第8話 sideガルムン
午前7時50分。ここは冒険者ギルド内の酒場。周囲には酒と汗の混じった様な異臭がくぐもり、防具を着たままの中年男性どもがくだらない事で盛り上がっている。
「くだらねぇ奴らだ。」
そう口走ったのは、回転式の椅子に腰掛け、カウンターに肘を突いている男。そう、俺である。
俺の名はガルムン•ガチカ。スーパー金髪美男子だ。
「まぁた言ってるよガルムンの奴、何がスーパー金髪美男子だ。せいぜい、ブスと比べてマシってほどだろ。」
俺の隣に座る中年男、ビルが呆れたように言う。その顔は俺を向いており、一瞬誰に言ったのか理解できなかった俺だが、その言葉が俺に向かって言われたのだと理解する。
「なるほど、俺があまりにもイケてすぎて、凡人中年おじさんのお前には理解できていないんだな。(はぁ⁉︎どう見たって俺はイケイケだろうがよ!)」
内心ではブチギレている俺だが、あくまでもクールなキャラを貫きつつ、諭す様に言い放つ。
「お前さー、俺はまだ26だ。中年と言うほどの年齢じゃねぇ。」
「ふん!知らんな。俺以外の男は全員中年だ。」
「子供は?」
「中年だ。」
「……中年の意味が分からなくなってくるぜ。」
目の前の酒を一口飲んだビルは、何かを思い出した様に口を開く。
「そういえば、『黒い虎』の噂知ってるか?」
「『黒い虎』?」
「おうよ。なんでも、夜、森に巨大な黒い毛皮を纏った虎が出るらしい。夜の薄暗い視界のこともあってか、ハッキリと姿を見た奴はいないみたいなんだけどよ。それでも、逃げ帰ってきた者の証言では、ラージキャットの突然変異種か、ブラックタイガーだって話も出ているみたいだぜ。」
「ブ、ブラックタイガー……。」
「流石に俺も、ブラックタイガーは誇張しすぎかと思っているんだがな。だってブラックタイガーはBランクの魔物だぜ?仮に居たとしてこの街の冒険者じゃあ討伐は不可能だ。」
ブラックタイガー、漆黒の毛皮に真っ赤な瞳をもつ体長4メートルほどの虎だ。冒険者ギルドの定める魔物階級の中ではBランクに指定されており、討伐には最低でも同じBランクの冒険者が数人必要だ。
「最近お前達が森に行くのを見かけないのはそのせいか。」
「ああ。誰だって自分の命は惜しいものだ。それは、冒険者だって変わらないのさ。」
「ふふふ。つまりは………ビビってるって事だろ?」
最近は、コイツらに馬鹿にされてばかりだった俺はここぞとばかりに、煽りに行く。
じゃあお前は怖くないのかって?勿論、怖いですが何か?
すると、ビルもイラっと来たのだろう。ドンッと言う音を立ててジョッキを置くと、こちらを向き直る。
「……じゃあお前はブラックタイガーを討伐できるのか⁉︎ああ⁉︎」
「ふん!出来るさ。」
出来ません。
「言いやがったな。じゃあ、今すぐ森に行って狩ってこいよ!出来るんだろ?Cランク冒険者様よう?」
「俺は普段は実力を隠しているのさ。本気を出した俺を前にして、ブラックタイガーは恐怖し、逃げ去るだろう。」
「証拠としてちゃんと狩ってくるんだよ!」
「やれやれ、これだから中年は……。」
「中年言うな‼︎」
「いいだろう。今すぐ狩ってきてあげよう。(どうせブラックタイガーじゃなくて、ただの黒いラージキャットでしょ。ラージキャットなら俺でも狩れるし、この勝負もろたで‼︎)」
そう楽観的な考えで、俺は剣を腰に据えてギルドを出ていった。
「全然見つからねぇじゃねぇか!」
誰もいない森の中で、俺は一人叫ぶ。
森に入って早一時間、通常種のラージキャットは見つかるのだが、黒いラージキャットは一向に見つからない。
「いやいや慌てるな俺。今日中に見つければいいんだ。」
焦っても仕方ないと思った俺は、脳を休めることに決める。
近くに巨木が生えていたので、その枝の一つに登る。地面に背をつけて寝転がると、虫が服の中に入る事があるのだ。その上、魔物にも襲われやすくなる。冒険者の知恵である。
どうせ時間はたっぷりとあるのだし、木の上に登って脳を休めるとしようと思い俺はゆっくりと目を閉じた。
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――――――――
―――――
「はっ⁉︎寝てしまっていた!」
少しボーっとするつもりが寝てしまっていた様だ。
「再開するか〜。めんどくさいな。なんであんな事言っちゃったんだろう。
自分の考えが甘かったことを実感しつつ、木から降りようとする。
「次はこの木を中心に、ぐるっと一周回ってみるとしよう。」
が、それはそもそも不可能というものだった。何故なら、この巨木から降りることすら出来ないのだから。
俺の目に入り込んできたのはら大量のゴブリンとオークの群れ。彼らが俺を逃さんとばかりに巨木を囲んでいる光景だった。
「…………………は?」
作者「sideは短くなりがちだよね」
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