろう?それが何よりの証拠ではないか。」
「………そ、そうですね。では、討伐報酬の査定の方に入ります……。」
「ふん!それでいい。」
「ちょおぉぉっと待ったぁぁ――‼︎」
そう叫んで俺たちの間に入ってきたのは某中年男、ビルの奴だ。
「ラルちゃん!コレは流石におかしいぜ!Cランク冒険者のガルムンがこんな事出来るはずがないのはラルちゃんも知ってるだろう⁉︎」
ラルとは、この美人受付嬢の事だ。
「おいおいビル。前にも言っただろう?俺は実力を隠していただけさ。フフ……それともなんだ?嫉妬か?」
「……ッ!テメェ、どんな手を使った!こんな所業、Bランクにでもならねぇと出来ねぇはずだろうが!」
「本当に倒したんだがな(ふん!勘のいい奴だ。)」
冒険者はS、A、B、C、D、Eの6段階で表される。当然Sに近づくほどに冒険者としての実力は上がっていくのだが、ランクとランクの実力の差は必ずしも一定であるとは限らない。
代表的なのが、SとA、BとCの実力差だ。この二つは、ほかの階級同士の差と比べて圧倒的に大きな差が開いている。Cランク冒険者数人とBランク冒険者1人の実力が釣り合う事も珍しくないし、Sランク冒険者なんて、平均的なAランク冒険者十人が束になってかかったところで適当にあしらわれて終わりだ。
その観点においてCランク冒険者止まりのガルムンが、Bランク冒険者の依頼レベルの成果を易々と上げる事は極めて異様なのだ。
「嘘つくんじゃねぇ!そもそもお前は『黒い虎』の討伐に向かったのじゃないのか!」
ビルのその一言で再び周囲がざわついた。どうやら、『黒い虎』の噂は俺が思うよりずっと広がっていたようだな。
が、今は俺の株を上げるのに好都合だ。俺はここぞとばかりに言い放つ。
「ああ、『黒い虎』正体はブラックタイガーだったぞ。」
その言葉にざわつきは最高潮に達し、街の事を心配する声もチラホラと上がり始める。目の前のビルも目を見開いている。
そこを俺が畳み掛ける!
「まあ、俺が追い払ったがな。」
「「「「「「なっ⁉︎」」」」」」
勿論、嘘である。
「追い…払った……だと?」
「ああ。確かにあの漆黒の巨大と、爪は脅威だったがそれだけだな。俺の愛剣を鼻に突き刺してやったら、尻尾巻いて逃げていったよ。俺の溢れ出る存在感に怯えてだろうな、」
「そ、それは、本当……なんだな?」
「ああ、勿論だ。」
「本当に、マジで、信じてもいいんだよな?」
「しつこいな。コレくらい当たり前だ。」
ビルは俯いて肩を振るわせた後、周囲で聞き耳を立てている男達に向き―――
「お前らぁ!ブラックタイガーはもう居ない!ガルムン、いや!英雄ガルムンが追い払ったんだ‼︎コイツの実力は本物だった‼︎‼︎」
俺の事を自分から広めてくれるとは、中々いい仕事をしてくれるではないか。
「「「「ガールームン!ガールームン!ガールームン!」」」」
こうして、街の英雄ガルムンは誕生したのだった。
作者「ちなみに冒険者の6割はアンポンタンです。」
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