第9話 なるしすと

 「見た感じ、ゴブリンが十数体とオークが5体ってところか…!まあ、潛のスペックならいけるだろ!」

俺は、魔物の群れに突っ込んでいく。

 人形が動かなくなる原因は主に3つある。

 一つ目は人形の核が破壊された時。手足が数本取れるとかなら、まだ問題なく動かせる(それでも動きの幅は落ちる)のだが、人形の要と言ってもいい核を破壊される様な攻撃を受けた時には、俺と人形との魔力回路が繋がらなくなるので動かせなくなるのだ。

 二つ目は、人形が原型を留めていない程に叩きのめされた時。核が無事で、俺との魔力回路が繋がっていても、命令の信号の伝わる末梢神経、即ち一本の太い魔力回路から伸びる極細の魔力線が機能していなければ意味がない。魔力線は、人形であっても生物の神経と同様に至る所に張り巡らされている。神経が絡まり合った状態では伝えたい命令も上手く伝わらないのだ。

 三つ目は俺と人形とを繋ぐ魔力回路に、何者かが意図的に別の回路を接続してきた時である。これにより、人形の制御権が『俺』から『別の回路を接続してきた人物』、または『俺とその人物の両方』に書き換えられる事になる。こうなって仕舞えば、他人の介入を許し、人形が自分の思い通りに動かなくなってしまう。まあ、それをする為には相手の魔力と自分の魔力の波を同調させる必要があるので、かなり難しい作業をこなす事になるだろうが。

 今の状況で、最もあり得るであろう不具合は二つ目の場合だろう。核周辺は念入りに魔力を込めて固めておいたので、ゴブリンやオーク如きに壊されることはない。それに、壊されたら壊されたでまた新しい部品を作ればいいので、そこまで危険視していないのも事実だ。

 だから、心置きなく突っ込んでいける。


 一番手前のゴブリンの懐に辿り着いた俺は、濳から魔力弾を発射する。直撃を喰らったゴブリンが破裂し、濳に内臓や血液が飛び散るが今は気にしない。

「「「ゴギャ⁉︎ギィヤ‼︎」」」

 付近のゴブリンが棍棒を振り下ろす。俺の存在に気づいたようだ。が、しかし濳には当たらない。

「濳の素早さを舐めてもらっては困るな!」

魔力弾で同時に三体のゴブリンを貫いた。

「やっぱり、出力を上げると反動でコッチも後退してしまうな。これは、改良しないと………な‼︎」

背後から迫り来るオークの頭を魔力弾で貫き、倒れたオークに巻き込まれたゴブリンもそのまま始末する。

 顔の半分が無くなったオークはなかなかにグロい。

「いくら魔力量が多くても一度に大量に魔力を消費すると疲れるんだな……。倦怠感がエゲツない。」


――――数十分後………。


 「やっと終わった……!」

俺は部屋の片隅で大きく伸びをした。魔力消費による倦怠感と濳の視点酔いで気持ち悪い。俺は吐きそうなのを抑えて再び濳を操縦する。どうしても、魔石の行方を確かめなければならないからだ。

「お願いします、マジであってください!無かったら俺の徹夜が水の泡に…!」

 濳は巨木の麓にある穴を進んでゆく。初めは暗いが、しばらくして目が慣れてきた俺は、目の前を見る。

「よ……良かった…!あった……ッ!」

魔石はしっかりと残っていた。特に傷もなく綺麗な様子を見ると、魔物達はまだ魔石の取り方を確立していなかったようだ。

「いや〜、本当に良かった。ここにある魔石だけで『ネズミ型人形』が20体は作れるからな……。ゴブリンが思いの外バカで良かったわ。」


 その後、魔石の安全を確認した俺は穴の外にいる魔物達の魔石も回収した。

「あ、あのー……。」

すると、突然上空から声が聞こえる。

「うわッ⁉︎」

驚いた俺は反射的に声の聞こえた方に魔力弾を向ける。

「ちょっ、待って待って!悪い奴じゃないから!殺さないでぇ!」

巨木の枝の上にで縮こまっていたのは、金髪の男だった。金髪であること以外、特に記述すべき点がない様なフツメンの男である。

誰だ?と思った俺は声を掛けようとするが、まだ濳にボイス機能がついていないことを思い出す。

(早くボイス機能付けないとな……。)

そんな事を考えていると、

「俺を助け……アッ…手伝ってくれたんだよな?ありがとう。」

男はさっきとは打って変わった様子で、木から降りて感謝をのべる。

「いや何、自分から動くのは面倒くさいのでな。魔物を集めてから一気に狩ろうとしていたんだ。」

さっき、『殺さないでぇ!』とか言ってなかったかコイツ?

「で、そこにお前が来たわけだ。」

動物相手に何話してんだ……と思いながら話を聞く俺。

「魔物を横取りした件については今回は許してやろう。俺は世界が認める絶世の美男子だからな!」

男はゴブリンとオークの耳を切りとってポーチに入れながら言う。

「ふん!ではな!」

そう言って背を向けたナルシスト男はゴブリンの血溜まりを避けながら帰ってゆく。

かっこよくなりたくてもなりきれていない可哀想な奴だな、と男の背に憐れみの目を向ける俺であった。




――――sideガルムン

「何んだよあのネズミはァ‼︎魔法使ってなかったか⁉︎」

「と言うかオークを貫通する魔法とか高度過ぎんだろ⁉︎B級冒険者でも無理じゃね?」

ネズミと離れた俺はひとり呟く。

「むふふふ、だが、あいつの倒した魔物の耳は切り取ってきた。コレがあれば俺は討伐報酬を受け取ることができる。そして、一人で数十体のゴブリンとオークを相手した英雄として、俺は持て囃される事間違いなしだ……!」

自分の戦果を堂々と横取りしようとするガルムンのゲスい思惑をレヴィはまだ知らない。



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る