第2話 帰宅
「コツは掴んだから、一旦帰るか」
検証を終えた俺は帰宅することにした。ちなみにこの世界での俺は孤児として、教会で育てられているらしい。職業授与の儀は教会が、貯めた資金を使って受けさせてもらったのだ。教会と言っても、フィンレル教の様に世界規模で信仰されているわけではなく、セドと呼ばれる神を信仰する小規模なものだ。
しばらく歩くと俺の住む教会が見えてきた。真っ白な壁に幾つかの大きな窓がついている案外簡素なものだ。
教会の隣にある屋舎が、俺たち孤児の寝泊まりする建物だ。
「ただいま」
「あ、レヴィ!どこ行ってたの?」
屋舎の扉を開けると、目の前に現れたのはレイナさんであつた。左目の下にホクロのある、金髪のその女性は、我らが正義の執行者である。まあ、普通にシスターだ。
レイナは背の低い俺を見下ろし、睨みつける。
……背後にドス黒いオーラが見えるのは気のせいだろうか。きっとそうだ。うん。そうしておこう。
「一人で、外に行ってはいけないと何度言えば分かるのですか!外にいる魔物に食べられちゃっても知りませんよ?」
「それは嫌だなぁ」
俺は、前世の記憶が蘇る前のレヴィの話し方を真似して答える。
「何ですか、その他人事見たいな反応は!」
「でも、別に襲われていないし?ほら、無傷でしょ?」
「う……たまたまです!た、ま、た、ま!とにかく、これからはこんな真似しないでくださいね!」
「はーい」
レイナさんが怒っていたのは、俺が勝手に外に出たからだった。しかも、前世の記憶のない頃のレヴィも何度も外に出ているらしく、念入りに説教されてしまった。
「……で、一人で外に出て何をしていたんですか?」
レイナはため息をついた後に、俺に尋ねた。
「まあ、ちょっと風にあたりに」
「はぁ、風ですか…ところでレヴィの職業はどうでした?今日が職業授与の日だったはずですよ。」
「あー、なんか読めないんだよな。別言語なのかな?」
実は内容も使い方も知っているのだが、ここは黙っておくことにする。まして、『これは日本語です!』とか、言ってしまえば、『何で分かるの!?』と面倒なことになりかねない。
「!………ま、まあ、いずれ分かる時がきますよ!絶対!ええ、絶対に!だから、落ち込まないでこれからも頑張りましょう!」
「………?」
レイナさんは何かを察したらしく、すごい俺を褒めてくれた。
「じゃあ、部屋に戻るね。」
「ええ、食事の時間になったら呼びますから。」
俺は、レイナと言葉を交わして階段を登った。
この屋舎には、約六十人ほどの孤児が住んでいる。
屋舎は部屋が分かれていて、一部屋につき五人ほどの孤児が寝泊まりする。孤児を育てるのには当たり前だが、資金がかかる。いくら教会といえど孤児一人一人に部屋を与えられるほど裕福ではないのだ。
部屋の中には二段ベットが三つ程あって、壁沿いの棚には絵本や積み木などが雑に入れてあるくらいだ。
俺は自分の部屋の扉を開ける。
俺のベット、一番奥の一番下のベットに向かう。
周りには俺と同い年か、少し小さいか位の子供たちがいたが、俺が入ってきた瞬間、遊ぶ手を止めて俺の方を見た。その目には恐怖の念がこもっている様に思える。 まあ、当然といえば当然なのだが。
と言うのも、レヴィという少年はかなり怖いやつだったらしい。自分の遊んでいるおもちゃは遊び終わるまで誰にも渡さないし、取ろうとする奴には容赦なく睨みつける。暴力を振るったり、嫌がらせをしないだけマシだとは思うが、10歳にも満たない子供達にとっては十分脅威だったのだろう。そうしている間にも、孤児たちは俺の近くから退いていく。まったく、信頼関係の再構築は骨が折れそうだ。
ベットに座った俺は、今日の検証結果を紙に書き始める。もちろん日本語でだ。
「何を書いているの?」
「あ?」
あ、やっべ!書くのに夢中でむっちゃ怖い声が出てしまった!怖がられたかな。
「い、いや、何を書いているのかなぁ〜って!」
話しかけてきた子をよく見てみると、金髪の美少年だった。この子は確か………
「アレン•パラドス?」
「ええ!?覚えていてくれたの!?嬉しいなぁ〜。」
どうやらあっていた様だ。アレン•パラドス、俺の前に職業を授与された子で、
と言うか本当に今さらなのだが、孤児なのに苗字がわかるのは鑑定魔法というもののおかげらしい。まあ、名前からして相手のステータスを見れるってところだろう。
「えーと、何の用?」
俺は精一杯優しく尋ねる。
「僕の部屋はこことはかなり離れているんだけど、向こうにあった本が何処かに行っちゃったんだ。だから、各部屋を回っているんだよ。」
うーん。地味に答えになっていないなぁ。
「えー…で何で俺に話しかけたんだ?」
俺は精一杯優しく尋ねる。するとアレンは元気よく答える。
「君の書いているのか知りたいんだ!」
「見てみるか?」
「いいの?」
「おう。でも、多分読めないと思うぞ」
俺は紙をアレンに渡す。
「よ、読めない……。」
「だろ?まあ、具体的には言えないけど検証結果みたいなものが書いてある」
「へぇ、面白そう!僕も手伝っていい?」
「ためだ。俺一人でやる。」
「え〜!」
この子すごいな。周りの子たちは俺のことを恐れているっていうのにそんなのお構いなしだ。だから《聖騎士》の職業を貰えたのかもしれないな。
「ちょっとアレン!レヴィなんかと話して、いきなりどうしたの⁉︎」
すると、ひとりの女の子が俺たちの間に割って入り込んだ。真っ赤な髪で鋭い顔立ちの少女だった。
「先に行ってしまったから急いで追いついたら、アレンがレヴィと一緒にいるなんて、どう言う風の吹き回し?知ってる?レヴィは誰も寄せ付けない暴君として有名なの。」
「ええ⁉︎そうだったの?……でも別に彼は優しいよ?」
「そんなわけないじゃない。こいつは人の物を奪ったり、睨みつけたりして暴虐の限りを尽くしているのよ?そんな奴がいい奴なわけないわ。」
いや、奪ってはないぞ?少しおもちゃを独占しただけだ。
「ほら、ここの棚にも例の本は無かったから。次の部屋に行くわよ。」
「ええ〜。もうちょっとレヴィと話したいよぅ。」
「あー、また時間があったら話そうな」
「いいの⁉︎」
「おうよ。」
「ちょっとレヴィ!貴方みたいな害悪にアレンは触れさせないわ!」
子供の恋って奴なのかな。可愛いねぇ。
見た目は子供の俺も、中身は立派なおっさんなのだ。大人からの視点をまだ捨てきれないのは、これからレヴィとして生きていく中で解決してくれるだろう。
そんなこんなで、アレンは赤髪の少女に連れ去られ、俺は元の作業に戻るのだった。
あ、そう言えばアレンの前でレヴィのキャラ作るの忘れてた。……まあ、いいか。アレンは暴君だった頃のレヴィを知らなかった様だし、アレンにはこのままで話すとしよう。
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